We are the 6th platoon!／べにざくろ
最終更新：
g_a3b2c3o12 2020年09月22日(火) 20:24:02履歴
柔らかい風がビルの屋上に独り立つウルリッカの頬を撫でていく。心地良く感じる程度の風に思わず頬が緩んだ。
（ 良かった。射撃の邪魔にはならない風で ）
きっと山神様のおかげ、と神へ感謝を告げつつ、表情を引き締めて眼下に広がる人の気配のない街を見下ろす。ビルが多数建つ街は静まり返ってまるで廃墟のようだ。実際のところ、前線駆除班によって避難誘導されて小一時間ほど前に避難しているだけなのだけれども。
この街には数日前から機械人形を見掛けたとの目撃談があった。しかし、それは感染を免れた幸運な機械人形を見掛けただけの勘違いだったという報告もあり、住民のうっかり目撃談の一つとして埋もれていく情報だった。
それを情報の海からわざわざ掬い上げた男がいた。その名を、ユウヤミ・リーシェルという。
「 隊長!? 」
ウルリッカの無駄に良い視力の先、人のいない街に悠然とそのユウヤミが立っていた。明らかな丸腰で、その顔には微笑みすら浮かべて。
『 この情報は真実だと思うよ 』
そう言って第6小隊を率いて街まで来た男が、各自、身を潜めておくようにと命じた男が、何故か容易に人目につくところに身を晒している。常人ならば正気の沙汰ではない。
（ 隊長は何がしたいの……? ）
意図が分からずユウヤミを見つめていると、ウルリッカの視線に気付いたとでもいうのだろうか。ユウヤミがウルリッカのいるビルを見上げていた。ウルリッカの顔なんて見えるはずない距離なのに、不思議と視線はしっかりと合っている気がした。おまけに楽しそうに小さく手を振られる。こっちも振り返してあげようか、そんなことを考えた矢先だった。
（ 来た!! ）
野生の勘で視線をユウヤミの遥か先へ向けると、ウルリッカの目は彼へと向かう人型のモノを捉えた。そして、それがフルフェイスヘルメットを脱ぎ捨てると薄紫色の髪をしていることに気付いて眉間に皺が寄る。人間にあるまじき髪色は機械人形の証。それにしてもよりにもよって第6小隊の機械人形2人と被る髪色とは何とも気分が悪い。
（ ……でも、隊長は間違っていなかった ）
髪色はともかくとして機械人形が現れたことでユウヤミが掬い上げた情報が虚言ではなかったと証明されたことは第6小隊としては喜ばしいことだ。気を取り直して愛用の銃を構えると、ウルリッカは機械人形へ照準を合わせる。
（ エルドちゃん、行くよ ）
銃に語り掛けて引き金を引く。早々に、けれども冷静に狙い済まされた一撃は見事に機械人形の頭部を撃ち抜き、薄紫色が地に沈んだ。
そして、それを開戦の合図としたのかビルの影から今度は水色の髪をした機械人形が二体走り出てきた。今度の機械人形の方がユウヤミに近い。狙おうとして眉をひそめた。
（ あれは狙えない ）
射角がとれない位置にいる機械人形にウルリッカは無駄弾になると判断して銃を下ろす。ユウヤミに迫る機械人形だが、彼の心配をする気は毛頭なかった。
遠距離からの狙撃が無理なら、あとは近接戦を得意とする仲間たちに任せればいいのだから。
時間は少し巻き戻り、地上の話となる。
最初に１人佇むユウヤミを見たシリルの感想は「隊長ってば、楽しそうなコトしてるじゃない」だった。おそらく姿は見せていないがその近くにはヨダカが潜んでいるに違いないし、ユウヤミが簡単に殺られる人物ではないことをシリルは良く学習していた。
（ 煮ても焼いても食べられない人ってああいう人のコトを言うのよ ）
あいにくシリルには飲食をする機能がないのでそれを実践する日は来ないが、飲食できたとしてもユウヤミを食べるのは難しいだろうとは思う。でも、もしユウヤミを調理してもらうなら煮込みだろうか。それとも揚げ物？
とんでもない思考の海に飛び込みそうだったシリルを我に返したのはウルリッカの銃撃の音だった。一体、無事に仕留めたようだが、双子のような機械人形がユウヤミに迫る。
「 ……ゴー！ 」
潜んでいるエドゥアルトの声が聞こえたと思うと薄緑の風―――ガートが小柄な身体に不釣り合いな巨大な剣を手にユウヤミの前に躍り出た。そして、勢いそのままに大剣を水平に薙いで一体を吹き飛ばし地面に転がした。ガードはそれを獲物と定めたようで、二撃目を与えようとそちらへと向かってしまう。
（ もうっ、両方ヤッてくれて良かったのに ）
言葉とは裏腹に軽やかな動きでシリルは残った一体へ迫る。赤く光る目をした機械人形の顔に指をめり込ませるようにして掴むと頭を引きちぎろうとして―――面白いことを思いついた。
「 エドちゃーん! 」
「 エドゥだって!! 」
エドゥアルドをわざと「エド」と呼べば予測通りエドゥアルトが建物の影から顔を覗かせる。何て扱いやすい子なんだろう。
「 お願いねー！ 」
シリルはジタバタと手足を動かしていた機械人形を思いきりエドゥアルトに向かって放り投げた。「 うわあああ！ 」とか叫びながらもエドゥアルトは危なげなく手に持った傘から刀を抜き放ち、関節の間へ刃を滑り込ませてコードを断ち切ると機械人形を静止させる。
「 さっすが、エドちゃんね 」
「 だからエドゥだって!! 」
戦場らしからぬ会話を繰り広げていると、再び銃声が上がった。視線を音の方向へやれば、ガートが新しく現れた機械人形を剣で跳ね上げたところをウルリッカが撃ち抜いたところだった。地面に叩きつけられ動かなくなった機械人形へは何の興味も持たないガートは、それへは一瞥もくれず次に現れた獲物へと襲いかかる。どうやら、シリルが思っていたより今日の機械人形は多いらしい。
「 あら、今日は随分と出てくる日ね 」
「 一匹いたら百匹いると思えってやつだね 」
「 ヤダわ、隊長ったら。機械人形をゴキブリと一緒にしないでちょうだい 」
ユウヤミの言葉にツッコミながらもシリルは向かってきた機械人形の首を掴む。
「 はいっ、エドちゃん 」
「 エドゥだって! 」
そうして再びエドゥアルトに投げ付ける。そして、空いた手で次の機械人形を掴んだ。やることは決まっている。エドゥアルトへ投げ付けるだけだ。
「 エドちゃん! 」
「 エドゥ!! 」
「 エドちゃん! 」
「 違うって! 」
「 はい、エドゥちゃん! 」
「 違っ……合ってるしぃ!! 」
シリルが遊び感覚でエドゥアルトにちぎっては投げ、ちぎっては投げ、を繰り広げているうちに前線のガートによって動く機械人形は数を減らしていっていた。狂犬……いや、ガートには猫耳が付いているのだから狂猫と呼ぶべきか。恐るべきである。
そのガートの攻撃も躱し、シリルとエドゥアルトからも逃れ、ウルリッカの射程範囲にも入らなかった一体の機械人形がいた。桃色の髪に赤い目を光らせたそれは、他の素手であった機械人形とは違い、ナイフという凶器を持って唯一武器を持っていないユウヤミを弱者と判断したのか彼へと襲いかかっていった。
ナイフが振り上げられてもユウヤミは動かない。別に恐怖で足が動かない訳ではない。その証拠に顔に浮かぶのは朗らかな笑顔だ。
その笑顔に通常の思考が働く者なら行動を改めたことだろう。しかし、ギロク博士によってマトモな思考が失われた機械人形にはそこまでの知能は働かなかったようだ。だから、振り上げたナイフを振り下ろすことも出来ず、右耳への違和感を感じる前に行動を停止する羽目になった。
「 主人 。少しは働いたら如何です? 」
右耳のリセットボタンを押されて動かなくなった機械人形の後ろへ立っていたヨダカが心底呆れた声でユウヤミに言う。
「 心外だなぁ。しっかり囮の役目を務めたというのに 」
「 一歩も動かず何もしないだけなら誰でも出来ます 」
ヨダカは容赦なく言い放つが、戦場で丸腰で立ち続けるなんてことは狂人の域だ。一歩間違えれば死んでいる。
しかし、ユウヤミは全て計算して此処に立っていた。住民たちを予め避難させ、隊員たちに身を隠させて自分だけが立つことで“人間”に反応する機械人形を一網打尽にするために。
「 隊長、コレで終わりかしら? 」
「 おそらくね 」
ユウヤミの推定は第6小隊にとっては確定と同義で、それを聞いたエドゥアルトはガートを止めに走っていく。素早く小回りの利くガートに追いつくのは大変だろうが、エドゥアルトのスタミナには定評があるので何ら問題はないだろう。問題点は別のところにあった。
「 では、機械班には何と言い訳を? 」
「 うーん、そうだねぇ。やむを得なかったとでも言おうか 」
ウルリッカの銃撃で頭部に大きな損傷を負った機械人形に、ガートの大剣でボロボロになった機械人形、エドゥアルトの太刀筋は綺麗なので問題ないが、シリルによって顔や首が潰れた機械人形……それらを回収して整備する機械班からの苦情は必至だ。
「 隊長、怒られるの? 」
終わったことを空気で読み取り、ビルから下りてきたウルリッカが会話が聞こえたらしくヨダカに心配そうに問いかける。
「 大丈夫ですよ。この人は怒られるのが仕事ですから 」
「 ……それなら良い 」
「 私の仕事なのかなぁ、それは 」と言うユウヤミの言葉はヨダカの視線によって黙らされた。
「 何やってるん？ 終わったんなら、早う帰ろうや 」
そこへ戦闘モードを解除されたガートがエドゥアルトと戻ってきた。本当にガートは戦ってさえなければ可愛い猫耳メイドにしか見えない。
「 ガート 」
「 わ、何なん!? 」
ガートの愛らしさに負けてウルリッカが有無を言わさずガートを抱き締める。第6小隊のちっちゃいコンビがじゃれ合っている図は見る人が見れば微笑ましいことだろう。
ただし、それぞれが武器を、巨剣と巨銃を背負っていない場合に限るが。
「 あら、仲良しで良いわねー 」
その光景にシリルが笑う。
「 ワタシもエドゥちゃんでもハグしようかしら？ 」
「 いや、結構デス… 」
「 あら、残念だわ 」
目の前には人間と遜色ない機械人形の遺体がゴロゴロと転がっているのに、誰もそんなことは気にしないでお喋りに興じる。並の神経の者ではやっていけないイカれた部隊、それが第6小隊だ。
「 じゃあ、そろそろ帰ろうか 」
イカれた部隊の、最もイカれた男が、ユウヤミがそう言って飄々と歩き出す。
「 あ、ユウヤミ先輩待って下さい! 」
ユウヤミに静かに続くのはヨダカで、その後ろをエドゥアルトが忠犬の如く追った。
「 エドゥちゃん、ウチを置いてかんといて! 」
更にその後ろをウルリッカを力技で離したガートが続く。離されたウルリッカが無言でしょんぼりしているのを、シリルが笑いながら慰めてその後を歩いて行く。
―――この後、ヨダカの予想通り機械人形を回収した機械班からは文句の嵐だったが、ユウヤミはそれを軽くいなして今後も第6小隊は破壊活動に励むのであった。
（ 良かった。射撃の邪魔にはならない風で ）
きっと山神様のおかげ、と神へ感謝を告げつつ、表情を引き締めて眼下に広がる人の気配のない街を見下ろす。ビルが多数建つ街は静まり返ってまるで廃墟のようだ。実際のところ、前線駆除班によって避難誘導されて小一時間ほど前に避難しているだけなのだけれども。
この街には数日前から機械人形を見掛けたとの目撃談があった。しかし、それは感染を免れた幸運な機械人形を見掛けただけの勘違いだったという報告もあり、住民のうっかり目撃談の一つとして埋もれていく情報だった。
それを情報の海からわざわざ掬い上げた男がいた。その名を、ユウヤミ・リーシェルという。
「 隊長!? 」
ウルリッカの無駄に良い視力の先、人のいない街に悠然とそのユウヤミが立っていた。明らかな丸腰で、その顔には微笑みすら浮かべて。
『 この情報は真実だと思うよ 』
そう言って第6小隊を率いて街まで来た男が、各自、身を潜めておくようにと命じた男が、何故か容易に人目につくところに身を晒している。常人ならば正気の沙汰ではない。
（ 隊長は何がしたいの……? ）
意図が分からずユウヤミを見つめていると、ウルリッカの視線に気付いたとでもいうのだろうか。ユウヤミがウルリッカのいるビルを見上げていた。ウルリッカの顔なんて見えるはずない距離なのに、不思議と視線はしっかりと合っている気がした。おまけに楽しそうに小さく手を振られる。こっちも振り返してあげようか、そんなことを考えた矢先だった。
（ 来た!! ）
野生の勘で視線をユウヤミの遥か先へ向けると、ウルリッカの目は彼へと向かう人型のモノを捉えた。そして、それがフルフェイスヘルメットを脱ぎ捨てると薄紫色の髪をしていることに気付いて眉間に皺が寄る。人間にあるまじき髪色は機械人形の証。それにしてもよりにもよって第6小隊の機械人形2人と被る髪色とは何とも気分が悪い。
（ ……でも、隊長は間違っていなかった ）
髪色はともかくとして機械人形が現れたことでユウヤミが掬い上げた情報が虚言ではなかったと証明されたことは第6小隊としては喜ばしいことだ。気を取り直して愛用の銃を構えると、ウルリッカは機械人形へ照準を合わせる。
（ エルドちゃん、行くよ ）
銃に語り掛けて引き金を引く。早々に、けれども冷静に狙い済まされた一撃は見事に機械人形の頭部を撃ち抜き、薄紫色が地に沈んだ。
そして、それを開戦の合図としたのかビルの影から今度は水色の髪をした機械人形が二体走り出てきた。今度の機械人形の方がユウヤミに近い。狙おうとして眉をひそめた。
（ あれは狙えない ）
射角がとれない位置にいる機械人形にウルリッカは無駄弾になると判断して銃を下ろす。ユウヤミに迫る機械人形だが、彼の心配をする気は毛頭なかった。
遠距離からの狙撃が無理なら、あとは近接戦を得意とする仲間たちに任せればいいのだから。
時間は少し巻き戻り、地上の話となる。
最初に１人佇むユウヤミを見たシリルの感想は「隊長ってば、楽しそうなコトしてるじゃない」だった。おそらく姿は見せていないがその近くにはヨダカが潜んでいるに違いないし、ユウヤミが簡単に殺られる人物ではないことをシリルは良く学習していた。
（ 煮ても焼いても食べられない人ってああいう人のコトを言うのよ ）
あいにくシリルには飲食をする機能がないのでそれを実践する日は来ないが、飲食できたとしてもユウヤミを食べるのは難しいだろうとは思う。でも、もしユウヤミを調理してもらうなら煮込みだろうか。それとも揚げ物？
とんでもない思考の海に飛び込みそうだったシリルを我に返したのはウルリッカの銃撃の音だった。一体、無事に仕留めたようだが、双子のような機械人形がユウヤミに迫る。
「 ……ゴー！ 」
潜んでいるエドゥアルトの声が聞こえたと思うと薄緑の風―――ガートが小柄な身体に不釣り合いな巨大な剣を手にユウヤミの前に躍り出た。そして、勢いそのままに大剣を水平に薙いで一体を吹き飛ばし地面に転がした。ガードはそれを獲物と定めたようで、二撃目を与えようとそちらへと向かってしまう。
（ もうっ、両方ヤッてくれて良かったのに ）
言葉とは裏腹に軽やかな動きでシリルは残った一体へ迫る。赤く光る目をした機械人形の顔に指をめり込ませるようにして掴むと頭を引きちぎろうとして―――面白いことを思いついた。
「 エドちゃーん! 」
「 エドゥだって!! 」
エドゥアルドをわざと「エド」と呼べば予測通りエドゥアルトが建物の影から顔を覗かせる。何て扱いやすい子なんだろう。
「 お願いねー！ 」
シリルはジタバタと手足を動かしていた機械人形を思いきりエドゥアルトに向かって放り投げた。「 うわあああ！ 」とか叫びながらもエドゥアルトは危なげなく手に持った傘から刀を抜き放ち、関節の間へ刃を滑り込ませてコードを断ち切ると機械人形を静止させる。
「 さっすが、エドちゃんね 」
「 だからエドゥだって!! 」
戦場らしからぬ会話を繰り広げていると、再び銃声が上がった。視線を音の方向へやれば、ガートが新しく現れた機械人形を剣で跳ね上げたところをウルリッカが撃ち抜いたところだった。地面に叩きつけられ動かなくなった機械人形へは何の興味も持たないガートは、それへは一瞥もくれず次に現れた獲物へと襲いかかる。どうやら、シリルが思っていたより今日の機械人形は多いらしい。
「 あら、今日は随分と出てくる日ね 」
「 一匹いたら百匹いると思えってやつだね 」
「 ヤダわ、隊長ったら。機械人形をゴキブリと一緒にしないでちょうだい 」
ユウヤミの言葉にツッコミながらもシリルは向かってきた機械人形の首を掴む。
「 はいっ、エドちゃん 」
「 エドゥだって! 」
そうして再びエドゥアルトに投げ付ける。そして、空いた手で次の機械人形を掴んだ。やることは決まっている。エドゥアルトへ投げ付けるだけだ。
「 エドちゃん! 」
「 エドゥ!! 」
「 エドちゃん! 」
「 違うって! 」
「 はい、エドゥちゃん! 」
「 違っ……合ってるしぃ!! 」
シリルが遊び感覚でエドゥアルトにちぎっては投げ、ちぎっては投げ、を繰り広げているうちに前線のガートによって動く機械人形は数を減らしていっていた。狂犬……いや、ガートには猫耳が付いているのだから狂猫と呼ぶべきか。恐るべきである。
そのガートの攻撃も躱し、シリルとエドゥアルトからも逃れ、ウルリッカの射程範囲にも入らなかった一体の機械人形がいた。桃色の髪に赤い目を光らせたそれは、他の素手であった機械人形とは違い、ナイフという凶器を持って唯一武器を持っていないユウヤミを弱者と判断したのか彼へと襲いかかっていった。
ナイフが振り上げられてもユウヤミは動かない。別に恐怖で足が動かない訳ではない。その証拠に顔に浮かぶのは朗らかな笑顔だ。
その笑顔に通常の思考が働く者なら行動を改めたことだろう。しかし、ギロク博士によってマトモな思考が失われた機械人形にはそこまでの知能は働かなかったようだ。だから、振り上げたナイフを振り下ろすことも出来ず、右耳への違和感を感じる前に行動を停止する羽目になった。
「 主人 。少しは働いたら如何です? 」
右耳のリセットボタンを押されて動かなくなった機械人形の後ろへ立っていたヨダカが心底呆れた声でユウヤミに言う。
「 心外だなぁ。しっかり囮の役目を務めたというのに 」
「 一歩も動かず何もしないだけなら誰でも出来ます 」
ヨダカは容赦なく言い放つが、戦場で丸腰で立ち続けるなんてことは狂人の域だ。一歩間違えれば死んでいる。
しかし、ユウヤミは全て計算して此処に立っていた。住民たちを予め避難させ、隊員たちに身を隠させて自分だけが立つことで“人間”に反応する機械人形を一網打尽にするために。
「 隊長、コレで終わりかしら? 」
「 おそらくね 」
ユウヤミの推定は第6小隊にとっては確定と同義で、それを聞いたエドゥアルトはガートを止めに走っていく。素早く小回りの利くガートに追いつくのは大変だろうが、エドゥアルトのスタミナには定評があるので何ら問題はないだろう。問題点は別のところにあった。
「 では、機械班には何と言い訳を? 」
「 うーん、そうだねぇ。やむを得なかったとでも言おうか 」
ウルリッカの銃撃で頭部に大きな損傷を負った機械人形に、ガートの大剣でボロボロになった機械人形、エドゥアルトの太刀筋は綺麗なので問題ないが、シリルによって顔や首が潰れた機械人形……それらを回収して整備する機械班からの苦情は必至だ。
「 隊長、怒られるの? 」
終わったことを空気で読み取り、ビルから下りてきたウルリッカが会話が聞こえたらしくヨダカに心配そうに問いかける。
「 大丈夫ですよ。この人は怒られるのが仕事ですから 」
「 ……それなら良い 」
「 私の仕事なのかなぁ、それは 」と言うユウヤミの言葉はヨダカの視線によって黙らされた。
「 何やってるん？ 終わったんなら、早う帰ろうや 」
そこへ戦闘モードを解除されたガートがエドゥアルトと戻ってきた。本当にガートは戦ってさえなければ可愛い猫耳メイドにしか見えない。
「 ガート 」
「 わ、何なん!? 」
ガートの愛らしさに負けてウルリッカが有無を言わさずガートを抱き締める。第6小隊のちっちゃいコンビがじゃれ合っている図は見る人が見れば微笑ましいことだろう。
ただし、それぞれが武器を、巨剣と巨銃を背負っていない場合に限るが。
「 あら、仲良しで良いわねー 」
その光景にシリルが笑う。
「 ワタシもエドゥちゃんでもハグしようかしら？ 」
「 いや、結構デス… 」
「 あら、残念だわ 」
目の前には人間と遜色ない機械人形の遺体がゴロゴロと転がっているのに、誰もそんなことは気にしないでお喋りに興じる。並の神経の者ではやっていけないイカれた部隊、それが第6小隊だ。
「 じゃあ、そろそろ帰ろうか 」
イカれた部隊の、最もイカれた男が、ユウヤミがそう言って飄々と歩き出す。
「 あ、ユウヤミ先輩待って下さい! 」
ユウヤミに静かに続くのはヨダカで、その後ろをエドゥアルトが忠犬の如く追った。
「 エドゥちゃん、ウチを置いてかんといて! 」
更にその後ろをウルリッカを力技で離したガートが続く。離されたウルリッカが無言でしょんぼりしているのを、シリルが笑いながら慰めてその後を歩いて行く。
―――この後、ヨダカの予想通り機械人形を回収した機械班からは文句の嵐だったが、ユウヤミはそれを軽くいなして今後も第6小隊は破壊活動に励むのであった。
タグ
コメントをかく