愛の日に確かな愛を君に／燐花
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rinka_creation 2021年02月14日(日) 21:31:56履歴
保育部早朝。子供達の到着を待っていたオルヴォが最初に目にしたのはどう見ても普段この場に来ない様な女性だった。
「(あれは…医療班のスクラブか？)」
髪を一まとめにし、スクラブの上に上着を羽織ったスタイルの良い女性。何かを待っているのかキョロキョロ辺りを見回しているがはっきり言って怪しい事この上ない。
「(うーん…子供たちが来る前にちょっと話をしとこう…)」
子供にとって医療班のスクラブと言うのはなかなかに恐怖の対象でもある。オルヴォはキョロキョロしてるその女性に声を掛けに行った。
「あのー、すみません」
「わっ、びっくりした」
「あー…驚かせちゃいましたかね…？ぼくは…」
「あ、オルヴォ…ワシ何とか…」
「ワシレフスキーです。貴女は医療班のヴォイドさんですよね？何されてるんです？」
スクラブの女性はオルヴォも何となく知っている人物だった。と言うか、荒い治療で有名な、それ故に子供の処置にはあまり回されない女性。だからこそ普段関わりを持たないオルヴォにはヴォイドは少し珍しい存在だった。
「私…フランソワ待ってる」
「貴女が？何でまた…？」
「ロザリーとベルナールに愛の日のお菓子渡したくて。そう思ったら、フランソワにも渡したくて、一番渡しやすいのはここだと思ったの」
「なるほど…」
オルヴォはヴォイドの体をじっと見る。どう見てもその薄着じゃ寒いだろうに、よく見ると指先も冷えているのか赤くなっているし、ずっと外で待っているなんて無謀にも思えた。何故言わなかったのだろうか。
「にしてもこの時期スクラブだけじゃ寒いでしょう？何で言わなかったんですか？話してくれたらいくらでも中で待たせてあげたのに」
「人がいると思わなかった」
「あー…なるほど…」
「…待ってて良い？」
「少しなら」
オルヴォはそう言ってヴォイドを中に入れる。ふと横に立って彼女の顔にパンくずが付いている事に気が付いた。早朝だし、朝ご飯を食べてすぐ出て来たんだろうなと思ったが、何だか格好と言い立ち振る舞いと言い子供みたいな人だな。
「先生おはようございます！！」
ヴォイドが一番願っていた声がそれはそれは元気良く部屋に響き渡った。やって来たのはフランソワ。タイミング良く、仕事に向かうベルナールとロザリーが揃って彼の見送りに来ていたのもラッキーだった。
「あー！！お姉ちゃん！！」
「あ、フランソワ」
「あら！？ヴォイド珍しいわね！？どうしたのこんなところで！？」
ヴォイドが答える前にフランソワがだだだだと走り出し、そのままヴォイドに飛び付いた。フランソワはヴォイドの首に抱き付き、突っ込まれた勢いに負けたヴォイドはそのまま彼と一緒に仰向けにひっくり返った。
「いてて…」
「お姉ちゃんおはよー！！」
「…おはよう、フランソワ」
ヴォイドの首を絞めんばかりの勢いで甘える様に頬擦りをするフランソワを見てロザリーは「やだフランソワったら大胆ねー」と微笑ましげに笑う。ヴォイドはフランソワの頭を撫でて抱いたまま体を起こした。
「おはよう、ロザリー、ベルナールも」
フランソワを気遣い、頬擦りさせたままにしているヴォイドに気付き、二人も同じ様にしゃがんで目線を合わせる。
「君がこんなところにいるなんて珍しいね」
「普段来る事無いし」
「そうよねぇ、親戚の子とかいるわけじゃないもの、なかなか来ないわよねぇ？あら？だとしたら今日どうしたの？」
「あのね…」
ベルナールがフランソワをトントンと優しく指で叩くとヴォイドから一度離れたので、立ち上がり近くに置いてあった鞄をゴソゴソと漁る。彼女が取り出したのはお店で買ったと思しきクッキーアソートだった。
「これ…今日愛の日だから…」
「あら…私達に！？」
「良いのかい？」
「うん…」
「これ渡す為だけにわざわざ来てくれたの？ヴォイドってば」
「…うん……」
「お姉ちゃんありがとー！！」
ロザリーもベルナールもフランソワも皆喜んでくれた。ホッとしているとロザリーがお返しをくれた。
「にしてもヴォイドも今日は愛の日楽しめそうなのね、私ホッとしたわ」
「うん、今日くらいは良いかなって」
「…今日くらい？良いって何がだい？」
「…人にちゃんと『好き』って伝えても。誰の事もとられないかな？って思って」
そう言うヴォイドの瞳はいつも通りジトッとしていた。ロザリーとベルナールは顔を見合わす。彼女の生い立ちは知らないが、好意を見せたタイミングで彼女にとって何らかの失敗体験が過去に起きていたのなら色々と臆病になっても仕方がないのか。好きと言う感情をあまり伝えるところを見た事が無かったが、もしかしたら意図的に日頃考えない様にしているのかもしれない。
「…そんな難しい事考えなくても私はヴォイドの事好きよ？」
「うん、私もだよ。フランソワだってそうさ」
「だけど、皆ピンピンしてるわよ？愛の日じゃなくてもね！だからヴォイドも、何を気にしてるかは分からないけど、そんな事考えずに自分の好きな人にちゃんと好きって言って良いのよ？誰も、貴女から何か取ってったりしないわ」
そう言ってヴォイドの肩に手を置くロザリー。ヴォイドは少しだけ安心した様に頬を赤く染めたが、何か腑に落ちない考えでもあるのかすぐに不思議そうな顔をした。
「改めてそう言われると、誰へのどんな気持ちが好きになるのか分からない…」
「そう言えばヴォイドってば、好きな食べ物もまともに答えられなかったわね。普段好きって気持ちを全く意識してないんでしょ？」
「うーん…」
「自分が誰を好きだと思っているか、そんな早く見付けようとしなくても良いけど、人から言われたり人から向けられたりした時だけ少し敏感になっても良いかもしれないわね！ヴォイドだってお年頃なんだから、好きって気持ちを向けてくる人だっているかもしれないわよ？その時にヴォイドが何も分からなくて突っぱねちゃったらやっぱり結果としてヴォイドも相手もちょっとだけ寂しいと私は思うわ」
「受け止めるって事…？」
「相手から言われるマイナスな事はいくらでも受け流して良いわ、でも相手から言われるプラスな事はいくらでも好きな様に受け止めても良いのよ。貴女が愛される事を否定する権利なんて誰にも無いの。例えそれが超常的な存在であってもね」
消滅の神様なんて居ないのかな？ヴォイドの呟きにロザリーもベルナールもにっこり微笑む。
「居てたまるもんですか！」
「そっか…」
大人のする大人の会話は見ているだけではまだ幼いフランソワには分からない。だけど、大好きなお姉ちゃんのコロコロ変わる表情だけは子供心に見ていて少しハラハラしたし、寂しそうに目を伏せる姿は見ていて幼い胸がぎゅっとした。
大好きなお姉ちゃんに何かしてあげたい。会話自体は分からないけど、フランソワの幼い心を突き動かしたのはフランソワに芽生え始めた誰かを大事にする気持ちだった。
「僕はお姉ちゃん好きー！！！」
ぎゅっと首に手を回し頬擦りするフランソワ。「大人になったらお姉ちゃんと結婚する！」と意気込む彼にその場の誰もが微笑んだ。ヴォイドも柄にもなく「じゃあフランソワが大人になったらね」なんて口走る。
「何かやたら尊いやりとりが繰り広げられてるんだが」
傍で見ていたオルヴォは一部始終を見て誰にも聞かれない様な小さい声でそう言った。
「(あれは…医療班のスクラブか？)」
髪を一まとめにし、スクラブの上に上着を羽織ったスタイルの良い女性。何かを待っているのかキョロキョロ辺りを見回しているがはっきり言って怪しい事この上ない。
「(うーん…子供たちが来る前にちょっと話をしとこう…)」
子供にとって医療班のスクラブと言うのはなかなかに恐怖の対象でもある。オルヴォはキョロキョロしてるその女性に声を掛けに行った。
「あのー、すみません」
「わっ、びっくりした」
「あー…驚かせちゃいましたかね…？ぼくは…」
「あ、オルヴォ…ワシ何とか…」
「ワシレフスキーです。貴女は医療班のヴォイドさんですよね？何されてるんです？」
スクラブの女性はオルヴォも何となく知っている人物だった。と言うか、荒い治療で有名な、それ故に子供の処置にはあまり回されない女性。だからこそ普段関わりを持たないオルヴォにはヴォイドは少し珍しい存在だった。
「私…フランソワ待ってる」
「貴女が？何でまた…？」
「ロザリーとベルナールに愛の日のお菓子渡したくて。そう思ったら、フランソワにも渡したくて、一番渡しやすいのはここだと思ったの」
「なるほど…」
オルヴォはヴォイドの体をじっと見る。どう見てもその薄着じゃ寒いだろうに、よく見ると指先も冷えているのか赤くなっているし、ずっと外で待っているなんて無謀にも思えた。何故言わなかったのだろうか。
「にしてもこの時期スクラブだけじゃ寒いでしょう？何で言わなかったんですか？話してくれたらいくらでも中で待たせてあげたのに」
「人がいると思わなかった」
「あー…なるほど…」
「…待ってて良い？」
「少しなら」
オルヴォはそう言ってヴォイドを中に入れる。ふと横に立って彼女の顔にパンくずが付いている事に気が付いた。早朝だし、朝ご飯を食べてすぐ出て来たんだろうなと思ったが、何だか格好と言い立ち振る舞いと言い子供みたいな人だな。
「先生おはようございます！！」
ヴォイドが一番願っていた声がそれはそれは元気良く部屋に響き渡った。やって来たのはフランソワ。タイミング良く、仕事に向かうベルナールとロザリーが揃って彼の見送りに来ていたのもラッキーだった。
「あー！！お姉ちゃん！！」
「あ、フランソワ」
「あら！？ヴォイド珍しいわね！？どうしたのこんなところで！？」
ヴォイドが答える前にフランソワがだだだだと走り出し、そのままヴォイドに飛び付いた。フランソワはヴォイドの首に抱き付き、突っ込まれた勢いに負けたヴォイドはそのまま彼と一緒に仰向けにひっくり返った。
「いてて…」
「お姉ちゃんおはよー！！」
「…おはよう、フランソワ」
ヴォイドの首を絞めんばかりの勢いで甘える様に頬擦りをするフランソワを見てロザリーは「やだフランソワったら大胆ねー」と微笑ましげに笑う。ヴォイドはフランソワの頭を撫でて抱いたまま体を起こした。
「おはよう、ロザリー、ベルナールも」
フランソワを気遣い、頬擦りさせたままにしているヴォイドに気付き、二人も同じ様にしゃがんで目線を合わせる。
「君がこんなところにいるなんて珍しいね」
「普段来る事無いし」
「そうよねぇ、親戚の子とかいるわけじゃないもの、なかなか来ないわよねぇ？あら？だとしたら今日どうしたの？」
「あのね…」
ベルナールがフランソワをトントンと優しく指で叩くとヴォイドから一度離れたので、立ち上がり近くに置いてあった鞄をゴソゴソと漁る。彼女が取り出したのはお店で買ったと思しきクッキーアソートだった。
「これ…今日愛の日だから…」
「あら…私達に！？」
「良いのかい？」
「うん…」
「これ渡す為だけにわざわざ来てくれたの？ヴォイドってば」
「…うん……」
「お姉ちゃんありがとー！！」
ロザリーもベルナールもフランソワも皆喜んでくれた。ホッとしているとロザリーがお返しをくれた。
「にしてもヴォイドも今日は愛の日楽しめそうなのね、私ホッとしたわ」
「うん、今日くらいは良いかなって」
「…今日くらい？良いって何がだい？」
「…人にちゃんと『好き』って伝えても。誰の事もとられないかな？って思って」
そう言うヴォイドの瞳はいつも通りジトッとしていた。ロザリーとベルナールは顔を見合わす。彼女の生い立ちは知らないが、好意を見せたタイミングで彼女にとって何らかの失敗体験が過去に起きていたのなら色々と臆病になっても仕方がないのか。好きと言う感情をあまり伝えるところを見た事が無かったが、もしかしたら意図的に日頃考えない様にしているのかもしれない。
「…そんな難しい事考えなくても私はヴォイドの事好きよ？」
「うん、私もだよ。フランソワだってそうさ」
「だけど、皆ピンピンしてるわよ？愛の日じゃなくてもね！だからヴォイドも、何を気にしてるかは分からないけど、そんな事考えずに自分の好きな人にちゃんと好きって言って良いのよ？誰も、貴女から何か取ってったりしないわ」
そう言ってヴォイドの肩に手を置くロザリー。ヴォイドは少しだけ安心した様に頬を赤く染めたが、何か腑に落ちない考えでもあるのかすぐに不思議そうな顔をした。
「改めてそう言われると、誰へのどんな気持ちが好きになるのか分からない…」
「そう言えばヴォイドってば、好きな食べ物もまともに答えられなかったわね。普段好きって気持ちを全く意識してないんでしょ？」
「うーん…」
「自分が誰を好きだと思っているか、そんな早く見付けようとしなくても良いけど、人から言われたり人から向けられたりした時だけ少し敏感になっても良いかもしれないわね！ヴォイドだってお年頃なんだから、好きって気持ちを向けてくる人だっているかもしれないわよ？その時にヴォイドが何も分からなくて突っぱねちゃったらやっぱり結果としてヴォイドも相手もちょっとだけ寂しいと私は思うわ」
「受け止めるって事…？」
「相手から言われるマイナスな事はいくらでも受け流して良いわ、でも相手から言われるプラスな事はいくらでも好きな様に受け止めても良いのよ。貴女が愛される事を否定する権利なんて誰にも無いの。例えそれが超常的な存在であってもね」
消滅の神様なんて居ないのかな？ヴォイドの呟きにロザリーもベルナールもにっこり微笑む。
「居てたまるもんですか！」
「そっか…」
大人のする大人の会話は見ているだけではまだ幼いフランソワには分からない。だけど、大好きなお姉ちゃんのコロコロ変わる表情だけは子供心に見ていて少しハラハラしたし、寂しそうに目を伏せる姿は見ていて幼い胸がぎゅっとした。
大好きなお姉ちゃんに何かしてあげたい。会話自体は分からないけど、フランソワの幼い心を突き動かしたのはフランソワに芽生え始めた誰かを大事にする気持ちだった。
「僕はお姉ちゃん好きー！！！」
ぎゅっと首に手を回し頬擦りするフランソワ。「大人になったらお姉ちゃんと結婚する！」と意気込む彼にその場の誰もが微笑んだ。ヴォイドも柄にもなく「じゃあフランソワが大人になったらね」なんて口走る。
「何かやたら尊いやりとりが繰り広げられてるんだが」
傍で見ていたオルヴォは一部始終を見て誰にも聞かれない様な小さい声でそう言った。
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