ミサキの年末年始 実践！みかん編
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suzujiu_orichar 2020年09月19日(土) 12:45:50履歴
温まってきたミサキが持ってきた大きなトートバッグから電子端末と電子温度計、ヘッドホンを引っ張り出す。
「コタツの温度上昇と部屋の気温、その他の情報を端末に記録する。設置した温度計は蹴らないように。」
「わかった」「了解」
二人の答えを確認してから、壁に温度計を貼り付けようと立ち上がったミサキはダンボール箱につまづいてよろけた。
「痛っ……アサギ、持ってきたなら放置しない。」
「あ？あぁ、そうだった。」
コタツに入ったままみかん箱をズリズリと引き寄せるアサギ。
そして、ロナの方へ押し遣る。
「その……なんつぅか……普段の、お礼。」
上手く視線を合わせられず、アサギは目を逸らしたままになる。
伸びやかなまつ毛の陰になった紅白の瞳には迷いにも似た光が浮かんでいた。
「色々“ワケあり”で上手く馴染めねぇ俺にとことん付き合ってくれたのはロナだけだったから……そう、正直、感謝してる。だからなんつぅか……」
最後まで言い切る前にぽん、とアサギの肩に手を置くロナ。
反射的に顔を上げたアサギとロナの視線が合う。
「ありがとう、アサギ。」
春の陽光のような今までに無い程のロナの優しい表情に、電子回路がショート寸前になりそうな、喜んで貰えただけで胸のそこがじんわりと温もりを持つような、そんな感情がまた一つアサギの中に増えた。
側から見ていたミサキは不意に二人が親と子の様に思えた。
実の親の顔は知らず、育ての親がいたわけでも無いミサキには“親子”がわからなかったが、もしかしたらこう言う事なのかもしれない、と。
ーー人選は、間違えていなかった。
「網入りみかんなら少量だから構わないが、箱みかんはそうはいかないな。」
アサギから渡された箱を開けながらロナが言う。
「まず、全部箱の外に出す。」
ロナとアサギで手作業でみかんをコタツの上に並べる。
途中からミサキがピラミッド型に積み上げていたが、誰も気にしない。
「そして、一つ一つ柔らかさの確認をしながら、硬いものだけ箱に戻すんだ。危うい柔らかさのモノは一箇所にまとめて置くと食べやすくなるぞ。」
選り分けつつ、みかんを箱に戻していく。
「凄い……萎びてないみかんがあるんだ……」
みかんをむにむに押しながら硬さを確認しているミサキの目が輝いていた。
「すぐ食べる分だけ手元に残したら、箱は涼しい場所に置く。長持ちするし、食べ過ぎ防止になるから一石二鳥だな。」
そう言って部屋の隅っこの方にみかん箱を置きにいくロナ。
「一気に食べてもいいんじゃねぇか？」
「みかん一つに含まれるビタミンCは一日2、3個分しか吸収できないらしいから勿体なくてな。しかも、食べ過ぎると黄疸が出るらしい。」
豆知識を披露するロナにミサキの冷めた視線が刺さる。
「黄疸じゃなくて柑皮症。1日2日沢山食べたくらいじゃならないし、ロナは色黒だから気になる程の症状にはならない。」
「え、白目が黄色くなるって聞いたぞ……？」
「それは黄疸。肝臓や膵臓が悪くなると出るものだから別物。」
「ってなわけだし、食えばいいんじゃねぇの？休みだし。」
「いや、でも……」
「そう。どうせ休みだから誰も怒らない。」
「休みだから」「休みだから」と二人に押されたロナは端に置きかけた箱を持ってコタツの方へ戻ってきた。
「にしても、このみかん本当にうめぇな。」
先にみかんをもそもそと食べ始めたアサギがつぶやく。
向かいに座るミサキも目を輝かせながらみかんを口に放り込んでいる。
「少し揉んでからの方が甘くなるぞ……って二人とももう食べてるのか。」
早いなぁ、と苦笑してロナもみかんを剥く。
一つ剥くたびにみかんの甘酸っぱい芳香が上がり、空間にみかんの香りが満ちていく。
口に含めばみずみずしい粒がはじけて甘い汁が喉を滑り落ちる。
なんとも言えない束の間の至福に表情が溶けていくロナ。
ミサキが計画通りと頭の中でつぶやくも、表情に出ない為誰も気づかない。
アサギは独創的なみかんの剥き方を考え始めたが、まだ形にはならないようだ。
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「コタツの温度上昇と部屋の気温、その他の情報を端末に記録する。設置した温度計は蹴らないように。」
「わかった」「了解」
二人の答えを確認してから、壁に温度計を貼り付けようと立ち上がったミサキはダンボール箱につまづいてよろけた。
「痛っ……アサギ、持ってきたなら放置しない。」
「あ？あぁ、そうだった。」
コタツに入ったままみかん箱をズリズリと引き寄せるアサギ。
そして、ロナの方へ押し遣る。
「その……なんつぅか……普段の、お礼。」
上手く視線を合わせられず、アサギは目を逸らしたままになる。
伸びやかなまつ毛の陰になった紅白の瞳には迷いにも似た光が浮かんでいた。
「色々“ワケあり”で上手く馴染めねぇ俺にとことん付き合ってくれたのはロナだけだったから……そう、正直、感謝してる。だからなんつぅか……」
最後まで言い切る前にぽん、とアサギの肩に手を置くロナ。
反射的に顔を上げたアサギとロナの視線が合う。
「ありがとう、アサギ。」
春の陽光のような今までに無い程のロナの優しい表情に、電子回路がショート寸前になりそうな、喜んで貰えただけで胸のそこがじんわりと温もりを持つような、そんな感情がまた一つアサギの中に増えた。
側から見ていたミサキは不意に二人が親と子の様に思えた。
実の親の顔は知らず、育ての親がいたわけでも無いミサキには“親子”がわからなかったが、もしかしたらこう言う事なのかもしれない、と。
ーー人選は、間違えていなかった。
「網入りみかんなら少量だから構わないが、箱みかんはそうはいかないな。」
アサギから渡された箱を開けながらロナが言う。
「まず、全部箱の外に出す。」
ロナとアサギで手作業でみかんをコタツの上に並べる。
途中からミサキがピラミッド型に積み上げていたが、誰も気にしない。
「そして、一つ一つ柔らかさの確認をしながら、硬いものだけ箱に戻すんだ。危うい柔らかさのモノは一箇所にまとめて置くと食べやすくなるぞ。」
選り分けつつ、みかんを箱に戻していく。
「凄い……萎びてないみかんがあるんだ……」
みかんをむにむに押しながら硬さを確認しているミサキの目が輝いていた。
「すぐ食べる分だけ手元に残したら、箱は涼しい場所に置く。長持ちするし、食べ過ぎ防止になるから一石二鳥だな。」
そう言って部屋の隅っこの方にみかん箱を置きにいくロナ。
「一気に食べてもいいんじゃねぇか？」
「みかん一つに含まれるビタミンCは一日2、3個分しか吸収できないらしいから勿体なくてな。しかも、食べ過ぎると黄疸が出るらしい。」
豆知識を披露するロナにミサキの冷めた視線が刺さる。
「黄疸じゃなくて柑皮症。1日2日沢山食べたくらいじゃならないし、ロナは色黒だから気になる程の症状にはならない。」
「え、白目が黄色くなるって聞いたぞ……？」
「それは黄疸。肝臓や膵臓が悪くなると出るものだから別物。」
「ってなわけだし、食えばいいんじゃねぇの？休みだし。」
「いや、でも……」
「そう。どうせ休みだから誰も怒らない。」
「休みだから」「休みだから」と二人に押されたロナは端に置きかけた箱を持ってコタツの方へ戻ってきた。
「にしても、このみかん本当にうめぇな。」
先にみかんをもそもそと食べ始めたアサギがつぶやく。
向かいに座るミサキも目を輝かせながらみかんを口に放り込んでいる。
「少し揉んでからの方が甘くなるぞ……って二人とももう食べてるのか。」
早いなぁ、と苦笑してロナもみかんを剥く。
一つ剥くたびにみかんの甘酸っぱい芳香が上がり、空間にみかんの香りが満ちていく。
口に含めばみずみずしい粒がはじけて甘い汁が喉を滑り落ちる。
なんとも言えない束の間の至福に表情が溶けていくロナ。
ミサキが計画通りと頭の中でつぶやくも、表情に出ない為誰も気づかない。
アサギは独創的なみかんの剥き方を考え始めたが、まだ形にはならないようだ。
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