Twitter創作企画「薄明のカンテ」のまとめ。世界観の説明に始まり、小説・イラスト・漫画・音楽その他、創作企画で生まれた作品を掲載する場所。

お正月を迎える一ヶ月ほど前。テディは結社内をウロウロする事が増えた。普段行かない様なところまで足を運び、色々見回しては調達班に戻ってくる。そして何やらメモを取るのだ。
正直何をしているか分からない。まあ仕事に支障は無いし咎めることでもないのだが。
それから半月程経って、テディはある日の仕事終わり、シキを伴って外に出た。シキも大荷物を運んでクタクタだろうに御構い無しに連れて行くテディ。少し可哀想だな、とユーシンは思った。
しばらくすると「たっだいま〜!!」と元気良く帰ってくるテディ。彼は手にリストの様な物と何やら小物を持っていて、シキは大きめの段ボールを持っている。シキが手に持ったそれを降ろすと結構重そうな音がした。
「テディ、それ何?」
ユーシンが何となく声を掛けると、テディはキラリと目を輝かせた。
「ふっふっふ〜…聞いて驚けー!お正月マストアイテム!着物でーす!!」
「じゃーん」
表情を変えずにノリだけ合わせるシキに軽くズッコケながら段ボールの中を覗くと、カラフルで華やかな柄がたくさん見えた。凄く重そうなのだが、シキはこれを運んできたのか、仕事と言う重労働の後に。
「……で?綺麗だけど…こんなたくさんどうするのさ?」
「ユーシン、結社内でどのくらいの人が正月に浮かれたいと思ってるか知ってる?」
「え?あんまり意識してなかったからなぁ…どのくらい?」
「ボクも知らない」
「おい」
「でもね、結構な人が居たのは確か。何がどうって大人はきっとお酒を飲みたがってるの。皆でどんちゃん騒ぎ…俗世を離れるが如く笑って呑んで、食べる夜…勿論、かつては名うてのシェフだったと噂されるノエがいるあの食堂の全面協力とか良くない…!?」
うっとりと言うテディに思わず生唾を飲む。お酒を飲める年齢でも無いのに、妙に美味しそうに思えてしまった。と言うのも、食堂にいるノエの事は知っていたし、彼の料理が絶品なのも知っていた。それは想像してよだれを垂らすのも無理のない話で。
ただし、食堂を聖地と考えそうなノエが協力してくれるかは分からないが。酔い潰れる人が多ければ多いほど、後の祭りと言うかノエを怒らせてしまいそうだ。
「…そして酔い潰れて二日酔いで迎える朝!!目の前に華やかな着物美人がいたら眼福でしょぉぉぉお!!?」
「………なんかテディ、発想がオヤジ…」
何故かテディは時折こうなのだ。彼の事だから服だけでなくメイクもたまにしたくてウズウズしてて、周りも巻き込んで何かやらかしそうではあるのだが、それが単純にメイクやコーディネートがしたいからなのか、ただ単に馬鹿騒ぎしたいからなのか、はたまた何か下心でもあるのか、分からないが故にユーシンの目には今回とても発想がオヤジに見えた。
「お?お?ユーシンてば何〜?もしかして一人だけ硬派気取り〜?」
「硬派とかナンパとか無いから!」
「ミアもヒギリもやりたいんだけどなぁ、着付け」
「え」
「と言うか女の子は皆着物着て欲しいよね〜。ねぇ、シキ?」
「…ねえユーシン、何かさ、テディこの企画に乗じて色んな人に着せる気だよね」
シキがどうでも良さそうに呟いたが、それは確実にこちらにも矛先が向くだろうと言う恐怖の未来予知だった。
「ん〜…ヴォイドは胸が少しネックだなぁ…着物の基本は寸胴な美しさって読んだから…タオルでお腹に厚みを作るしか無いか…他にそんな感じの女の人何人居たっけ?タオルは結構いるかも…まあ何にせよ!!腕が鳴るよね!?帯引っ張ってあ〜れ〜も夢じゃないよって言ったらテオも協力してくれそー」
あ、今回の犯行動機(テディは暴走すると周りにも迷惑を被らせるので度合いによってはこう言う不名誉な呼び名をされる事もある。おそらく今回は犯行動機クラス)、完全に物珍しい着物の着付けをやりたい欲求から来たなこれは。そしてそんな企画が上がったものだからこれ幸いに立候補して仕事後の自由時間を全部メイクと着付けの計画練りに充てていたな。
恐ろしいのは、テディはその強引さでもって普段そう言う事をしなそうな人までペースに巻き込んでしまうのだ。なので、テディに押し負けられるタイプの子が可哀想によく犠牲になるのだが…。今上がったテオフィルスも、何だかんだ優しいから多分、巻き込まれてくれるのだろう。と言うか彼への誘い文句は流石に偏見の塊が過ぎるぞ。
「ミアとヴォイドとー、ミサキとアンとヘレナちゃんとユリィさんにも声掛けよー!あとエル先生とロザリーさんとヒルダさんとー…」
「今声掛けちゃいけない系の人の名前挙げたよね!?三人目くらいに!」
「ユーシンてば、情報だけ取り過ぎてミサキのイメージ怖すぎるの持ってないー?大丈夫大丈夫、無茶してもきっと土下座したら許してくれる」
「もう土下座する未来しか見えないよ」
「まあ、嫌がる子に無理しちゃいけないから数打ちゃ当たると言う事でねっ。後はヒギリとウルとー、せっかくだから機械人形の皆にも声掛けよー!それから男性陣もー…」
「ぼくの知ってる女の子ほぼ全員だ…」
結局、数多くのメンバーの名を挙げたものの、皆盛り上がるのには賛成してくれたが着物を着るとなるとなかなか承諾してくれず、テディに押し負けた或いは喜んで参加してくれた数名に着替えてもらう話を漕ぎ着けられた。シリルはやたらと協力的で、着付けも一緒にやってくれると言うのでテディの喜びは爆上がりだ。
ちなみにミサキはテディが来るや否や何かを察知したのか暖房が機能しなくなるのではと言っても過言では無い様な冷気を発してしまったのでユーシンは何も言う前に平謝りして逃げた。テンションがバカみたく上がったテディはひたすら笑っていたのでユーシンは寿命が縮まる思いだった。
その後、ただ廊下を歩いていたミアの前に立ちはだかったテディは「良いではないかー」の一言でミアを連れてずんずんと、平たく言えば拉致して着付けに及んだ。流石に女の子が相手なので着付けはシリルがやる事になり、テディはメイクをする事に。
「何かテディ、ご機嫌だね」
若干引き気味でミアはそう口にした。
「そう?ふふふ…ボク、ロナ見てて着物が凄い好きになったの!綺麗だし、お上品だし、なのに柄次第では華やかだし…」
「で、でも…これで班の皆に新年の挨拶って…今思うともしかしたら…気合い入れすぎかな…?」
目元のメイクを施していたテディは丁寧にそれを終わらせると、ミアの顎を優しくくいっと掴んで少し上を向かせあらゆる方向から顔を見た。
「気合い入れて良いよー。だってミアはこんなにも可愛いんだから」
「え!?」
「はい次チーク、その次リップー」
くるくるっとピンク系のチークをブラシに取り、頰を優しく色付けていく。次はリップを繰り出し、リップブラシでそれを唇に移していく。すっと唇に当たったところからゆっくりほのかに色付いていく。
テディはその都度ミアの顔に手を添え、それを満足そうに眺めていた。
「うん、可愛い」
「テ、テディ…?」
「凄く可愛いよ、ミア。ん〜…可愛すぎてボク以外の人に見せるの何だか勿体無くなってきちゃった」
一瞬見せた顔にどきりとする。よくよく考えたら結構な至近距離にテディの顔があるこの状況に少しだけミアは恥ずかしくなった。ただし、テディに他意は無さそうである。
「ん〜…でも可愛いからこそやっぱしっかりミアを皆にも見せたい…どうせなら広報にポスター作ってもらって…」
「…テディ、その褒め文句、絶対勘違いする人いるからあんまり使っちゃダメ!」
「えー!?何でー!?広報にポスターだよ!?正直な気持ちだよ!?」
「そっちじゃない!そっちもダメだけど!」
若干疲れながら最終チェックを鏡の前で。シリルに一緒に見てもらい、ミアは少しだけ今日の格好にワクワクしてきた。
「ほら、早く医療班の皆様に新年の挨拶に行ってきなさい」
「うん!」
その後、調達班のメンバー全員に着付けを施し、自身も着飾ってご満悦なテディは年末年始あらゆるところに出没し写真を撮りまくっていたとか何とか。着物への金遣いの荒さにギルバートもアルヴィも悲鳴をあげた。が、テディがちらつかせた皆が楽しそうに年末年始を満喫する写真を見て少しだけ悲鳴は抑えた。
「ふふふ…次は誰を可愛くしようかなー?」
「テディ、もはや通り魔だよ…」
ユーシンの隣で通り魔の如くいたテディは、年末年始をひたすらに暴れ尽くし、満足行くとその後図った様に風邪をひいた。
シキも同じだけ動いていた筈だが、彼は甘味を口に出来れば回復するらしいとは本人談。まあ、これで少しは大人しく静かになるだろうとユーシンは思ったが、テディはどうやら次のイベントの為に滋養しているだけだと言うのは後で思い知った。

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