ミサキの年末年始 汚部屋でコタツカメ編
最終更新：
suzujiu_orichar 2020年09月19日(土) 13:18:34履歴
夢の中で何かを叫んでいた気がする。
何度も、必死に、誰かの名を。
そして、何かを探していた。
探しても見つかるはずのないものを。
いきなり意識が戻った。
まどろみを感じる暇すらなく、ロナは仰向けになって倒れている現実を突きつけられた。
見慣れた天井。カーテンのきっちりしまった窓。そして、コタツ。
おぼろげに残っている恐怖は夢の残り香だろうか。
「寝落ちた……のか？」
時計は見えなかったが、厚手のカーテンの隙間から漏れる強い一筋の光は陽が高く昇っていることを示しており、ロナは戦慄した。
ーー寝過ごすなんて恐ろしい失態だ、小隊長の責務を忘れるなんて。
慌てて起き上がるとコタツの上に散らばったトランプがあるのが見えた。そして、コタツの右側で埋もれるように丸まって眠るミサキの姿も。その反対側ではアサギが箪笥に背を預けたまま目を閉じていた。
一瞬の混乱の後、ようやくロナは昨夜の事を思い出してきた。
ミサキの考案したカードゲームで自己紹介するだけだと思ったら意外と長くかかってしまった事。ミサキのオニイチャンの事で怒られた事。ロナの使っている刀は大陸から渡ってきた骨董品の軍刀だと話した事。アサギが何度もカードを切った事。
いつ意識が無くなったかの記憶は無いが少なくとも2時は回っていたはずだ、と手繰り寄せた記憶の中で時計を見る。
まずはカーテンを開けなければと立ち上がるロナ。
途中、くずかごから落ちたみかんの皮も拾い「せっかく大掃除できたのにな……」とこぼす。
一昨日もいつもの時間に起きられなかった事を思い出し、緩んでいるなと反省する。
一気にカーテンを開けると、光が部屋に流れ込んできた。
眩しさに目を細めてロナが振り返ると、ミサキがうめきながら寝返りを打ったところだった。これはゆすっても起きないだろうとなとため息をつく。
アサギはどうだろうかと見ると、鼻のあたまが赤く点滅していた。
「充電切れか……」
充電ボードなんてあっただろうか、と考えてミオリの充電ボードはまだ処分してなかった筈だとロナは思い出した。物入れを探り、出てきた充電ボードは少し埃をかぶっていた。
アサギの製造年はミオリと同じだったはずだが使えるだろうか。
不安であったが他に思い当たるものもなし、軽くボードを拭ってアサギを抱えて下にボードを置く。ゆっくりと座らせ、点滅から点灯に変わったのを確認したロナは緊張を解いた。
そこで、はたとロナは気づいた。
ーー普通の機械人形は100%の充電で連続約10時間稼働できる。だが、今回のアサギの稼働時間は10時間を超えていたはずだ。俺の部屋に来たのは昼過ぎで、寝落ちする直前が午前2時頃。ゲーム中に充電切れの警告は出なかったから、12時間以上連続稼働できたわけだ。大容量充電パックが搭載されているのか、未だアサギの本当の性能がわからないーー
「汚染駆除班も結社に参加している機械人形の事を全部わかるわけじゃない。予想外の事が起きるもんなのは当たり前だろ。」
以前、汚染駆除班へアサギとヘラの資料を受け取りに行った際にアスキーという男が見下す様に言っていた事をロナは思い出した。
ーーそれはそうかもしれない。保証書も説明書も手元にないわけだし、持ち主が個人的にカスタマイズし直すこともあるーー
資料でも連続稼働時間の欄は空欄だった事を思い出し、追加報告が必要だとロナは結論した。
ふと、視線を感じて振り向くと窓を背に無表情で赤い目のミオリが立っていた。
いつもと同じく呼吸をするように赤い目が点滅する。
それを見たとたん「今日くらい全部休みたい」と言おうと開きかけていた口が固まり、ロナは声が出せなくなった。
焦りで冷や汗が全身に滲み、緊張で視界が虹色にぼけた。
どれくらいそうだったかはわからない。
「休みでも日課をサボる訳にいかないな」と考えを修正し、緊張が解けた時にはロナの口の中も喉もカラカラに乾いていた。
台所へ駆け込んでコップ一杯の水を飲み干し、窓際を見やる。
相変わらず佇むミオリ。その背負う窓の外には薄曇りの空が広がっていた。
「……俺は、休んではいけない。」
ポツリと呟いたロナは綿入れ半纏を脱ぎ、いつもの羽織を肩にかけて愛用の刀を掴んだ。
外へ出る直前、コタツに埋もれて眠るミサキと充電中のアサギの姿を目に焼き付ける。
「人間も機械人形もない。俺と同じ人をこれ以上生まない為にいつでも斬れるようにする。ミサキ女史の恩に報いるにもそれしかない。そういう事なんだよな、ミオリ。」
振り向かずに部屋の扉を閉めたロナは練習場へ足を向けた。
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何度も、必死に、誰かの名を。
そして、何かを探していた。
探しても見つかるはずのないものを。
いきなり意識が戻った。
まどろみを感じる暇すらなく、ロナは仰向けになって倒れている現実を突きつけられた。
見慣れた天井。カーテンのきっちりしまった窓。そして、コタツ。
おぼろげに残っている恐怖は夢の残り香だろうか。
「寝落ちた……のか？」
時計は見えなかったが、厚手のカーテンの隙間から漏れる強い一筋の光は陽が高く昇っていることを示しており、ロナは戦慄した。
ーー寝過ごすなんて恐ろしい失態だ、小隊長の責務を忘れるなんて。
慌てて起き上がるとコタツの上に散らばったトランプがあるのが見えた。そして、コタツの右側で埋もれるように丸まって眠るミサキの姿も。その反対側ではアサギが箪笥に背を預けたまま目を閉じていた。
一瞬の混乱の後、ようやくロナは昨夜の事を思い出してきた。
ミサキの考案したカードゲームで自己紹介するだけだと思ったら意外と長くかかってしまった事。ミサキのオニイチャンの事で怒られた事。ロナの使っている刀は大陸から渡ってきた骨董品の軍刀だと話した事。アサギが何度もカードを切った事。
いつ意識が無くなったかの記憶は無いが少なくとも2時は回っていたはずだ、と手繰り寄せた記憶の中で時計を見る。
まずはカーテンを開けなければと立ち上がるロナ。
途中、くずかごから落ちたみかんの皮も拾い「せっかく大掃除できたのにな……」とこぼす。
一昨日もいつもの時間に起きられなかった事を思い出し、緩んでいるなと反省する。
一気にカーテンを開けると、光が部屋に流れ込んできた。
眩しさに目を細めてロナが振り返ると、ミサキがうめきながら寝返りを打ったところだった。これはゆすっても起きないだろうとなとため息をつく。
アサギはどうだろうかと見ると、鼻のあたまが赤く点滅していた。
「充電切れか……」
充電ボードなんてあっただろうか、と考えてミオリの充電ボードはまだ処分してなかった筈だとロナは思い出した。物入れを探り、出てきた充電ボードは少し埃をかぶっていた。
アサギの製造年はミオリと同じだったはずだが使えるだろうか。
不安であったが他に思い当たるものもなし、軽くボードを拭ってアサギを抱えて下にボードを置く。ゆっくりと座らせ、点滅から点灯に変わったのを確認したロナは緊張を解いた。
そこで、はたとロナは気づいた。
ーー普通の機械人形は100%の充電で連続約10時間稼働できる。だが、今回のアサギの稼働時間は10時間を超えていたはずだ。俺の部屋に来たのは昼過ぎで、寝落ちする直前が午前2時頃。ゲーム中に充電切れの警告は出なかったから、12時間以上連続稼働できたわけだ。大容量充電パックが搭載されているのか、未だアサギの本当の性能がわからないーー
「汚染駆除班も結社に参加している機械人形の事を全部わかるわけじゃない。予想外の事が起きるもんなのは当たり前だろ。」
以前、汚染駆除班へアサギとヘラの資料を受け取りに行った際にアスキーという男が見下す様に言っていた事をロナは思い出した。
ーーそれはそうかもしれない。保証書も説明書も手元にないわけだし、持ち主が個人的にカスタマイズし直すこともあるーー
資料でも連続稼働時間の欄は空欄だった事を思い出し、追加報告が必要だとロナは結論した。
ふと、視線を感じて振り向くと窓を背に無表情で赤い目のミオリが立っていた。
いつもと同じく呼吸をするように赤い目が点滅する。
それを見たとたん「今日くらい全部休みたい」と言おうと開きかけていた口が固まり、ロナは声が出せなくなった。
焦りで冷や汗が全身に滲み、緊張で視界が虹色にぼけた。
どれくらいそうだったかはわからない。
「休みでも日課をサボる訳にいかないな」と考えを修正し、緊張が解けた時にはロナの口の中も喉もカラカラに乾いていた。
台所へ駆け込んでコップ一杯の水を飲み干し、窓際を見やる。
相変わらず佇むミオリ。その背負う窓の外には薄曇りの空が広がっていた。
「……俺は、休んではいけない。」
ポツリと呟いたロナは綿入れ半纏を脱ぎ、いつもの羽織を肩にかけて愛用の刀を掴んだ。
外へ出る直前、コタツに埋もれて眠るミサキと充電中のアサギの姿を目に焼き付ける。
「人間も機械人形もない。俺と同じ人をこれ以上生まない為にいつでも斬れるようにする。ミサキ女史の恩に報いるにもそれしかない。そういう事なんだよな、ミオリ。」
振り向かずに部屋の扉を閉めたロナは練習場へ足を向けた。
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