カンテ30題��
最終更新：
g_a3b2c3o12 2023年08月20日(日) 13:04:27履歴
#カンテ30題のまとめ��
Day.11 鳥
自由の象徴――作・べに
鳩と人誑しとーー作・燐花
Day.12 夕立ち
夕立と雨宿りーー作・燐花
Day.13 氷
夏と言えば課題ーー作・燐花
凍れる君の視線が、ーー作・べに
Day.14 涙
あの子の涙ーー作・燐花
ぽろぽろ、とんとんーー作・べに
涙ーー作・燐花
Day.15 戦闘II
これも戦闘――作・べに
Day.16 孤立無縁
ひとり――作・べに
『味方なし』とはこの事よーー作・燐花
Day.17 裏切り
うらぎりものはゆるさない――作・べに
Day.18 ひまわり
ひまわりーー作・燐花
ひまわりのおもいで――作・べに
マナキノちゃん――作・べに
ヒギリちゃん――作・燐花
Day.19 思い出
おもいでをかたる――作・べに
オタク哀歌ーー作・燐花
Day.20 アイスクリーム
ミサキとロナの場合――作・涼風
ávöxturーー作・べに
Day.11 鳥 
空を自由に飛ぶ姿は自由の象徴となる。
焼いても美味しいそれは人々の希望となるか。
焼いても美味しいそれは人々の希望となるか。
自由の象徴――作・べに
鳥は自由で羨ましい。
中庭のベンチに座ってヴィニーは空を舞う鳥を茫と見つめていた。
尤も人間が勝手にそう思っているだけであって鳥自身は何も自由では無いのかもしれないが、ヴィニーは鳥では無いので彼らの気持ちを慮ることはできない。故に一方的な人間の視点から鳥は自由の象徴で羨ましい存在だと思うことにしている。
「何してるの？」
声をかけてきた人物に目を向けると、そこにいたのはウルリッカだった。
「鳥は良いなと思って見てたんだよ」
「うん、鳥は良いよね」
即答で同意してきたウルリッカに「おや」とヴィニーは片眉を上げる。
付き合いは浅いが彼女が自由人であることを理解する身としては、まさか同意されるとは思わなかった。
「お前でも鳥が良いと思うのか」
「思うよ」
真剣な顔でウルリッカは頷く。
「だって焼いても揚げてもおいしくて……」
ヴィニーの心の中で顎が外れた。そんなヴィニーの内心に気付くことなく、ウルリッカは普段の口数の少なさは何処に行ったんだという勢いで延々と鳥肉と鳥肉料理の素晴らしさについて語る。語る。語る。
「分かった。ウル、ストップ」
犬に「待て」をするように思わず手をかざしてウルリッカを制止する。何となく不満を顔に浮かべてウルリッカの黒い目がヴィニーを見た。黒目がちなウルリッカの目はヴィニーの祖国アケリアの「ブラック・アイド・キッズ」と呼ばれる不幸を招く都市伝説の子どもを彷彿とさせてヴィニーとしては少々苦手だ。少しだけウルリッカを直視しないようにしながら、ヴィニーは口を開く。
「そんなに言われると腹が減る」
自由の象徴としてヴィニーの心の中で羽ばたいていた鳥は鶏へと変わり、更にはフライドチキンへと姿を変えていた。
「今日の食堂のランチ、鳥肉だといいな」
ウルリッカも散々語って鳥肉を味わい気分になっていたのだろう。じゅるりと音でもさせて涎を啜るかのようなジェスチャーを見せる。
この日、意気揚々と食堂へ向かった２人が鳥肉を使ったランチがなく肩を落とすことになるのは、これから１時間後のことであった。
(Twitter)
中庭のベンチに座ってヴィニーは空を舞う鳥を茫と見つめていた。
尤も人間が勝手にそう思っているだけであって鳥自身は何も自由では無いのかもしれないが、ヴィニーは鳥では無いので彼らの気持ちを慮ることはできない。故に一方的な人間の視点から鳥は自由の象徴で羨ましい存在だと思うことにしている。
「何してるの？」
声をかけてきた人物に目を向けると、そこにいたのはウルリッカだった。
「鳥は良いなと思って見てたんだよ」
「うん、鳥は良いよね」
即答で同意してきたウルリッカに「おや」とヴィニーは片眉を上げる。
付き合いは浅いが彼女が自由人であることを理解する身としては、まさか同意されるとは思わなかった。
「お前でも鳥が良いと思うのか」
「思うよ」
真剣な顔でウルリッカは頷く。
「だって焼いても揚げてもおいしくて……」
ヴィニーの心の中で顎が外れた。そんなヴィニーの内心に気付くことなく、ウルリッカは普段の口数の少なさは何処に行ったんだという勢いで延々と鳥肉と鳥肉料理の素晴らしさについて語る。語る。語る。
「分かった。ウル、ストップ」
犬に「待て」をするように思わず手をかざしてウルリッカを制止する。何となく不満を顔に浮かべてウルリッカの黒い目がヴィニーを見た。黒目がちなウルリッカの目はヴィニーの祖国アケリアの「ブラック・アイド・キッズ」と呼ばれる不幸を招く都市伝説の子どもを彷彿とさせてヴィニーとしては少々苦手だ。少しだけウルリッカを直視しないようにしながら、ヴィニーは口を開く。
「そんなに言われると腹が減る」
自由の象徴としてヴィニーの心の中で羽ばたいていた鳥は鶏へと変わり、更にはフライドチキンへと姿を変えていた。
「今日の食堂のランチ、鳥肉だといいな」
ウルリッカも散々語って鳥肉を味わい気分になっていたのだろう。じゅるりと音でもさせて涎を啜るかのようなジェスチャーを見せる。
この日、意気揚々と食堂へ向かった２人が鳥肉を使ったランチがなく肩を落とすことになるのは、これから１時間後のことであった。
(Twitter)
鳩と人誑しとーー作・燐花
「今日はキジバトが二羽……ふふふふふ」
嬉しそうにヘレナは手にした獲物を眺めた。キジバトは見た目にも割と可愛らしい鳥だ。普段から肉は食べているからその子達もどこか自分の知らないところで屠殺され、そうして肉として目の前に現れるのだろうが、狩猟が趣味とは言えヘレナもそれを自分の手でする事に抵抗が無いわけではない。
しかし一方で己の手で獲物を獲った喜びもある。だからこそ、ヘレナは丁寧に解体し、そうして食べる時にはいつも以上に念入りに彼等に祈りを捧げてから食べる。
「ヘレナ？何をしているんだ？」
「うわぁぁぁぁあっ！！」
解体に没頭するヘレナ。そこに顔を出したのは、かつてヘレナが恋をした男性──ロナ・サオトメだった。
「サ、サオトメさん…！！」
「ん…？ああ、もしかして狩猟帰りか？」
「……そうですの」
どこを見てそう思ったのだろう？
山の中を歩き回ったからいつもよりボサボサに乱れてしまった髪の毛？泥の付いた洋服？
今好きなのは第六小隊長のユウヤミ・リーシェル。だからもうロナに対する想いは吹っ切れた筈なのだが、それでも気になるところは気になってしまう。
「お疲れ様。立派なハトだな」
「！？サオトメさん、分かるんですの！？」
「ああ、そっちの処理されてない子が思い切りキジバトの姿をしているから…」
そう言われてヘレナはハッと顔を赤くする。二羽獲ってきて一羽は解体、もう一羽はまだそのまま置いているのだからそれはそう推測出来るだろう。勝手に「分かるなんて同志だろうか！？」と期待した自分が少し恥ずかしくなりヘレナは解体を再開した。
「あ、サオトメさん大丈夫ですの？解体って…やっぱりショッキングですの」
「ん？ああ、それはそうだろうな。でも、うん。大丈夫だ」
「へぇー…もしサオトメさんが『猟なんて野蛮だー！』って言うタイプだったらどうしようかと思ってたですの」
「え？いや…そんなタイプではないが……ああ、だからヘレナはいつもそんな端っこで作業をしていたのか！」
ヘレナはその大きな茶色の目をぱちくりと瞬かせる。疑問と共に長いまつ毛がふわりと揺れた。そして、『あれは勘違いされても仕方ない。天然故の戦犯』と言っていたユリィの言葉を思い出していた。
「そうか…他の人に見せない様に配慮してここで解体作業していたんだな…もうちょっと屋内でしていても良かったろうに、風除けもないし冬は寒かっただろ？」
「た、確かに寒かったけど…でも、鳥とかは羽毛が飛び散りますの。だからどっちにしろ外で作業しなきゃですの」
「そうか…俺の想像以上にハンターと言うのは気配り上手な人が多いのか…だからヘレナは戦地でも気の遣い方が上手いんだろうな。いつもありがとう、本当に助かってるよ」
にこりと微笑むロナ。ヘレナは自分の顔が耳まで赤くなるのを感じながらタレを付けて切ったハトの身を串に刺した。
「は、は、は、ハトのレバーはやさしい味がしますの！クセがなく、食べやすいですの！」
そして焼き上げると、その串焼きのハトをロナに渡した。
「あ、あ、あげるですの！サオトメさんにも是非食べて欲しいですの！ビールもあるですの！」
普段好んで食べるカエルやヘビ、ネズミと違ってハトは鳥類な分見た目にも抵抗の無い人間が殆どだ。それに食材としてもポピュラーなものなので胃腸の弱そうなロナにも気兼ねなくお裾分け出来る。
「ははは。これは嬉しいな。じゃあ、御相伴に与ろうかな」
そう言って微笑むロナの笑顔が眩しくて、一瞬だけ結社に来たばかりの「ロナに憧れているヘレナ」に戻った気がした。
「……やっぱりこの優しさは罪ですの」
嬉しそうにヘレナは手にした獲物を眺めた。キジバトは見た目にも割と可愛らしい鳥だ。普段から肉は食べているからその子達もどこか自分の知らないところで屠殺され、そうして肉として目の前に現れるのだろうが、狩猟が趣味とは言えヘレナもそれを自分の手でする事に抵抗が無いわけではない。
しかし一方で己の手で獲物を獲った喜びもある。だからこそ、ヘレナは丁寧に解体し、そうして食べる時にはいつも以上に念入りに彼等に祈りを捧げてから食べる。
「ヘレナ？何をしているんだ？」
「うわぁぁぁぁあっ！！」
解体に没頭するヘレナ。そこに顔を出したのは、かつてヘレナが恋をした男性──ロナ・サオトメだった。
「サ、サオトメさん…！！」
「ん…？ああ、もしかして狩猟帰りか？」
「……そうですの」
どこを見てそう思ったのだろう？
山の中を歩き回ったからいつもよりボサボサに乱れてしまった髪の毛？泥の付いた洋服？
今好きなのは第六小隊長のユウヤミ・リーシェル。だからもうロナに対する想いは吹っ切れた筈なのだが、それでも気になるところは気になってしまう。
「お疲れ様。立派なハトだな」
「！？サオトメさん、分かるんですの！？」
「ああ、そっちの処理されてない子が思い切りキジバトの姿をしているから…」
そう言われてヘレナはハッと顔を赤くする。二羽獲ってきて一羽は解体、もう一羽はまだそのまま置いているのだからそれはそう推測出来るだろう。勝手に「分かるなんて同志だろうか！？」と期待した自分が少し恥ずかしくなりヘレナは解体を再開した。
「あ、サオトメさん大丈夫ですの？解体って…やっぱりショッキングですの」
「ん？ああ、それはそうだろうな。でも、うん。大丈夫だ」
「へぇー…もしサオトメさんが『猟なんて野蛮だー！』って言うタイプだったらどうしようかと思ってたですの」
「え？いや…そんなタイプではないが……ああ、だからヘレナはいつもそんな端っこで作業をしていたのか！」
ヘレナはその大きな茶色の目をぱちくりと瞬かせる。疑問と共に長いまつ毛がふわりと揺れた。そして、『あれは勘違いされても仕方ない。天然故の戦犯』と言っていたユリィの言葉を思い出していた。
「そうか…他の人に見せない様に配慮してここで解体作業していたんだな…もうちょっと屋内でしていても良かったろうに、風除けもないし冬は寒かっただろ？」
「た、確かに寒かったけど…でも、鳥とかは羽毛が飛び散りますの。だからどっちにしろ外で作業しなきゃですの」
「そうか…俺の想像以上にハンターと言うのは気配り上手な人が多いのか…だからヘレナは戦地でも気の遣い方が上手いんだろうな。いつもありがとう、本当に助かってるよ」
にこりと微笑むロナ。ヘレナは自分の顔が耳まで赤くなるのを感じながらタレを付けて切ったハトの身を串に刺した。
「は、は、は、ハトのレバーはやさしい味がしますの！クセがなく、食べやすいですの！」
そして焼き上げると、その串焼きのハトをロナに渡した。
「あ、あ、あげるですの！サオトメさんにも是非食べて欲しいですの！ビールもあるですの！」
普段好んで食べるカエルやヘビ、ネズミと違ってハトは鳥類な分見た目にも抵抗の無い人間が殆どだ。それに食材としてもポピュラーなものなので胃腸の弱そうなロナにも気兼ねなくお裾分け出来る。
「ははは。これは嬉しいな。じゃあ、御相伴に与ろうかな」
そう言って微笑むロナの笑顔が眩しくて、一瞬だけ結社に来たばかりの「ロナに憧れているヘレナ」に戻った気がした。
「……やっぱりこの優しさは罪ですの」
Day.12 夕立ち
夏の暑さを連れ去るのか、湿気を倍増させるのか。
雷の轟音に人は畏敬の念を抱く。
雷の轟音に人は畏敬の念を抱く。
夕立と雨宿りーー作・燐花
『おめでとうございます！今日一番ラッキーなのは乙女座のあなた！気になる人と急接近しちゃうかも！？ラッキーアイテムはタオルです！』
朝。可愛らしくハキハキした女性アナウンサーにテレビでそんな事を言われ、ロードは普段気にしない占いを気にし、普段興味も持たないラッキーアイテムを持って来た。しかし、特に何の変化もない一日を終えて帰るところで雲行きが怪しくなり、叩き付ける様な雨に遭ってしまう。慌てて屋根のあるところで雨宿りが出来た頃には髪の毛も学ランも絞れるくらいびしょ濡れになってしまっていた。
「ラッキーアイテムだけは当たってましたかねぇ」
まぁ、偶には占いに頼るのも面白いかもしれない。
そう思いながら髪を拭こうとタオルを取り出したその時、ロードは視界の端にずぶ濡れになったセーラー服を見た。
「………うふふ、おやおやおや」
「…げっ」
一つ下の学年の想い人。彼が今日一日会いたくて会いたくて堪らなかった彼女がそこに居た。
「ヴォイド、貴女に会えるなら雨に濡れる日も有りかもしれませんねぇ」
「じとじとして気持ち悪いし、私は雨になんて遭いたくなかった」
「うふふ、まぁ濡れてしまいますからねぇ。良かったらこのタオルを……」
そう言って持っていたタオルを使わずそのまま彼女に渡そうと近付く。しかし、すぐ隣に着いた時ロードは言葉を失った。
「……何？」
「あ、いえ……その…」
年齢の割に艶めかしい彼女の身体のラインが濡れた制服によって強調されていた。濡れて重みの増した制服は彼女の豊満な胸元に、冷えるのか少し内側に寄せた太腿に沿う様に張り付く。
布によって普段は見えないところがその布によって強調されている。ロードはごくりと生唾を飲んだ。ヴォイドはよく分からないと言う顔をしていたが、同じ学校の生徒であるロードはまだしも、周りにいる知らない男の視線も同時に感じ頭に更に疑問符を浮かべる。
「うふふ、そんなエロい格好見せられたら健全な思春期青年には堪りませんよねぇ」
「え？」
「周りに居合わせた男性達には悪いですが、これ以上無防備な貴女の姿を見せたくありませんので…」
そう言ってロードはふわりとタオルを被せ、わしゃわしゃと拭いてやった。
「ん、ちょっと…ロード、雑…」
「うふふ、多少雑にやった方が水気って取れてる気がしません？」
楽しそうに自分を拭くロードを見、ヴォイドもふっと微笑んだ。彼だってこんなにも濡れているのに、本当ならこのタオルで自分を拭く予定だったろうに簡単に人に譲ってしまうのだから。
「ロード、ありがと」
そうお礼を言うと、わなわなと震え出すロード。ふぅ、と大きく息を吐くと彼は後ろを指差した。
「うふふ。ここ、休憩二千五百イリらしいですよ」
「ん？」
「よく考えたら私も今正に健全な思春期青年真っ只中なんですよね、本当貴女のそのエロい姿は目に毒過ぎてむしろ薬です本当にありがとうございます今夜はよく眠れそうです、しかしながらせっかく何の運命かこんなところで一緒に雨宿りした仲なのですからこのまま一緒に休憩しません？うふふふふ」
ほぼ、一息に言った。
そんなロードの後ろに休憩二千五百イリ、宿泊五千イリの文字が見える。自分達が雨宿りしたのはラブホテルの下だと気付いたヴォイドは当たり前の様にロードを一人置いて帰った。
「私、未成年だもん」
「うふふふふではでは成人した時の楽しみとさせていただきますねうふふふふふふ！」
「うるさい」
(Twitter)
朝。可愛らしくハキハキした女性アナウンサーにテレビでそんな事を言われ、ロードは普段気にしない占いを気にし、普段興味も持たないラッキーアイテムを持って来た。しかし、特に何の変化もない一日を終えて帰るところで雲行きが怪しくなり、叩き付ける様な雨に遭ってしまう。慌てて屋根のあるところで雨宿りが出来た頃には髪の毛も学ランも絞れるくらいびしょ濡れになってしまっていた。
「ラッキーアイテムだけは当たってましたかねぇ」
まぁ、偶には占いに頼るのも面白いかもしれない。
そう思いながら髪を拭こうとタオルを取り出したその時、ロードは視界の端にずぶ濡れになったセーラー服を見た。
「………うふふ、おやおやおや」
「…げっ」
一つ下の学年の想い人。彼が今日一日会いたくて会いたくて堪らなかった彼女がそこに居た。
「ヴォイド、貴女に会えるなら雨に濡れる日も有りかもしれませんねぇ」
「じとじとして気持ち悪いし、私は雨になんて遭いたくなかった」
「うふふ、まぁ濡れてしまいますからねぇ。良かったらこのタオルを……」
そう言って持っていたタオルを使わずそのまま彼女に渡そうと近付く。しかし、すぐ隣に着いた時ロードは言葉を失った。
「……何？」
「あ、いえ……その…」
年齢の割に艶めかしい彼女の身体のラインが濡れた制服によって強調されていた。濡れて重みの増した制服は彼女の豊満な胸元に、冷えるのか少し内側に寄せた太腿に沿う様に張り付く。
布によって普段は見えないところがその布によって強調されている。ロードはごくりと生唾を飲んだ。ヴォイドはよく分からないと言う顔をしていたが、同じ学校の生徒であるロードはまだしも、周りにいる知らない男の視線も同時に感じ頭に更に疑問符を浮かべる。
「うふふ、そんなエロい格好見せられたら健全な思春期青年には堪りませんよねぇ」
「え？」
「周りに居合わせた男性達には悪いですが、これ以上無防備な貴女の姿を見せたくありませんので…」
そう言ってロードはふわりとタオルを被せ、わしゃわしゃと拭いてやった。
「ん、ちょっと…ロード、雑…」
「うふふ、多少雑にやった方が水気って取れてる気がしません？」
楽しそうに自分を拭くロードを見、ヴォイドもふっと微笑んだ。彼だってこんなにも濡れているのに、本当ならこのタオルで自分を拭く予定だったろうに簡単に人に譲ってしまうのだから。
「ロード、ありがと」
そうお礼を言うと、わなわなと震え出すロード。ふぅ、と大きく息を吐くと彼は後ろを指差した。
「うふふ。ここ、休憩二千五百イリらしいですよ」
「ん？」
「よく考えたら私も今正に健全な思春期青年真っ只中なんですよね、本当貴女のそのエロい姿は目に毒過ぎてむしろ薬です本当にありがとうございます今夜はよく眠れそうです、しかしながらせっかく何の運命かこんなところで一緒に雨宿りした仲なのですからこのまま一緒に休憩しません？うふふふふ」
ほぼ、一息に言った。
そんなロードの後ろに休憩二千五百イリ、宿泊五千イリの文字が見える。自分達が雨宿りしたのはラブホテルの下だと気付いたヴォイドは当たり前の様にロードを一人置いて帰った。
「私、未成年だもん」
「うふふふふではでは成人した時の楽しみとさせていただきますねうふふふふふふ！」
「うるさい」
(Twitter)
Day.13 氷
冷たい感触は人の温もりを奪い去る。
暑い日々には助け手になろうとも。
暑い日々には助け手になろうとも。
夏と言えば課題ーー作・燐花
それは夏の暑い日。シキやユーシンにくっ付いて食堂に着いてきたオルカはネリネに突拍子も無くこんな話をされた。
「人間というものは夏には『カダイ』をする生き物なのです」
「カダイー？」
「そうです。私の主人であったバルドヴィーノが言っていました。大人は関係無いけれど、特に私やオルカくらいの年代はやるものなのです」
「カダイって何するのー？」
「植物や動物の観察日記を付けたり、自由に色々レポートに纏めたりして良いみたいですよ」
「それがカダイ？何が楽しいの？」
「楽しい楽しく無いに関わらず努力義務としてそれをやるそうです。そうする事で子供の発想力を鍛えるとか何とか」
「ふーん。アンディもやるのかな？僕子供じゃ無いけどやってみよーっと」
人間は夏にはカダイをするものだとそう言われたオルカは何だから分からないままにそのカダイをやってみる事にした。何となく聞いていて面白そうだと思ったからだ。
「では、オルカがカダイを無事終えたら私が見てあげましょう」
「えー？何でネリネが見るのー？」
「私はお姉ちゃんですから」
「僕のがお姉ちゃん…いや、お兄ちゃんだもん！」
「そんな事ないです。設定年齢は私の方が上ですから」
「でも稼働年数は僕のが上だもん！」
そんな不毛なやりとりを繰り広げた数十分後にはオルカは食堂の隅でじっと目をこらしていた。手にはペンとメモを持ち、出入りする人間を見つめている。そして時折カリカリとペンを動かす。
次の日の朝には、オルカは堂々とそのメモをネリネに提出した。
・なる
ネビロス、ユーシン、ベルナール、アキヒロ、ギルバート、ウルリッカ、ゼン、エリック、シキ
・ならない
ロザリー、ヘレナ、アペルピシア、ビクター、ロード
「…何ですか？この『なる』『ならない』の表は…？」
「えっとねー、昨日かき氷食べててキーン！ってしてた人としてない人！」
「いや、科学的に確信持てないじゃないですか」
「だって頭抑えてたもん！」
「わかりました…では点数を発表します。この課題の点数は三十点です！！」
「何その絶妙な数字！？」
「かき氷食べての反応なんて基準が曖昧なものだからです！！やり直し！！」
「ネリネ厳しい！！」
しかし翌日、オルカは「体重急上昇！だけど幸せバターのレシピ！」と言う表紙で纏めたバターをふんだんに使ったレシピをネリネに提出し、無事満点をもらったのだった。
(Twitter)
「人間というものは夏には『カダイ』をする生き物なのです」
「カダイー？」
「そうです。私の主人であったバルドヴィーノが言っていました。大人は関係無いけれど、特に私やオルカくらいの年代はやるものなのです」
「カダイって何するのー？」
「植物や動物の観察日記を付けたり、自由に色々レポートに纏めたりして良いみたいですよ」
「それがカダイ？何が楽しいの？」
「楽しい楽しく無いに関わらず努力義務としてそれをやるそうです。そうする事で子供の発想力を鍛えるとか何とか」
「ふーん。アンディもやるのかな？僕子供じゃ無いけどやってみよーっと」
人間は夏にはカダイをするものだとそう言われたオルカは何だから分からないままにそのカダイをやってみる事にした。何となく聞いていて面白そうだと思ったからだ。
「では、オルカがカダイを無事終えたら私が見てあげましょう」
「えー？何でネリネが見るのー？」
「私はお姉ちゃんですから」
「僕のがお姉ちゃん…いや、お兄ちゃんだもん！」
「そんな事ないです。設定年齢は私の方が上ですから」
「でも稼働年数は僕のが上だもん！」
そんな不毛なやりとりを繰り広げた数十分後にはオルカは食堂の隅でじっと目をこらしていた。手にはペンとメモを持ち、出入りする人間を見つめている。そして時折カリカリとペンを動かす。
次の日の朝には、オルカは堂々とそのメモをネリネに提出した。
・なる
ネビロス、ユーシン、ベルナール、アキヒロ、ギルバート、ウルリッカ、ゼン、エリック、シキ
・ならない
ロザリー、ヘレナ、アペルピシア、ビクター、ロード
「…何ですか？この『なる』『ならない』の表は…？」
「えっとねー、昨日かき氷食べててキーン！ってしてた人としてない人！」
「いや、科学的に確信持てないじゃないですか」
「だって頭抑えてたもん！」
「わかりました…では点数を発表します。この課題の点数は三十点です！！」
「何その絶妙な数字！？」
「かき氷食べての反応なんて基準が曖昧なものだからです！！やり直し！！」
「ネリネ厳しい！！」
しかし翌日、オルカは「体重急上昇！だけど幸せバターのレシピ！」と言う表紙で纏めたバターをふんだんに使ったレシピをネリネに提出し、無事満点をもらったのだった。
(Twitter)
凍れる君の視線が、ーー作・べに
クイン・エリーズは優しいカウンセラーのお姉さんだ。
どっかの誰かは『眠た目おさげ』と言うけれど、眠たそうな目は色気を感じさせるものであるし、それでいて緩く編まれた三つ編みは彼女の身持ちの固さを感じさせる。
今日も今日とて彼女の姿を食堂で見付けたアルヴィはクインがヒギリから白スープのセットを受け取るのを後ろから見つめていた。
クインが振り向く。アルヴィの黒い目とクインの茶色い目の視線が合った。時間にして凡そ２秒。クインの眉がキュッと不快そうに寄った。
「一体どういうつもりの汚らわしい目でこっちを見てるの？」
冷ややかな氷の刃のような言葉が放たれて、たまたまクインの後ろに並んでいたために横を通ったエリックに聞こえてしまったのかギョッとした顔をする。しかし、彼は巻き込まれないように素早く立ち去って行った。賢明な判断だ。
「あ、申し訳ございません」
アルヴィは謝罪をする。謝罪をしているのに、何故かその顔は嬉しそうだった。
そんなアルヴィに凍れる視線を向けてからクインはさっさと去っていく。
恍惚とクインの背中を見送るアルヴィの肩をポンと叩く人物が一人。
「ファルクマンさん」
「君、何だってあんな眠た目おさげ貧乳暴力女を見つめていたんだ？ 聞いただろう、あの優しさを欠片も持ち合わせていない言葉を。彼女には関わらない方が身のためだ」
アルヴィの肩を叩いたのは呆れた顔をしたゼン・ファルクマンだった。第三小隊の裏方ともいえるゼンとは仕事の関係上、経理関係の会話をしたことがあるが、プライベートな話をした事はなくこのような場で話しかけられたのは初めてのことだ。
それにしても自分を案ずるようなゼンの言葉がアルヴィは引っかかった。
クインが誰にでも先程のような言葉を向けるわけではないのは、日頃の仕事振りの噂を聞いていれば分かる。それなのにゼンはクインに氷のような言葉をぶつけられているかのような言い草だ。それは、つまり。
「ファルクマンさんも、エリーズさんのファンなんですね！」
「は？」
「良いですよね、あの言い方。意思がしっかりしていて強い女性だなぁって感動してしまいます」
「あれに感動……？」
「ええ。今日は時間にして２０秒の会話でしたが、次はもっと長く言葉をいただけるように頑張りたいです」
アルヴィの言葉に唖然としていたゼンは解決策を求めようとアルヴィの後ろに静かに控えていた機械人形のシリルを見た。機械人形なのだからいくらでも表情は取り繕えるはずなのに、シリルは今にも噴き出して笑いそうな絶妙な表情を作っている。
あ、駄目だ。何の頼りにもならない。
ゼンは直ぐに悟った。
「ファルクマンさんは僕なんかよりも素敵な言葉を沢山聞いているような予感がします。良ければ聞かせて貰えませんか？」
いつもの『気弱な赤毛』要素はどこに行ったというのか。
アルヴィはグイグイとゼンを引っ張り食事を得ると、さっさと席を見付けて着席する。その隣に座ったシリルはもはや腹を抱えて声を殺して笑っている。おそらく人間だったら笑いすぎて目から涙が零れそうな程の笑いっぷりだ。
「さ、ファルクマンさん」
ブラック・アイド・キッズを彷彿とさせる目が期待を込めた光を湛えてゼンを見つめる。
ゼンは――敗けた。
「仕方ないから話すが、心に傷を負うなよ？」
そう言ってゼンは話し始めたものの。
過去にクインに言われた言葉を思い出す過程だけで心が傷付いたのに、更にはそれを他人に言わねばならないという拷問のような目に遭ったのはゼンの方であったのは言うまでもない。
(Twitter)
どっかの誰かは『眠た目おさげ』と言うけれど、眠たそうな目は色気を感じさせるものであるし、それでいて緩く編まれた三つ編みは彼女の身持ちの固さを感じさせる。
今日も今日とて彼女の姿を食堂で見付けたアルヴィはクインがヒギリから白スープのセットを受け取るのを後ろから見つめていた。
クインが振り向く。アルヴィの黒い目とクインの茶色い目の視線が合った。時間にして凡そ２秒。クインの眉がキュッと不快そうに寄った。
「一体どういうつもりの汚らわしい目でこっちを見てるの？」
冷ややかな氷の刃のような言葉が放たれて、たまたまクインの後ろに並んでいたために横を通ったエリックに聞こえてしまったのかギョッとした顔をする。しかし、彼は巻き込まれないように素早く立ち去って行った。賢明な判断だ。
「あ、申し訳ございません」
アルヴィは謝罪をする。謝罪をしているのに、何故かその顔は嬉しそうだった。
そんなアルヴィに凍れる視線を向けてからクインはさっさと去っていく。
恍惚とクインの背中を見送るアルヴィの肩をポンと叩く人物が一人。
「ファルクマンさん」
「君、何だってあんな眠た目おさげ貧乳暴力女を見つめていたんだ？ 聞いただろう、あの優しさを欠片も持ち合わせていない言葉を。彼女には関わらない方が身のためだ」
アルヴィの肩を叩いたのは呆れた顔をしたゼン・ファルクマンだった。第三小隊の裏方ともいえるゼンとは仕事の関係上、経理関係の会話をしたことがあるが、プライベートな話をした事はなくこのような場で話しかけられたのは初めてのことだ。
それにしても自分を案ずるようなゼンの言葉がアルヴィは引っかかった。
クインが誰にでも先程のような言葉を向けるわけではないのは、日頃の仕事振りの噂を聞いていれば分かる。それなのにゼンはクインに氷のような言葉をぶつけられているかのような言い草だ。それは、つまり。
「ファルクマンさんも、エリーズさんのファンなんですね！」
「は？」
「良いですよね、あの言い方。意思がしっかりしていて強い女性だなぁって感動してしまいます」
「あれに感動……？」
「ええ。今日は時間にして２０秒の会話でしたが、次はもっと長く言葉をいただけるように頑張りたいです」
アルヴィの言葉に唖然としていたゼンは解決策を求めようとアルヴィの後ろに静かに控えていた機械人形のシリルを見た。機械人形なのだからいくらでも表情は取り繕えるはずなのに、シリルは今にも噴き出して笑いそうな絶妙な表情を作っている。
あ、駄目だ。何の頼りにもならない。
ゼンは直ぐに悟った。
「ファルクマンさんは僕なんかよりも素敵な言葉を沢山聞いているような予感がします。良ければ聞かせて貰えませんか？」
いつもの『気弱な赤毛』要素はどこに行ったというのか。
アルヴィはグイグイとゼンを引っ張り食事を得ると、さっさと席を見付けて着席する。その隣に座ったシリルはもはや腹を抱えて声を殺して笑っている。おそらく人間だったら笑いすぎて目から涙が零れそうな程の笑いっぷりだ。
「さ、ファルクマンさん」
ブラック・アイド・キッズを彷彿とさせる目が期待を込めた光を湛えてゼンを見つめる。
ゼンは――敗けた。
「仕方ないから話すが、心に傷を負うなよ？」
そう言ってゼンは話し始めたものの。
過去にクインに言われた言葉を思い出す過程だけで心が傷付いたのに、更にはそれを他人に言わねばならないという拷問のような目に遭ったのはゼンの方であったのは言うまでもない。
(Twitter)
Day.14 涙
喜びの涙、悲しみの涙。
感情で涙を流すのは人間だけというが、機械人形はどうだろうか。
感情で涙を流すのは人間だけというが、機械人形はどうだろうか。
あの子の涙ーー作・燐花
『アンジェラ…君を一目見た瞬間俺の悩みは消えたよ』
『まぁ…！アレグナ、私もよ…！何もかも捨てて貴方と二人生活が出来たなら。私はどんなものより強く在れるわ』
男はダンスパーティーで初めて会った女と一目で相思相愛になり、そして女をそう口説いた。
ルーウィンはそんな恋愛劇が繰り広げられるスクリーンを据わった目で見、飲み物を飲むふりをしてストローを噛む事でこの居た堪れなさを誤魔化そうとするが上手くいかない。
前日、久しぶりにミアに声を掛けたら翌日の休みが被っており、おまけにその日はクロエと出掛けると言うのだ。ルー君もどう？と聞かれたのは渡りに船だった。休日のクロエを知れる好機だと思った。
そう思って意気込んできたものの、まだ今日知り得た情報は「クロエ・バートンは平日も休日も関係なくセーラー服を着る」と言う事だけだ。
おまけに今日はミアの趣味のラブロマンス映画を観るのがメインイベント。正直分かりやすいアクションが好きなルーウィンにとったらつまらない事この上なかった。昔からある古典的な悲劇の恋愛模様。敵対勢力に所属している若い男女がふとした弾みで出会い、恋仲になるものの抗争は激化。最終的にどちらかが、或いはどちらも死んで終わる。
全く、何故人は恋愛にまで殺伐とした空気を求めるのだ。そのくらい最初から最後まで楽しくあれよとルーウィンは思う。きっと作ってる人間もそれを求める人間も皆幸せなのだ。自分自身が今幸せだからフィクションでは悲恋を求めるのだ。
退屈だ。そんな事を思いながらルーウィンは右隣に座っているクロエの顔を盗み見る。好意を持っている女性がこのテの映画をどう思っているか気にはなった。
「……え…！？」
そしてルーウィンは絶句する。十中八九自分と同じつまらなそうな顔で見ていると踏んでいたクロエは、鼻を押さえ涙を流しながらスクリーンを見ていた。彼女はまさか、こう言う甘い言葉に弱いのか？
ルーウィンの頭の中で七三スーツの男とやたら背の高い男が似た様な甘い囁きをする妄想が繰り広げられた。背の高い男はともかく、少なくとも七三スーツの男は歯の浮く台詞が似合っており、どうしようもなく悔しくなった。
* * *
「クロエちゃん、大丈夫？」
映画が終わり、ミアは左隣の席のクロエに声を掛けた。ヒロインのアンジェラと主人公のアレグナが愛を囁いているシーンでクロエが泣いている様な気がしたからだ。
心配されたクロエは一瞬何の事か分からない様な顔をしたが、すぐに状況を把握し「ああ」と間の抜けた声を上げた。
「あれですか。いえ、別に」
「え？だってクロエちゃん、泣いてる様に見えたから…」
「ええ。映画のお供にと買ったホットドッグに暗がりでケチャップを掛けたつもりが、間違えてホットソース掛けてまして」
「え！？辛そう！」
「そうなんです。めちゃくちゃ辛かったんです。おまけにホットドッグに挟まれていたチョリソーも結構な辛さで、しかも私はケチャップを掛けてるものだと思っているので更にマスタードまで掛けていたもので」
「うわぁぁぁぁあ…！てっきりクロエちゃん、感動して泣いてたのかと…」
「私が？まさか。ミアみたく純粋な感性してませんし。そんな事より事態はもっと深刻でした。激辛が畳み掛けるホットドッグを大口で行ってしまったんですよ」
それを聞いてミアは少し考えた後、とびきりの笑顔で
「たまんないね！！」
と笑った。
ちなみに、この日まさかルーウィンにまで勘違いされているとは知らず、彼との会話でこの話題を出さなかった為に彼からの勘違いをもう少し引き摺る事になったのだった。
(Twitter)
『まぁ…！アレグナ、私もよ…！何もかも捨てて貴方と二人生活が出来たなら。私はどんなものより強く在れるわ』
男はダンスパーティーで初めて会った女と一目で相思相愛になり、そして女をそう口説いた。
ルーウィンはそんな恋愛劇が繰り広げられるスクリーンを据わった目で見、飲み物を飲むふりをしてストローを噛む事でこの居た堪れなさを誤魔化そうとするが上手くいかない。
前日、久しぶりにミアに声を掛けたら翌日の休みが被っており、おまけにその日はクロエと出掛けると言うのだ。ルー君もどう？と聞かれたのは渡りに船だった。休日のクロエを知れる好機だと思った。
そう思って意気込んできたものの、まだ今日知り得た情報は「クロエ・バートンは平日も休日も関係なくセーラー服を着る」と言う事だけだ。
おまけに今日はミアの趣味のラブロマンス映画を観るのがメインイベント。正直分かりやすいアクションが好きなルーウィンにとったらつまらない事この上なかった。昔からある古典的な悲劇の恋愛模様。敵対勢力に所属している若い男女がふとした弾みで出会い、恋仲になるものの抗争は激化。最終的にどちらかが、或いはどちらも死んで終わる。
全く、何故人は恋愛にまで殺伐とした空気を求めるのだ。そのくらい最初から最後まで楽しくあれよとルーウィンは思う。きっと作ってる人間もそれを求める人間も皆幸せなのだ。自分自身が今幸せだからフィクションでは悲恋を求めるのだ。
退屈だ。そんな事を思いながらルーウィンは右隣に座っているクロエの顔を盗み見る。好意を持っている女性がこのテの映画をどう思っているか気にはなった。
「……え…！？」
そしてルーウィンは絶句する。十中八九自分と同じつまらなそうな顔で見ていると踏んでいたクロエは、鼻を押さえ涙を流しながらスクリーンを見ていた。彼女はまさか、こう言う甘い言葉に弱いのか？
ルーウィンの頭の中で七三スーツの男とやたら背の高い男が似た様な甘い囁きをする妄想が繰り広げられた。背の高い男はともかく、少なくとも七三スーツの男は歯の浮く台詞が似合っており、どうしようもなく悔しくなった。
* * *
「クロエちゃん、大丈夫？」
映画が終わり、ミアは左隣の席のクロエに声を掛けた。ヒロインのアンジェラと主人公のアレグナが愛を囁いているシーンでクロエが泣いている様な気がしたからだ。
心配されたクロエは一瞬何の事か分からない様な顔をしたが、すぐに状況を把握し「ああ」と間の抜けた声を上げた。
「あれですか。いえ、別に」
「え？だってクロエちゃん、泣いてる様に見えたから…」
「ええ。映画のお供にと買ったホットドッグに暗がりでケチャップを掛けたつもりが、間違えてホットソース掛けてまして」
「え！？辛そう！」
「そうなんです。めちゃくちゃ辛かったんです。おまけにホットドッグに挟まれていたチョリソーも結構な辛さで、しかも私はケチャップを掛けてるものだと思っているので更にマスタードまで掛けていたもので」
「うわぁぁぁぁあ…！てっきりクロエちゃん、感動して泣いてたのかと…」
「私が？まさか。ミアみたく純粋な感性してませんし。そんな事より事態はもっと深刻でした。激辛が畳み掛けるホットドッグを大口で行ってしまったんですよ」
それを聞いてミアは少し考えた後、とびきりの笑顔で
「たまんないね！！」
と笑った。
ちなみに、この日まさかルーウィンにまで勘違いされているとは知らず、彼との会話でこの話題を出さなかった為に彼からの勘違いをもう少し引き摺る事になったのだった。
(Twitter)
ぽろぽろ、とんとんーー作・べに
ポロポロと、ヒギリが涙を零している。
トントンと、包丁が小気味良いリズムを沈んでいる。
「うう……」
手を動かしながらヒギリが涙が辛いのか小さく唸った。
「モナルダさん。代わります」
見かねてネリネはヒギリへ声をかける。
「大丈夫なんよ、後ちょっとだから。それに辛いからって他の人に任せるのは無責任すぎるかなって」
涙を零しながらもヒギリはネリネに心配をかけまいとニコリと笑う。
それは責任感が強く他人を思いやれるヒギリらしい優しい言葉だったが、ネリネは譲れなかった。
「タマネギの硫化アリルは機械人形には効きません」
間。
ヒギリが行っていたのはタマネギの微塵切りだった。
タマネギの細胞が壊れて発生した硫化アリルにより人間は涙を流す。
しかし、それは人間の話であって機械人形には関係無い話だ。
「そ、そうだよね！」
機械人形が精巧すぎて人間と同じように見すぎていたことに気付いたヒギリが顔を赤くする。
「じゃ、じゃあネリネちゃんにお願いしちゃおうかな！」
「承ります。とはいえ、行う前に気付いて頂くのが最善でしたが」
ヒギリから場所を譲られたネリネは、チクリと刺さるような事を言ってから彼女にしては珍しく口角を上げた。
「機械人形すら慮る優しさを持つモナルダさんは素敵です」
(Twitter)
トントンと、包丁が小気味良いリズムを沈んでいる。
「うう……」
手を動かしながらヒギリが涙が辛いのか小さく唸った。
「モナルダさん。代わります」
見かねてネリネはヒギリへ声をかける。
「大丈夫なんよ、後ちょっとだから。それに辛いからって他の人に任せるのは無責任すぎるかなって」
涙を零しながらもヒギリはネリネに心配をかけまいとニコリと笑う。
それは責任感が強く他人を思いやれるヒギリらしい優しい言葉だったが、ネリネは譲れなかった。
「タマネギの硫化アリルは機械人形には効きません」
間。
ヒギリが行っていたのはタマネギの微塵切りだった。
タマネギの細胞が壊れて発生した硫化アリルにより人間は涙を流す。
しかし、それは人間の話であって機械人形には関係無い話だ。
「そ、そうだよね！」
機械人形が精巧すぎて人間と同じように見すぎていたことに気付いたヒギリが顔を赤くする。
「じゃ、じゃあネリネちゃんにお願いしちゃおうかな！」
「承ります。とはいえ、行う前に気付いて頂くのが最善でしたが」
ヒギリから場所を譲られたネリネは、チクリと刺さるような事を言ってから彼女にしては珍しく口角を上げた。
「機械人形すら慮る優しさを持つモナルダさんは素敵です」
(Twitter)
涙ーー作・燐花
Day.15 戦闘II
戦いの火花は周囲へ飛び火する。
全てを飲み尽くす戦火はいつ消えるのか。
全てを飲み尽くす戦火はいつ消えるのか。
これも戦闘――作・べに
ロナ「業務スーパーマイルドが地域最安値だな。特に肉の値段が安くて漬け肉がお勧めだ。問題は量が多くて冷凍保存しないと使いきれない事だな。麦類も安くて助かるが、惣菜はそこまで美味しくない。結社の敷地から1番近い八百屋はナガーロ。野菜が安くて一人暮らしの味方だな。魚介も含めて大抵の物は揃っている」
結社新人「おー(感嘆の声)」
モブ1「あれ、何？」
モブ2「サオトメさんの地域のオススメショップ講座。その正確性に主婦の間ではサオトメさんは家計の神として崇められてるらしい」
――スーパーの特売は家計を仕切る人間の戦場。
(Twitter)
ロナ君のセリフは天然人誑しと赤い悪夢／涼風慈雨より。
結社新人「おー(感嘆の声)」
モブ1「あれ、何？」
モブ2「サオトメさんの地域のオススメショップ講座。その正確性に主婦の間ではサオトメさんは家計の神として崇められてるらしい」
――スーパーの特売は家計を仕切る人間の戦場。
(Twitter)
ロナ君のセリフは天然人誑しと赤い悪夢／涼風慈雨より。
Day.16 孤立無縁
見渡せど、味方はいない。
来るかわからぬ友軍を待つか、突撃するか、戦場から逃げるか。
来るかわからぬ友軍を待つか、突撃するか、戦場から逃げるか。
ひとり――作・べに
ああ、またやってしまった。
研究会で「素人質問で恐縮ですが〜」は禁句だと事前に電子世界で調べていたのに、気になる部分の質問に思わず枕詞のように使用してしまった。
「素人質問で恐縮ですが〜」
「聞き逃したのかもしれませんが〜」
「基本的な質問で恐縮ですが〜」
「私の知識不足が原因かと思いますが〜」
これは使ってはいけないと自分に言い聞かせたのに発表で気になるところがあって、ついつい質問してしまったのだ。
研究会終了後、他の学生達は友達と仲良く慰労に行っているのだろうが友達のいないアルヴィは独りぼっちで帰路につくだけだ。
集落ではない場所でアルヴィの鮮やかな赤毛は目立ち馬鹿にされる傾向があるのだから大人しくしていようと思うのだが、研究の場では知的好奇心が勝ってしまう。その結果が、この孤立無援状態だ。
――いつか仲間と会話が出来て、友人と呼べる人間が出来たらいいなぁ。
そんな願望を抱いたアルヴィの溜息は夏の髪と同じ色の空に溶けて消えた。
* * *
――と、思っていた時が僕にもありました。
アルヴィはラーメン屋のカウンターでしみじみと思いながらラーメン屋を啜っていた。
「カンテで国と同じ味食べられると思わなかった」
そう言って左脇でラーメンを啜るのは店を見つけてきたギャリーで。
「箸は簡単そうに見えて難しいな」
そう言って右脇でラーメンを啜るのは箸に苦戦しつつも、何故か優雅に見えるギルバートで。
髪の長い３人の男達はお揃いに髪を縛ってラーメンを啜る。
会社の同僚(友達という勇気はまだアルヴィにはない)とラーメン。
幸せだなぁ。
「ん？ アルヴィ、幸せそうな顔してるけど気に入った？ そしたらまた来ようか」
「ええ、是非」
「次はもっと箸を上手く使えるように練習しないとな」
「それはギルバートだけでしょ」
「何だとギャリー！」
「お店なんで！ お静かにっ！」
(Twitter)
研究会で「素人質問で恐縮ですが〜」は禁句だと事前に電子世界で調べていたのに、気になる部分の質問に思わず枕詞のように使用してしまった。
「素人質問で恐縮ですが〜」
「聞き逃したのかもしれませんが〜」
「基本的な質問で恐縮ですが〜」
「私の知識不足が原因かと思いますが〜」
これは使ってはいけないと自分に言い聞かせたのに発表で気になるところがあって、ついつい質問してしまったのだ。
研究会終了後、他の学生達は友達と仲良く慰労に行っているのだろうが友達のいないアルヴィは独りぼっちで帰路につくだけだ。
集落ではない場所でアルヴィの鮮やかな赤毛は目立ち馬鹿にされる傾向があるのだから大人しくしていようと思うのだが、研究の場では知的好奇心が勝ってしまう。その結果が、この孤立無援状態だ。
――いつか仲間と会話が出来て、友人と呼べる人間が出来たらいいなぁ。
そんな願望を抱いたアルヴィの溜息は夏の髪と同じ色の空に溶けて消えた。
* * *
――と、思っていた時が僕にもありました。
アルヴィはラーメン屋のカウンターでしみじみと思いながらラーメン屋を啜っていた。
「カンテで国と同じ味食べられると思わなかった」
そう言って左脇でラーメンを啜るのは店を見つけてきたギャリーで。
「箸は簡単そうに見えて難しいな」
そう言って右脇でラーメンを啜るのは箸に苦戦しつつも、何故か優雅に見えるギルバートで。
髪の長い３人の男達はお揃いに髪を縛ってラーメンを啜る。
会社の同僚(友達という勇気はまだアルヴィにはない)とラーメン。
幸せだなぁ。
「ん？ アルヴィ、幸せそうな顔してるけど気に入った？ そしたらまた来ようか」
「ええ、是非」
「次はもっと箸を上手く使えるように練習しないとな」
「それはギルバートだけでしょ」
「何だとギャリー！」
「お店なんで！ お静かにっ！」
(Twitter)
『味方なし』とはこの事よーー作・燐花
「はーい！こっち向いてー！うん！二人とも良い感じ…ってヴォイドさんちょっと！寝ないの！」
「…え？終わりじゃないの？」
「まだまだ！こんなものじゃ足りないわ！！」
──せっかくだからファッション誌みたいな結社の広告作りましょうよ！
そんなゲンジの思い付きでこの撮影は始まった。目の前にはメイク兼カメラマンとして動き回っているゲンジ。隣には兎頭の伝統ドレスをセクシーに着こなすヴォイド。そんなヴォイドの隣でまさかの絡みの様なポーズで居座っていたギャリーは一瞬だけ顔を緩ませた。
「こら！！ガリちゃん！！何『役得役得』みたいな顔してんのよ！？真面目な顔しなさい！！」
「は、はいっ！！」
ゲンジには心の中が読めるのだろうか。
ギャリーは心頭滅却するとゲンジの指示通りポーズを取ってみる。しかし、彼女に指示されたヴォイドがギャリーに跨り、視界いっぱいにカヌル山が広がるとギャリーの顔はまた緩んでしまう。
「……こらぁ！！ガリちゃん！！また変な顔して！！アンタ顔しか良いとこ無いんだからそれ活かさないでどうすんのよ！？」
「ちょっとちょっとゲンちゃん！？口が過ぎるけど！？」
「全くもう…！ヴォイドさんが硬いのはしょうがないけどガリちゃんのヘラヘラした顔何！？顔洗ってきなさいよ！！」
プロは仕事に熱が入ると厳しいとは言うが、幼馴染で勝手知ったる間柄だからか彼女のギャリーへの厳しさは群を抜いていた。
休憩のコールが入る頃にはギャリーはぐったりして天を仰いでいた。照明が眩しい。
「ギャリー、大丈夫？」
「ああ…ヴォイドちゃんありがと。ってか、その体勢辛くない？」
仰向けに崩した体勢のギャリーに四つん這いに跨る体勢のヴォイドは、休憩に入ったのだから自分も崩せば良いのに律儀にポーズを守り続けていた。理由があるとすれば、ゲンジの異様なポーズへの執着だろう。ミリ単位で高さを変えて何度もチェックをするので、むしろこのまま動かない方が早く終わると踏んだ様だ。しかし、その気持ちが表に出ているのか緊張で既にガチガチになっている。
「どれ…」
ギャリーはヴォイドの体の下からするりと抜けると彼女のポーズを見てみる。確かに何というか、自然体の綺麗な四つん這いとか、そんなポーズから醸し出されるほのかなエロスとか、そう言うのではなくて、何と言うか。
「…固くし過ぎたところてんみてぇ」
「トコ…！？」
「そんなところてんから醸し出されるほのかな酢味噌って感じ…」
ギャリーは疲れていたが故に喩えが失礼だった。
「す、スミソ…！？美味しいの？それ…」
「美味いよ」
最早何の話をしているやら。
しかしその時ピンと来たギャリーはヴォイドの腰を抱くとくるりと彼女をひっくり返し先程までと上下逆転させてしまう。上に居た女性を逆に組み敷き直す彼の慣れた感じにヴォイドはいつものただ包子をくれる彼と違う顔を見た気がした。
「ギャリー…？」
「今度俺が上になってみようかと思って。いやー、この体勢で待った掛けるってゲンちゃん鬼だね！肩痛ぇ！」
そう言いながらヴォイドの顔に掛かる髪の毛を指でついと払ってやる。横になって力が抜けたのかヴォイドの険しい顔が少し柔らかくなっていた。
「…やっぱ女の子は眉間に皺なんて寄せちゃいけねぇや。よし！俺も集中するぞ！さっさとゲンちゃん納得させて終わらせて、美味いところてんでも食おうぜ」
「トコロテンて美味しいの？」
「ところてんは黒蜜掛けても美味いんだよ。俺そっちのが好きなんだ」
何故かところてん談義に花が咲いたところでゲンジが戻ってくる。やたらとキラキラした顔を見て嫌な予感を抱いたギャリーは彼女の後ろから現れた人物の姿を見て固まった。
「ガリちゃんがあまりにも不真面目だから手伝いに来てもらったわよ！お二人ともありがとう！」
「いいえ、ゲンジさんの為ならセリカお手伝いしますよぅ」
「うふふふ、私も。普段中々見る機会の無い仕事の現場に足を運べるなんて面白いですからね」
先日巻かれた『浮気者』の札付きの赤い縄を持ってにこやかながら怒りが透けて見えるセリカ。そしてゲンジから詳細を聞いたのであろう、飛び入り参加したらしきロードからは何故かどす黒い空気を感じる。
「ありがとう！もー、ガリちゃんてば本当やる気ないんだから喝入れてもらわないとね！」
ゲンジだけが嬉しそうに笑っている。ヴォイドは最早美味しいところてん以外眼中にない。
果たしてこの二人を前に自分は生きて帰れるのか。そう思ったギャリーは頭の中で色々と考えを巡らせる。
何とか、何とか生き残る道を…！！
そしてギャリーは閃き、「あっ！」と声を上げた。
「ゲンちゃんゲンちゃん！別にさ、絡みなくて良くない！？」
「えー…？」
「言うてやっぱ俺ら素人だし！絡みみたいな撮影なんてさ、やっぱほら気恥ずかしいってか不自然ってか…これが付き合ってる者同士ならまだしも俺とヴォイドちゃんは一切！何の関係も！無いからね！？」
セリカに対しては「浮気心はありません」を、ロードに対しては「彼女に手は出してません」を強調する様に言葉を強める。そして納得し掛けているゲンジに更に押し進めた。
「…そう！付き合ってる者同士なら良いじゃん！その方が自然だって！絶対！」
「うふふふ、では私とヴォイドで──」
「──ふざけんなお前じゃねぇよ！と言うわけで俺セリカちゃんなら絡みでも何でも撮れるよ！」
「えええ！？セリカですかぁ！？」
まさかの巻き添えを食ったセリカは柄にもなく大声を上げる。ヴォイドは付けていたヘアアクセサリーを外すとセリカに近付き、彼女の頭に添えた。
「うん、似合う。ギャリーもこう言うしセリカでいいんじゃ無い？」
「ホロウさん！？」
「そ、そんなヴォイド！一緒に撮りましょう！是非に！！」
「何でだよ。私、もう疲れたし」
人前にも関わらず羞恥心が無いのかドレスを脱ぎ始めてしまうヴォイドを必死に止めながら、真っ赤な顔のセリカはやっと悲痛な一言を絞り出した。
「だっっっっっ…！駄目ですぅぅぅぅうっ！！」
結果。
セリカは頑としてドレス着用を拒否、ロードが出て来てもヴォイドが最早乗り気で無い。なので後少しだけ我慢してもらい、スリットの美しさを損なわないポーズとして少し斜めに向いたポーズで横に並ぶと言う妥協点を見付けたヴォイドとギャリーをゲンジはカメラに収めた。
「まあ、演者を疲れさせないやり方もスタッフには必要よね！良い勉強になったわ！ありがとう皆！ちなみにこれ、別に本採用されて使うかどうかもそもそも結社さんの広告出すかどうかも一切未定なの！！」
「嘘だろおい！ゲンちゃん！！」
ゲンジが笑顔でそれはそれは恐ろしいことを言ったところでこの撮影はお開きとなる。
「…え？終わりじゃないの？」
「まだまだ！こんなものじゃ足りないわ！！」
──せっかくだからファッション誌みたいな結社の広告作りましょうよ！
そんなゲンジの思い付きでこの撮影は始まった。目の前にはメイク兼カメラマンとして動き回っているゲンジ。隣には兎頭の伝統ドレスをセクシーに着こなすヴォイド。そんなヴォイドの隣でまさかの絡みの様なポーズで居座っていたギャリーは一瞬だけ顔を緩ませた。
「こら！！ガリちゃん！！何『役得役得』みたいな顔してんのよ！？真面目な顔しなさい！！」
「は、はいっ！！」
ゲンジには心の中が読めるのだろうか。
ギャリーは心頭滅却するとゲンジの指示通りポーズを取ってみる。しかし、彼女に指示されたヴォイドがギャリーに跨り、視界いっぱいにカヌル山が広がるとギャリーの顔はまた緩んでしまう。
「……こらぁ！！ガリちゃん！！また変な顔して！！アンタ顔しか良いとこ無いんだからそれ活かさないでどうすんのよ！？」
「ちょっとちょっとゲンちゃん！？口が過ぎるけど！？」
「全くもう…！ヴォイドさんが硬いのはしょうがないけどガリちゃんのヘラヘラした顔何！？顔洗ってきなさいよ！！」
プロは仕事に熱が入ると厳しいとは言うが、幼馴染で勝手知ったる間柄だからか彼女のギャリーへの厳しさは群を抜いていた。
休憩のコールが入る頃にはギャリーはぐったりして天を仰いでいた。照明が眩しい。
「ギャリー、大丈夫？」
「ああ…ヴォイドちゃんありがと。ってか、その体勢辛くない？」
仰向けに崩した体勢のギャリーに四つん這いに跨る体勢のヴォイドは、休憩に入ったのだから自分も崩せば良いのに律儀にポーズを守り続けていた。理由があるとすれば、ゲンジの異様なポーズへの執着だろう。ミリ単位で高さを変えて何度もチェックをするので、むしろこのまま動かない方が早く終わると踏んだ様だ。しかし、その気持ちが表に出ているのか緊張で既にガチガチになっている。
「どれ…」
ギャリーはヴォイドの体の下からするりと抜けると彼女のポーズを見てみる。確かに何というか、自然体の綺麗な四つん這いとか、そんなポーズから醸し出されるほのかなエロスとか、そう言うのではなくて、何と言うか。
「…固くし過ぎたところてんみてぇ」
「トコ…！？」
「そんなところてんから醸し出されるほのかな酢味噌って感じ…」
ギャリーは疲れていたが故に喩えが失礼だった。
「す、スミソ…！？美味しいの？それ…」
「美味いよ」
最早何の話をしているやら。
しかしその時ピンと来たギャリーはヴォイドの腰を抱くとくるりと彼女をひっくり返し先程までと上下逆転させてしまう。上に居た女性を逆に組み敷き直す彼の慣れた感じにヴォイドはいつものただ包子をくれる彼と違う顔を見た気がした。
「ギャリー…？」
「今度俺が上になってみようかと思って。いやー、この体勢で待った掛けるってゲンちゃん鬼だね！肩痛ぇ！」
そう言いながらヴォイドの顔に掛かる髪の毛を指でついと払ってやる。横になって力が抜けたのかヴォイドの険しい顔が少し柔らかくなっていた。
「…やっぱ女の子は眉間に皺なんて寄せちゃいけねぇや。よし！俺も集中するぞ！さっさとゲンちゃん納得させて終わらせて、美味いところてんでも食おうぜ」
「トコロテンて美味しいの？」
「ところてんは黒蜜掛けても美味いんだよ。俺そっちのが好きなんだ」
何故かところてん談義に花が咲いたところでゲンジが戻ってくる。やたらとキラキラした顔を見て嫌な予感を抱いたギャリーは彼女の後ろから現れた人物の姿を見て固まった。
「ガリちゃんがあまりにも不真面目だから手伝いに来てもらったわよ！お二人ともありがとう！」
「いいえ、ゲンジさんの為ならセリカお手伝いしますよぅ」
「うふふふ、私も。普段中々見る機会の無い仕事の現場に足を運べるなんて面白いですからね」
先日巻かれた『浮気者』の札付きの赤い縄を持ってにこやかながら怒りが透けて見えるセリカ。そしてゲンジから詳細を聞いたのであろう、飛び入り参加したらしきロードからは何故かどす黒い空気を感じる。
「ありがとう！もー、ガリちゃんてば本当やる気ないんだから喝入れてもらわないとね！」
ゲンジだけが嬉しそうに笑っている。ヴォイドは最早美味しいところてん以外眼中にない。
果たしてこの二人を前に自分は生きて帰れるのか。そう思ったギャリーは頭の中で色々と考えを巡らせる。
何とか、何とか生き残る道を…！！
そしてギャリーは閃き、「あっ！」と声を上げた。
「ゲンちゃんゲンちゃん！別にさ、絡みなくて良くない！？」
「えー…？」
「言うてやっぱ俺ら素人だし！絡みみたいな撮影なんてさ、やっぱほら気恥ずかしいってか不自然ってか…これが付き合ってる者同士ならまだしも俺とヴォイドちゃんは一切！何の関係も！無いからね！？」
セリカに対しては「浮気心はありません」を、ロードに対しては「彼女に手は出してません」を強調する様に言葉を強める。そして納得し掛けているゲンジに更に押し進めた。
「…そう！付き合ってる者同士なら良いじゃん！その方が自然だって！絶対！」
「うふふふ、では私とヴォイドで──」
「──ふざけんなお前じゃねぇよ！と言うわけで俺セリカちゃんなら絡みでも何でも撮れるよ！」
「えええ！？セリカですかぁ！？」
まさかの巻き添えを食ったセリカは柄にもなく大声を上げる。ヴォイドは付けていたヘアアクセサリーを外すとセリカに近付き、彼女の頭に添えた。
「うん、似合う。ギャリーもこう言うしセリカでいいんじゃ無い？」
「ホロウさん！？」
「そ、そんなヴォイド！一緒に撮りましょう！是非に！！」
「何でだよ。私、もう疲れたし」
人前にも関わらず羞恥心が無いのかドレスを脱ぎ始めてしまうヴォイドを必死に止めながら、真っ赤な顔のセリカはやっと悲痛な一言を絞り出した。
「だっっっっっ…！駄目ですぅぅぅぅうっ！！」
結果。
セリカは頑としてドレス着用を拒否、ロードが出て来てもヴォイドが最早乗り気で無い。なので後少しだけ我慢してもらい、スリットの美しさを損なわないポーズとして少し斜めに向いたポーズで横に並ぶと言う妥協点を見付けたヴォイドとギャリーをゲンジはカメラに収めた。
「まあ、演者を疲れさせないやり方もスタッフには必要よね！良い勉強になったわ！ありがとう皆！ちなみにこれ、別に本採用されて使うかどうかもそもそも結社さんの広告出すかどうかも一切未定なの！！」
「嘘だろおい！ゲンちゃん！！」
ゲンジが笑顔でそれはそれは恐ろしいことを言ったところでこの撮影はお開きとなる。
Day.17 裏切り
昨日の友は今日の敵かもしれない。
得体の知れない不安と闘う準備はあるか。
得体の知れない不安と闘う準備はあるか。
うらぎりものはゆるさない――作・べに
「裏切り者！」
聞き捨てならない言葉が昼時の食堂の一角で上がり、人々は何事かと声の主へと注目をした。だけど声を上げた張本人のウルリッカはそんなことは気にしない。シキへの怒りでいっぱいなのだ。
「ウル、落ち着いて」
「無理」
無理無理無理無理かたつむり。
ぷんすかぷんとばかりに怒りを露わにしたウルリッカがそう言って炊麦を食べる。「裏切り者」呼ばわりされたシキは困り顔だ。
最近、結社のほど近くにラーメン屋が出来た。
そこが開店したら一緒に行こうと約束していたウルリッカとシキだったが、シキが結社の外に行った帰りに調達班の仲間達とそのラーメン屋さんに行ってしまったのである。とはいえシキの名誉のために言っておくと、シキが「行こう」と調達班を誘った訳ではない。たまたま通りかかって「寄ろう」となってしまったのだ。
「一緒に行くの楽しみにしてたのに」
ションボリとしたウルリッカにシキはゴソゴソとポケットから紙を出す。
それは先日ラーメン屋で会計した際に貰ったものだ。
『次回来店時、味玉１個無料！』
紙はラーメン屋のクーポンだった。
「これあげるから。本当ごめん」
「許す」
ウルリッカの機嫌はコロッと良くなった。
(Twitter)
聞き捨てならない言葉が昼時の食堂の一角で上がり、人々は何事かと声の主へと注目をした。だけど声を上げた張本人のウルリッカはそんなことは気にしない。シキへの怒りでいっぱいなのだ。
「ウル、落ち着いて」
「無理」
無理無理無理無理かたつむり。
ぷんすかぷんとばかりに怒りを露わにしたウルリッカがそう言って炊麦を食べる。「裏切り者」呼ばわりされたシキは困り顔だ。
最近、結社のほど近くにラーメン屋が出来た。
そこが開店したら一緒に行こうと約束していたウルリッカとシキだったが、シキが結社の外に行った帰りに調達班の仲間達とそのラーメン屋さんに行ってしまったのである。とはいえシキの名誉のために言っておくと、シキが「行こう」と調達班を誘った訳ではない。たまたま通りかかって「寄ろう」となってしまったのだ。
「一緒に行くの楽しみにしてたのに」
ションボリとしたウルリッカにシキはゴソゴソとポケットから紙を出す。
それは先日ラーメン屋で会計した際に貰ったものだ。
『次回来店時、味玉１個無料！』
紙はラーメン屋のクーポンだった。
「これあげるから。本当ごめん」
「許す」
ウルリッカの機嫌はコロッと良くなった。
(Twitter)
Day.18 ひまわり
漢字で書けば向日葵、日葵。
暑くとも太陽を真っ直ぐに見つめ続ける姿は不屈の心を思わせる。
暑くとも太陽を真っ直ぐに見つめ続ける姿は不屈の心を思わせる。
ひまわりーー作・燐花
夏の陽射しが眩しくて、痛みすら感じる様でウルリッカは思わず目を細める。そうして細めた目で第六小隊の皆の顔を見回せば、エドゥアルトも同じ様に目を細めていた。しかし機械人形であるシリルもガートもヨダカも、やはり人間とは造りが違うのか涼しげな顔で任務に赴いていた。
そんな中、この暑さの中で尚黒い服に身を包んだユウヤミがじっと何かを見つめていた。ユウヤミの目線の先を追うと、そこにあったのは群生している向日葵だった。
「……隊長、向日葵がどうかしたの？」
「マルムフェ君。君はこの花を見てどう思う？」
そう言われ、ウルリッカはじっくり花を見つめる。しかし、何の変哲のない向日葵以上の感想は出て来なかった。
「暑い時に咲く花だなぁ、としか」
「ふふふ、そうだよね。じゃあ、この話は聞かない方が良いかな」
「え？どうして？」
勿体ぶる様なユウヤミ。向日葵に関して何か豆知識でもあるのだろうか。気付けばウルリッカはユウヤミのその話ぶりに惹かれてしまった。
「だって、君は向日葵を「暑い時に咲く花」と言う印象で見ていたのだよね？でも私には、ちょっと違く見えた。それはあまりプラスな意見では無いから聞かない方が良いのだろうなーって」
「んー…そう言われたら、隊長が向日葵を見て何を思ったのか気になっちゃう…」
「え？そう？」
「うん」
「…じゃあ、言うけど。向日葵ってさ、少し怖いよね」
ユウヤミから飛び出したのは意外な言葉だった。怖いとはどう言うところがなのだろうか。何をもってそう思ったのだろうか。
「向日葵の形をよく見てご覧よ。他の花ではなかなか見ない管状花の集合体。つまり向日葵は、これで一つの花なのでは無く花の集合体なのだよ。人間の体も多数の構造体の集合した姿だと思うと、同じ様に集合体でこれだけ大きな存在って少し恐ろしくないかい？」
正に言い様のない恐ろしさ。
そう言われてウルリッカは少し考えた。
いくつもの花が集まって作られた向日葵と言う存在。大きなその花は、いつだって太陽を求めてそちらを向いている。
「その大きな存在が夜が深まっていくにつれ、首をもたげる様になる。この大きな存在が首をもたれて萎れている様は、その質量が大きいだけに何だか特別その怖さも増しそうだなと思ってね」
大きい存在と言うのは圧迫感がどうしても生まれてしまう。昔こそウルリッカもそう思っていたのでユウヤミの話にも同意していただろう。しかし、結社に来た彼女は少し心変わりしていた。
「そうかも…でも、私は平気」
「おや、マルムフェ君は大きい生き物や物体を怖いと思わないタイプかい？」
「だって、シキは大っきくても優しいから」
その言葉にユウヤミは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたが、すぐに優しく微笑む。
「…そうか。そう言えば君には規格外に大きいお友達が居たね」
「うん、だから怖くないよ」
「なるほど、それは良い事だ」
後日、ユウヤミが同じ話をたまたま合同演習で一緒になった第三小隊のゼン・ファルクマンとルーウィン・ジャヴァリーにしたところ、話し方に熱が入り過ぎていたのか良い歳をした彼らは盛大に怖がり怯えてしまった。
「おい小童！！余計な事してんじゃねぇよ！！」
「えー。夏色めいたちょっとした悪戯心じゃないか」
「お前の悪戯はそんな可愛いもんじゃねぇ！！」
それを見ていたジョンが彼への苦手意識を忘れて激怒しに来たのは言うまでも無い。
(Twitter)
そんな中、この暑さの中で尚黒い服に身を包んだユウヤミがじっと何かを見つめていた。ユウヤミの目線の先を追うと、そこにあったのは群生している向日葵だった。
「……隊長、向日葵がどうかしたの？」
「マルムフェ君。君はこの花を見てどう思う？」
そう言われ、ウルリッカはじっくり花を見つめる。しかし、何の変哲のない向日葵以上の感想は出て来なかった。
「暑い時に咲く花だなぁ、としか」
「ふふふ、そうだよね。じゃあ、この話は聞かない方が良いかな」
「え？どうして？」
勿体ぶる様なユウヤミ。向日葵に関して何か豆知識でもあるのだろうか。気付けばウルリッカはユウヤミのその話ぶりに惹かれてしまった。
「だって、君は向日葵を「暑い時に咲く花」と言う印象で見ていたのだよね？でも私には、ちょっと違く見えた。それはあまりプラスな意見では無いから聞かない方が良いのだろうなーって」
「んー…そう言われたら、隊長が向日葵を見て何を思ったのか気になっちゃう…」
「え？そう？」
「うん」
「…じゃあ、言うけど。向日葵ってさ、少し怖いよね」
ユウヤミから飛び出したのは意外な言葉だった。怖いとはどう言うところがなのだろうか。何をもってそう思ったのだろうか。
「向日葵の形をよく見てご覧よ。他の花ではなかなか見ない管状花の集合体。つまり向日葵は、これで一つの花なのでは無く花の集合体なのだよ。人間の体も多数の構造体の集合した姿だと思うと、同じ様に集合体でこれだけ大きな存在って少し恐ろしくないかい？」
正に言い様のない恐ろしさ。
そう言われてウルリッカは少し考えた。
いくつもの花が集まって作られた向日葵と言う存在。大きなその花は、いつだって太陽を求めてそちらを向いている。
「その大きな存在が夜が深まっていくにつれ、首をもたげる様になる。この大きな存在が首をもたれて萎れている様は、その質量が大きいだけに何だか特別その怖さも増しそうだなと思ってね」
大きい存在と言うのは圧迫感がどうしても生まれてしまう。昔こそウルリッカもそう思っていたのでユウヤミの話にも同意していただろう。しかし、結社に来た彼女は少し心変わりしていた。
「そうかも…でも、私は平気」
「おや、マルムフェ君は大きい生き物や物体を怖いと思わないタイプかい？」
「だって、シキは大っきくても優しいから」
その言葉にユウヤミは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしたが、すぐに優しく微笑む。
「…そうか。そう言えば君には規格外に大きいお友達が居たね」
「うん、だから怖くないよ」
「なるほど、それは良い事だ」
後日、ユウヤミが同じ話をたまたま合同演習で一緒になった第三小隊のゼン・ファルクマンとルーウィン・ジャヴァリーにしたところ、話し方に熱が入り過ぎていたのか良い歳をした彼らは盛大に怖がり怯えてしまった。
「おい小童！！余計な事してんじゃねぇよ！！」
「えー。夏色めいたちょっとした悪戯心じゃないか」
「お前の悪戯はそんな可愛いもんじゃねぇ！！」
それを見ていたジョンが彼への苦手意識を忘れて激怒しに来たのは言うまでも無い。
(Twitter)
ひまわりのおもいで――作・べに
ひまわりと目があって、幼いミアはビクリと肩を震わせた。
青い空の下、ひまわり迷路の中でミアは道に迷い不安な顔を見せていた。それこそが迷路の醍醐味ともいえるが彼女はゴールが見えないままかなりの時間を経過させており、入った時と太陽の向きが違うようにすら見える。
左に行っても右に行っても、進んでも戻ってもひまわり。
迷路のスタート地点ではパパとママとお姉ちゃんと「きれいだね」とはしゃいでいたひまわりが、今では大きくて恐ろしいもののように見えてきてミアの目には涙の膜が張られてきた。恐怖にしゃくり上げながら、頼りになる人物を呼ぶ。
「おねえちゃん……おねえちゃーん！」
ミアの姉のララは強くて格好良い機械人形だ。きっとミアを助けてくれる。
しかし、この迷路がそんな機械人形のお姉ちゃんですら迷わす大迷宮だったらどうしよう。自分はこのままひまわりの中で死んでしまうんじゃないか。想像の中で骸骨になった自分を思い浮かべてミアは、いよいよ本格的に涙をボロボロ零し出す。
そうしてミアにとっては無限ともいえる――実際はほんの数分の――時間が経過した。
「ミア、スタート地点ではあんなに胸を張って『一人で出来るもん』って言ってたじゃないですか」
ミアと同じ空の色の目に人間には有り得ない機械人形特有のピンク色の髪をしたララが呆れたような顔をして、ひまわりの影から顔を覗かせる。
その姿を見つけた瞬間、ミアは泣いていたことなんて忘れて顔を輝かせてララに向かって走り寄っていくと思いきり飛びついた。普通の人間だったら支えきれないだろうが、ララは機械人形なので難無くミアを受け止めていた。
「おねえちゃん！」
「だから『お姉ちゃんと一緒に行こう』って言ったのに。お姉ちゃんの言う事聞かないから怖い目にあったんですよ？」
「うん！ ごめんね、お姉ちゃん！」
「それじゃ、ここから先はお姉ちゃんと一緒にゴールを目指しましょうか」
「うん！」
ララの手を握りミアは意気揚々と歩き出す。
もう、ひまわりは怖いものではなくなっていた。
(Twitter)
青い空の下、ひまわり迷路の中でミアは道に迷い不安な顔を見せていた。それこそが迷路の醍醐味ともいえるが彼女はゴールが見えないままかなりの時間を経過させており、入った時と太陽の向きが違うようにすら見える。
左に行っても右に行っても、進んでも戻ってもひまわり。
迷路のスタート地点ではパパとママとお姉ちゃんと「きれいだね」とはしゃいでいたひまわりが、今では大きくて恐ろしいもののように見えてきてミアの目には涙の膜が張られてきた。恐怖にしゃくり上げながら、頼りになる人物を呼ぶ。
「おねえちゃん……おねえちゃーん！」
ミアの姉のララは強くて格好良い機械人形だ。きっとミアを助けてくれる。
しかし、この迷路がそんな機械人形のお姉ちゃんですら迷わす大迷宮だったらどうしよう。自分はこのままひまわりの中で死んでしまうんじゃないか。想像の中で骸骨になった自分を思い浮かべてミアは、いよいよ本格的に涙をボロボロ零し出す。
そうしてミアにとっては無限ともいえる――実際はほんの数分の――時間が経過した。
「ミア、スタート地点ではあんなに胸を張って『一人で出来るもん』って言ってたじゃないですか」
ミアと同じ空の色の目に人間には有り得ない機械人形特有のピンク色の髪をしたララが呆れたような顔をして、ひまわりの影から顔を覗かせる。
その姿を見つけた瞬間、ミアは泣いていたことなんて忘れて顔を輝かせてララに向かって走り寄っていくと思いきり飛びついた。普通の人間だったら支えきれないだろうが、ララは機械人形なので難無くミアを受け止めていた。
「おねえちゃん！」
「だから『お姉ちゃんと一緒に行こう』って言ったのに。お姉ちゃんの言う事聞かないから怖い目にあったんですよ？」
「うん！ ごめんね、お姉ちゃん！」
「それじゃ、ここから先はお姉ちゃんと一緒にゴールを目指しましょうか」
「うん！」
ララの手を握りミアは意気揚々と歩き出す。
もう、ひまわりは怖いものではなくなっていた。
(Twitter)
マナキノちゃん――作・べに
ヒギリちゃん――作・燐花
Day.19 思い出
それは過去を振り返る人の寂しさか、単なる経験か。
セピアに埋もれる記憶に飲み込まれぬよう。
セピアに埋もれる記憶に飲み込まれぬよう。
おもいでをかたる――作・べに
思い出は綺麗なものとは限らない。
タイガはそれを食堂の一角で痛感していた。
「あー、もうストップストップ！ テオ君のはお昼ご飯のついでに聞く話じゃないよ！」
「聞いたのお前だろ？」
「そうだね！ オレが悪かったね！」
タイガはもっと明るい子供時代を想像していたのに、テオフィルスの子供時代の思い出は何も楽しくなかった。犯罪か誰かが死んだ話ばかりだ。
「何かもっと甘い話ないの？ 初恋の思い出とか！」
恋バナなら暗い話はないだろう。
タイガはそれに賭けた。
「初恋……俺の初恋の相手はさ、俺が仕事が軌道に乗って養ってやれるかなって思った矢先に失踪したんだよな」
「あ、ごめん。またオレが悪かった」
賭けは大負けだった。がっくりと肩を落とす。
「うふふ、何か楽しそうなお話をしていますね」
「ロードさん！」
そこに救世主が現れた。どうやら独りだったらしいロードはタイガとテオフィルスに断りをいれると席につく。
「今、恋バナしてたんです！ ロードさんの恋バナ聞きたいです！」
「恋バナ、ですか……そうですねぇ。実は私、同棲していたことがありまして」
唐突な爆弾発言にタイガもテオフィルスも目を丸くしてロードを見た。
そんな２人の視線を受けたロードは恥ずかしそうに、それでいて懐かしそうな目をして語り続ける。
「とても愛しい人でした。変なとこおぼこい子だったんですけどねぇ……まあ、そこがまた……」
ロードは饒舌だった。
いかに彼女と相思相愛だったのか、彼女と過ごした楽しい日々――些か誇張が入っていたがタイガとテオフィルスが知る由もない――を感動的にたっぷりと語ってくれた。
「……少し語りすぎてしまいましたね。お恥ずかしい限りです」
それだけ語っていてもしっかり食事をとり終えていたロードはそう言って席を立つ。
残された２人は。
「やばい……俺、胃もたれしそう」
「オレも」
甘い話に胸焼けがしていた。
(Twitter)
タイガはそれを食堂の一角で痛感していた。
「あー、もうストップストップ！ テオ君のはお昼ご飯のついでに聞く話じゃないよ！」
「聞いたのお前だろ？」
「そうだね！ オレが悪かったね！」
タイガはもっと明るい子供時代を想像していたのに、テオフィルスの子供時代の思い出は何も楽しくなかった。犯罪か誰かが死んだ話ばかりだ。
「何かもっと甘い話ないの？ 初恋の思い出とか！」
恋バナなら暗い話はないだろう。
タイガはそれに賭けた。
「初恋……俺の初恋の相手はさ、俺が仕事が軌道に乗って養ってやれるかなって思った矢先に失踪したんだよな」
「あ、ごめん。またオレが悪かった」
賭けは大負けだった。がっくりと肩を落とす。
「うふふ、何か楽しそうなお話をしていますね」
「ロードさん！」
そこに救世主が現れた。どうやら独りだったらしいロードはタイガとテオフィルスに断りをいれると席につく。
「今、恋バナしてたんです！ ロードさんの恋バナ聞きたいです！」
「恋バナ、ですか……そうですねぇ。実は私、同棲していたことがありまして」
唐突な爆弾発言にタイガもテオフィルスも目を丸くしてロードを見た。
そんな２人の視線を受けたロードは恥ずかしそうに、それでいて懐かしそうな目をして語り続ける。
「とても愛しい人でした。変なとこおぼこい子だったんですけどねぇ……まあ、そこがまた……」
ロードは饒舌だった。
いかに彼女と相思相愛だったのか、彼女と過ごした楽しい日々――些か誇張が入っていたがタイガとテオフィルスが知る由もない――を感動的にたっぷりと語ってくれた。
「……少し語りすぎてしまいましたね。お恥ずかしい限りです」
それだけ語っていてもしっかり食事をとり終えていたロードはそう言って席を立つ。
残された２人は。
「やばい……俺、胃もたれしそう」
「オレも」
甘い話に胸焼けがしていた。
(Twitter)
オタク哀歌ーー作・燐花
俺の機械人形が可愛過ぎるから全人類見てくれ
１：勇敢な友人
つい先日機械人形を買った。
質問あるならどぞ。
２：有名な戦士
え？写真無いの？スレチ乙
３：ナンネル
＞＞２
おい書くなら質問書けよ早速スレ終了しようとすんじゃねえ。
４：特撮好きおにいさん
ぼく、保育士で給料高い方じゃ無いんだけど主は？
５：勇敢な友人
特定厨が怖いのであまり明かせないが、とりあえずそれなりに金持ってる。ちな配信。
６：有名な戦士
自慢乙
７：ナンネル
＞＞６
お前うるせぇって
８：特撮好きおにいさん
やっぱ性格とか機能とか拘っていっぱいオプション付けた？どんな風に設定付けたのか教えてくれたら嬉しい
９：勇敢な友人
特定されんの避けたいから簡単に。
基本は潜水型。フィンイヤーが付いてる。
１０：特撮好きおにいさん
主は泳ぐ人？
１１：勇敢な友人
違う。人魚萌えのタコ足萌えだったから基本を潜水型にした。でもインストールしたのはホームヘルパーのデータ。だから今普通にハウスメイドしてもらってる。
１２：有名な戦士
え、スキューバとかサーファーみたいな陽キャ以外でも潜水型って買えるの初耳なんだが。しかも機体違いのホームヘルパーのデータインストール出来るなんて知らんかった
１３：ナンネル
急にフレンドリーになるな
１４：ナンネル
俺も機械人形一体主人登録してっけど知人からもらったのだから知らなかった。潜水型にホームヘルパーのデータって負荷かからねぇの？
１５：勇敢な友人
分からん。俺の機械人形は苦手なものの設定も込みでやってるから
１６：有名な戦士
kwsk
１７：勇敢な友人
クーデレでツンなメイドさんにしたくて設定したし、嫌がる顔が見たかったからホームヘルパーだけど魚を見てアラート作動する設定にした。だから魚見ると嫌そうな顔するしそう言う時の負荷はデカいと思う
１８：ナンネル
機械人形に全然優しくない設定にしてんじゃん。最悪
１９：勇敢な友人
でも汚物みたいな顔で見てくるメイドさんが良過ぎて沼。おまいらも機械人形買うなら設定は細かいところまで拘れ。妥協は絶対にするな。見た目も中身も最高過ぎて正直金は飛ぶけどそれに勝る幸せがある
「お、漢…！！彼は漢でごさるな…！！」
最初こそ悪態ついてばかりだった掲示板の「有名な戦士」ことクロードウィッグは、「勇敢な友人」ことバルドヴィーノとシンパシーを感じた。
たかが掲示板、されど掲示板。その瞬間しかしか会話を交わさないからと無の境地でスレ荒らしを日課にしていたクロードウィッグが初めて「会って話したい」と思ったバルドヴィーノ。
この後何度か連絡先を交換して個別でやりとりする様になり、機械人形の写真も添付して見せてもらっていた。
「ネリネたんって言うんだ」
その日、電話の向こうでまるで彼女を紹介する様な恥じらいを込めてバルドヴィーノはそう言った。
「言っとくけどネリネたんを実際に見せてあげるのなんて、アンタが初めてなんだからねっ！！」
「デュフフ、ツンデレキタコレ」
「いや、でもマジな話拘り過ぎて本当機械人形アンチに壊されないか心配。今なら彼女監禁系サイコパスの気持ち分かる」
「妄想乙が過ぎるすなー。気持ちは分かるがダメ、絶対」
「早くクロードウィッグ氏にネリネたんの御尊顔拝ませたいわー」
「リア充乙」
「嫉妬乙」
こんな風に語らって、笑い合った翌日だった。ギロクのテロが起きたのは。
結局写真でしか分からなかった機械人形のネリネ。たった数回しか会えなかったバルドヴィーノ。彼とは連絡が取れなくなり、クロードウィッグは嫌な予感を察知する。職を失って転がり込んだマルフィ結社の食堂で『彼女』に会った時、クロードウィッグは全身を電流が走った様な衝撃に飲まれた。
写真で見たネリネがここに居る。バルドヴィーノの名はどこの所属にも載っていない。機械人形だけが出稼ぎになんてあり得ない状況下で彼女が居ると言う事はバルドヴィーノは亡くなってしまったのか。
「はぁ……」
さぞかし無念だった事だろう。大切なマイフェアレディを一人置いて逝くなんて。あんなにあんなに大事にしていたのに。
当のネリネは矢張り機械人形と言うべきか、特に人間の様な悲喜交交な感情を浮かべる事なくイメージ通りクーデレな姿で業務に勤しんでいる。
「…成仏してクレメンス」
クロードウィッグは、いつか友の意思を継いで彼女の主人になる展開もありかもしれないと思いつつ、ネリネを見守った。しかし、バルドヴィーノの好みに振り切ったネリネを見る度、自分の好みに振り切ったオリジナル機械人形を初めての子として迎えたくもある。
「ネージュたそ…やはり拙者初めてはネージュたそに…デュフフ」
ネリネを見る度終始バルドヴィーノへの友情と己の特別な機械人形への葛藤に明け暮れるクロードウィッグ。
──だってほら、後妻さん貰うに等しいでござる。彼の好みの詰まった機械人形なんてさ。
「………アレは何です？」
そんなクロードウィッグの隠し切れない隠密行動をこっそり見ていたネリネは嫌そうに呟いた。
「ああ、人事部のクロードウィッグ・ケレンリーさんですね」
エミールは「彼は誰なのか？」と聞かれた気がして答えたが、聞いた本人たるネリネは嫌そうに顔を顰めるだけだった。
「…嫌な記憶の扉が開きます」
「ず、随分と詩的な物言いで」
１：勇敢な友人
つい先日機械人形を買った。
質問あるならどぞ。
２：有名な戦士
え？写真無いの？スレチ乙
３：ナンネル
＞＞２
おい書くなら質問書けよ早速スレ終了しようとすんじゃねえ。
４：特撮好きおにいさん
ぼく、保育士で給料高い方じゃ無いんだけど主は？
５：勇敢な友人
特定厨が怖いのであまり明かせないが、とりあえずそれなりに金持ってる。ちな配信。
６：有名な戦士
自慢乙
７：ナンネル
＞＞６
お前うるせぇって
８：特撮好きおにいさん
やっぱ性格とか機能とか拘っていっぱいオプション付けた？どんな風に設定付けたのか教えてくれたら嬉しい
９：勇敢な友人
特定されんの避けたいから簡単に。
基本は潜水型。フィンイヤーが付いてる。
１０：特撮好きおにいさん
主は泳ぐ人？
１１：勇敢な友人
違う。人魚萌えのタコ足萌えだったから基本を潜水型にした。でもインストールしたのはホームヘルパーのデータ。だから今普通にハウスメイドしてもらってる。
１２：有名な戦士
え、スキューバとかサーファーみたいな陽キャ以外でも潜水型って買えるの初耳なんだが。しかも機体違いのホームヘルパーのデータインストール出来るなんて知らんかった
１３：ナンネル
急にフレンドリーになるな
１４：ナンネル
俺も機械人形一体主人登録してっけど知人からもらったのだから知らなかった。潜水型にホームヘルパーのデータって負荷かからねぇの？
１５：勇敢な友人
分からん。俺の機械人形は苦手なものの設定も込みでやってるから
１６：有名な戦士
kwsk
１７：勇敢な友人
クーデレでツンなメイドさんにしたくて設定したし、嫌がる顔が見たかったからホームヘルパーだけど魚を見てアラート作動する設定にした。だから魚見ると嫌そうな顔するしそう言う時の負荷はデカいと思う
１８：ナンネル
機械人形に全然優しくない設定にしてんじゃん。最悪
１９：勇敢な友人
でも汚物みたいな顔で見てくるメイドさんが良過ぎて沼。おまいらも機械人形買うなら設定は細かいところまで拘れ。妥協は絶対にするな。見た目も中身も最高過ぎて正直金は飛ぶけどそれに勝る幸せがある
「お、漢…！！彼は漢でごさるな…！！」
最初こそ悪態ついてばかりだった掲示板の「有名な戦士」ことクロードウィッグは、「勇敢な友人」ことバルドヴィーノとシンパシーを感じた。
たかが掲示板、されど掲示板。その瞬間しかしか会話を交わさないからと無の境地でスレ荒らしを日課にしていたクロードウィッグが初めて「会って話したい」と思ったバルドヴィーノ。
この後何度か連絡先を交換して個別でやりとりする様になり、機械人形の写真も添付して見せてもらっていた。
「ネリネたんって言うんだ」
その日、電話の向こうでまるで彼女を紹介する様な恥じらいを込めてバルドヴィーノはそう言った。
「言っとくけどネリネたんを実際に見せてあげるのなんて、アンタが初めてなんだからねっ！！」
「デュフフ、ツンデレキタコレ」
「いや、でもマジな話拘り過ぎて本当機械人形アンチに壊されないか心配。今なら彼女監禁系サイコパスの気持ち分かる」
「妄想乙が過ぎるすなー。気持ちは分かるがダメ、絶対」
「早くクロードウィッグ氏にネリネたんの御尊顔拝ませたいわー」
「リア充乙」
「嫉妬乙」
こんな風に語らって、笑い合った翌日だった。ギロクのテロが起きたのは。
結局写真でしか分からなかった機械人形のネリネ。たった数回しか会えなかったバルドヴィーノ。彼とは連絡が取れなくなり、クロードウィッグは嫌な予感を察知する。職を失って転がり込んだマルフィ結社の食堂で『彼女』に会った時、クロードウィッグは全身を電流が走った様な衝撃に飲まれた。
写真で見たネリネがここに居る。バルドヴィーノの名はどこの所属にも載っていない。機械人形だけが出稼ぎになんてあり得ない状況下で彼女が居ると言う事はバルドヴィーノは亡くなってしまったのか。
「はぁ……」
さぞかし無念だった事だろう。大切なマイフェアレディを一人置いて逝くなんて。あんなにあんなに大事にしていたのに。
当のネリネは矢張り機械人形と言うべきか、特に人間の様な悲喜交交な感情を浮かべる事なくイメージ通りクーデレな姿で業務に勤しんでいる。
「…成仏してクレメンス」
クロードウィッグは、いつか友の意思を継いで彼女の主人になる展開もありかもしれないと思いつつ、ネリネを見守った。しかし、バルドヴィーノの好みに振り切ったネリネを見る度、自分の好みに振り切ったオリジナル機械人形を初めての子として迎えたくもある。
「ネージュたそ…やはり拙者初めてはネージュたそに…デュフフ」
ネリネを見る度終始バルドヴィーノへの友情と己の特別な機械人形への葛藤に明け暮れるクロードウィッグ。
──だってほら、後妻さん貰うに等しいでござる。彼の好みの詰まった機械人形なんてさ。
「………アレは何です？」
そんなクロードウィッグの隠し切れない隠密行動をこっそり見ていたネリネは嫌そうに呟いた。
「ああ、人事部のクロードウィッグ・ケレンリーさんですね」
エミールは「彼は誰なのか？」と聞かれた気がして答えたが、聞いた本人たるネリネは嫌そうに顔を顰めるだけだった。
「…嫌な記憶の扉が開きます」
「ず、随分と詩的な物言いで」
Day.20 アイスクリーム
夏空の下で食べるのも美味しいがコタツで食べるのも美味しい。
甘く冷たい感触は心をとろけさせる。
甘く冷たい感触は心をとろけさせる。
ミサキとロナの場合――作・涼風
ávöxturーー作・べに
牛乳、卵黄、グラニュー糖。
たった三つの食材と冷凍庫、それと腕力。
それだけあれば作れる食べ物――アイスクリームとは何て素晴らしい食べ物なんだろうか。
冷凍庫から出して固まったアイスクリームを泡立て器で掻き混ぜながら、ルーウィンは鼻歌を歌う余裕すらあった。
アイスクリームは空気を入れる為に掻き混ぜてやればフワフワになる。掻き混ぜなくてもシャーベット感があっておいしいが、妹達はフワフワの方が好きなのでルーウィンはいつもこの方法で作る。
「よしっ、こんなモンか」
完成したアイスクリームに達成感を覚えた。
それと同時に、掻き混ぜて疲れた身体に甘い物が欲しくなる。
「ま、味見も大事だしなー」
言い訳をしてスプーンで一掬い。
甘い。冷たい。うまい。
「何をしているんですか？」
背後から聞こえた声に肩が跳ねる。
振り返れば、そこにはクロエの姿。
クロエの濃紫の目はルーウィンの持つボウルに注がれていた。
「アイスクリームですか？」
「そ、そうだけど？」
「ください」
エサをねだるヒナ鳥のようにクロエは口を開けた。
かわいい。
そう思ってしまった自分が恥ずかしくて暑くなりながらもスプーンで一掬い。
「ほら」
ちょっと大きめに掬ってやったアイスクリーム。
「おいしいですね」
商品化を考えたい。
そんな思惑の元にクロエが微笑むが、ルーウィンに彼女の内心は分からない。
甘くて冷たくておいしいアイスクリーム。
だけどルーウィンは暑くて仕方なくて、手でパタパタと自分を仰いだ。
(Twitter)
たった三つの食材と冷凍庫、それと腕力。
それだけあれば作れる食べ物――アイスクリームとは何て素晴らしい食べ物なんだろうか。
冷凍庫から出して固まったアイスクリームを泡立て器で掻き混ぜながら、ルーウィンは鼻歌を歌う余裕すらあった。
アイスクリームは空気を入れる為に掻き混ぜてやればフワフワになる。掻き混ぜなくてもシャーベット感があっておいしいが、妹達はフワフワの方が好きなのでルーウィンはいつもこの方法で作る。
「よしっ、こんなモンか」
完成したアイスクリームに達成感を覚えた。
それと同時に、掻き混ぜて疲れた身体に甘い物が欲しくなる。
「ま、味見も大事だしなー」
言い訳をしてスプーンで一掬い。
甘い。冷たい。うまい。
「何をしているんですか？」
背後から聞こえた声に肩が跳ねる。
振り返れば、そこにはクロエの姿。
クロエの濃紫の目はルーウィンの持つボウルに注がれていた。
「アイスクリームですか？」
「そ、そうだけど？」
「ください」
エサをねだるヒナ鳥のようにクロエは口を開けた。
かわいい。
そう思ってしまった自分が恥ずかしくて暑くなりながらもスプーンで一掬い。
「ほら」
ちょっと大きめに掬ってやったアイスクリーム。
「おいしいですね」
商品化を考えたい。
そんな思惑の元にクロエが微笑むが、ルーウィンに彼女の内心は分からない。
甘くて冷たくておいしいアイスクリーム。
だけどルーウィンは暑くて仕方なくて、手でパタパタと自分を仰いだ。
(Twitter)
タグ
コメントをかく