ミサキの年末年始 実践！コタツ改良編
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suzujiu_orichar 2020年09月19日(土) 12:43:01履歴
大晦日。一年の一番最後の日。
朝からかなり冷え込み、昼頃でも記録的な低温を維持していた。
当直含め、結社内が少し浮わついた空気になってきた昼過ぎの事。
緑の髪を高く結い上げた和装の機械人形と防寒着を着込んだ金の髪の少女が並んで廊下を進んでいた。
この少し前に時間を戻そう。
アサギの元に、ミサキから一本の電話が掛かってきた。
「ミサキだけど、今忙しい？」
「別に……何もねぇけど。」
「なら、今すぐ私の部屋に来て。」
「何があるんだ？」
「……ロナにサプライズ。」
「行く。」
間髪入れずに答えたアサギはミサキの部屋へ向かった。
ミサキの部屋は床も窓も壁も見えない。そして極端に暗い。
数々の画面と電子端末本体、様々な再生機器、サーバまで積み上げられており、天井まで届いている。隙間には数種のプログラミング言語ごとの複数の手引書、アプリ運用、シーケンス制御、マーケティング、心理学の本などが雑然と挟まっており、分類された様子もない。
どの本も何度も開かれたからか角が擦れていたり、細かな書き込みがされている。
「機械人形解体新書：徹底解剖図」があるのが見えたアサギは少し身震いした。
「私の部屋、気になる？」
「いや、なんつーか……暗いな。」
「外も強い光も敵。此処は最高の空間。」
ミサキが「日焼けが酷い」と話していた事を思い出したアサギはなんとなく納得した。
「それで、用事はこれ。」
みかん(小)と書かれた赤いダンボール箱と、アルミ箔の直径10cm長さ1m程のダクトが床に置いてある。
「アサギにはこの二つをロナの部屋まで運んでもらう。」
「みかんはわかんだけど、この管はなんなんだ？」
「一昨日の付属品。」
「一昨日……？」
「説明が面倒。それより現場で見た方が早い。」
大きなトートバッグを肩にかけ、片手に小さい保冷バッグを持ったミサキに急かされるようにみかん箱とダクトを抱えたアサギは部屋を出た。
そして時間は最初の廊下に戻る。
「何でもいいけど寒い。」
「そんなに寒いか？」
「私も機械人形になりたいんだけど。」
「できるのか？」
「今の技術なら無理。予測ではこの先数十年無理。」
「へぇ」
「アサギ。」
「あ？」
「みかんの箱は貴方が運んだ。だから、貴方がロナへ日頃の感謝も含めて渡して。間違っても私が頼んだと言わない事。」
ミサキが何を言っているのか分からず、目を丸くするアサギ。
「感謝はわかんだけどミサキからって言えねぇ理由がわかんねぇ。」
「今年のわだかまりは来年に持ち越さない。」
「『宵越しの金は持たない』ってやつか？」
「全然違う。財布が空なのを強がる言葉と一緒にしない。新たな年を前向きに迎えるって意味。同じ班内なら特に必要。私からより、ずっと意味が深くなる。」
そういうものか、と聞くのをやめたアサギには少しだけ伏目になったミサキは見えなかった。
それ以上何を話すでも無くだらだら歩いて部屋に到着した。
ミサキが扉をノックして出てきたロナはいつもの作務衣の上に綿入れ半纏を着て、片手に雑巾を持っていた。
「ミサキ女史…？アサギまでどうしたんだ？」
「言ったでしょ、魔力の分析。それと、単純に自分の部屋だと寒い。」
「ストーブとかヒーターは？」
「電子端末に温風かけるとすぐ壊れる。温度と水に強いのは乾燥機付きの洗濯機くらいだと思うけど。」
「そういう事情か……アサギは？」
「……やる事ねぇから。」
廊下に立つ二人の答えから、大晦日なのに色々厄介な事になりそうだと小さくため息をつくロナ。
「……仕方ないな。もう少しで掃除が終わるから、二人とも中で待っててくれ。」
「意外、午前で終わらなかったんだ。」
「寝に帰るばかりだったからな……思うより埃が溜まってたんだ。」
通されたロナの部屋には真ん中に一昨日のコタツがあった。
思わず、足を止めるアサギ。
「机に……布が挟まってんのか……？？あれ、なんだ？」
「アサギ、コタツって見たことないのか？」
ロナの問いに目を丸くしたまま頷くアサギ。
「端的に言えば暖房器具の一種だ。机の下にヒーターユニットがついていて、その熱を布団で閉じ込めて保温するものなんだが……ミサキ女史、あのコタツにヒーターユニットついてなかったぞ？あれじゃぁ、検証も何もないんじゃないか？」
「これであってる。コンパクトタイプの75cm×75cm。色はアイボリー。中古品のユニット無しが一番安かっただけ。」
「湯たんぽだと今日の低温に太刀打ちできないぞ？」
「温風ヒーターを使う。アサギ、ダクト。」
「これか？」
端にみかんのダンボール箱を置いて、ダクトを持ってくるアサギ。
「ヒーターはコタツから少し離れたところへ。吹き出し口から20cmくらい離れたところにダクト置いて。」
え、俺がやるのか？というアサギの顔が見えたミサキが明らかに不機嫌な顔になる。
「非力な私にさせるわけ？」
一瞬視線の火花が散った空気にロナのため息が流れ込む。
「やりゃぁいいんだろ？」
渋々動くアサギにわかるなら良しといつもの顔に戻るミサキ。
「出口側をコタツの中に入れて。蛇腹だから曲げられる。うん、スイッチ入れて。中で。」
そうして完成したヒーター式コタツ。
誰がどこに座るかで一悶着あったものの、一番温風に当たる場所にロナ、ヒーターの真横にアサギ、その向かい側にミサキが座るという事で決着がついた。
アサギは何処でもいいと言ったが、温風の強く当たるところに機械人形を置く事にミサキが難色を示し、一番温度の上がりにくいところに座る事になった。
「さて、これでどれくらい暖かくなるんだろうな……」と言いつつ足をコタツに入れたロナの表情が変わった。アサギとミサキの表情も変わった。
「「「凄く暖かい……！」」」
「温風だけでこんなに暖かくなるものなのか……！？ダクトを使うのは考えたな……」
真っ先に溶けたのはロナ。秒速でコタツに突っ伏している。
「あれ、なんか動きやすいな……」
手をグーパーさせ、肩を回して動きの確認をするアサギ。
「やっぱりコタツは正義。」
間違いなかったと呟いて手足に温度を戻らせるミサキ。
コタツの魔力に身を任せる3人はまだ本当のコタツの恐ろしさを知らない。
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朝からかなり冷え込み、昼頃でも記録的な低温を維持していた。
当直含め、結社内が少し浮わついた空気になってきた昼過ぎの事。
緑の髪を高く結い上げた和装の機械人形と防寒着を着込んだ金の髪の少女が並んで廊下を進んでいた。
この少し前に時間を戻そう。
アサギの元に、ミサキから一本の電話が掛かってきた。
「ミサキだけど、今忙しい？」
「別に……何もねぇけど。」
「なら、今すぐ私の部屋に来て。」
「何があるんだ？」
「……ロナにサプライズ。」
「行く。」
間髪入れずに答えたアサギはミサキの部屋へ向かった。
ミサキの部屋は床も窓も壁も見えない。そして極端に暗い。
数々の画面と電子端末本体、様々な再生機器、サーバまで積み上げられており、天井まで届いている。隙間には数種のプログラミング言語ごとの複数の手引書、アプリ運用、シーケンス制御、マーケティング、心理学の本などが雑然と挟まっており、分類された様子もない。
どの本も何度も開かれたからか角が擦れていたり、細かな書き込みがされている。
「機械人形解体新書：徹底解剖図」があるのが見えたアサギは少し身震いした。
「私の部屋、気になる？」
「いや、なんつーか……暗いな。」
「外も強い光も敵。此処は最高の空間。」
ミサキが「日焼けが酷い」と話していた事を思い出したアサギはなんとなく納得した。
「それで、用事はこれ。」
みかん(小)と書かれた赤いダンボール箱と、アルミ箔の直径10cm長さ1m程のダクトが床に置いてある。
「アサギにはこの二つをロナの部屋まで運んでもらう。」
「みかんはわかんだけど、この管はなんなんだ？」
「一昨日の付属品。」
「一昨日……？」
「説明が面倒。それより現場で見た方が早い。」
大きなトートバッグを肩にかけ、片手に小さい保冷バッグを持ったミサキに急かされるようにみかん箱とダクトを抱えたアサギは部屋を出た。
そして時間は最初の廊下に戻る。
「何でもいいけど寒い。」
「そんなに寒いか？」
「私も機械人形になりたいんだけど。」
「できるのか？」
「今の技術なら無理。予測ではこの先数十年無理。」
「へぇ」
「アサギ。」
「あ？」
「みかんの箱は貴方が運んだ。だから、貴方がロナへ日頃の感謝も含めて渡して。間違っても私が頼んだと言わない事。」
ミサキが何を言っているのか分からず、目を丸くするアサギ。
「感謝はわかんだけどミサキからって言えねぇ理由がわかんねぇ。」
「今年のわだかまりは来年に持ち越さない。」
「『宵越しの金は持たない』ってやつか？」
「全然違う。財布が空なのを強がる言葉と一緒にしない。新たな年を前向きに迎えるって意味。同じ班内なら特に必要。私からより、ずっと意味が深くなる。」
そういうものか、と聞くのをやめたアサギには少しだけ伏目になったミサキは見えなかった。
それ以上何を話すでも無くだらだら歩いて部屋に到着した。
ミサキが扉をノックして出てきたロナはいつもの作務衣の上に綿入れ半纏を着て、片手に雑巾を持っていた。
「ミサキ女史…？アサギまでどうしたんだ？」
「言ったでしょ、魔力の分析。それと、単純に自分の部屋だと寒い。」
「ストーブとかヒーターは？」
「電子端末に温風かけるとすぐ壊れる。温度と水に強いのは乾燥機付きの洗濯機くらいだと思うけど。」
「そういう事情か……アサギは？」
「……やる事ねぇから。」
廊下に立つ二人の答えから、大晦日なのに色々厄介な事になりそうだと小さくため息をつくロナ。
「……仕方ないな。もう少しで掃除が終わるから、二人とも中で待っててくれ。」
「意外、午前で終わらなかったんだ。」
「寝に帰るばかりだったからな……思うより埃が溜まってたんだ。」
通されたロナの部屋には真ん中に一昨日のコタツがあった。
思わず、足を止めるアサギ。
「机に……布が挟まってんのか……？？あれ、なんだ？」
「アサギ、コタツって見たことないのか？」
ロナの問いに目を丸くしたまま頷くアサギ。
「端的に言えば暖房器具の一種だ。机の下にヒーターユニットがついていて、その熱を布団で閉じ込めて保温するものなんだが……ミサキ女史、あのコタツにヒーターユニットついてなかったぞ？あれじゃぁ、検証も何もないんじゃないか？」
「これであってる。コンパクトタイプの75cm×75cm。色はアイボリー。中古品のユニット無しが一番安かっただけ。」
「湯たんぽだと今日の低温に太刀打ちできないぞ？」
「温風ヒーターを使う。アサギ、ダクト。」
「これか？」
端にみかんのダンボール箱を置いて、ダクトを持ってくるアサギ。
「ヒーターはコタツから少し離れたところへ。吹き出し口から20cmくらい離れたところにダクト置いて。」
え、俺がやるのか？というアサギの顔が見えたミサキが明らかに不機嫌な顔になる。
「非力な私にさせるわけ？」
一瞬視線の火花が散った空気にロナのため息が流れ込む。
「やりゃぁいいんだろ？」
渋々動くアサギにわかるなら良しといつもの顔に戻るミサキ。
「出口側をコタツの中に入れて。蛇腹だから曲げられる。うん、スイッチ入れて。中で。」
そうして完成したヒーター式コタツ。
誰がどこに座るかで一悶着あったものの、一番温風に当たる場所にロナ、ヒーターの真横にアサギ、その向かい側にミサキが座るという事で決着がついた。
アサギは何処でもいいと言ったが、温風の強く当たるところに機械人形を置く事にミサキが難色を示し、一番温度の上がりにくいところに座る事になった。
「さて、これでどれくらい暖かくなるんだろうな……」と言いつつ足をコタツに入れたロナの表情が変わった。アサギとミサキの表情も変わった。
「「「凄く暖かい……！」」」
「温風だけでこんなに暖かくなるものなのか……！？ダクトを使うのは考えたな……」
真っ先に溶けたのはロナ。秒速でコタツに突っ伏している。
「あれ、なんか動きやすいな……」
手をグーパーさせ、肩を回して動きの確認をするアサギ。
「やっぱりコタツは正義。」
間違いなかったと呟いて手足に温度を戻らせるミサキ。
コタツの魔力に身を任せる3人はまだ本当のコタツの恐ろしさを知らない。
←前の話 次の話→
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