恋は雷の一撃のように／べにざくろ
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g_a3b2c3o12 2020年12月31日(木) 22:04:02履歴
彼を一目見た瞬間、恋に落ちる音がした。
その音は過去に恋した保育園の時の初恋の先生も、小学校のクラスの人気者の男子も、中学校の先輩で初彼氏だったけど別れた人も、高校で付き合って彼の卒業と同時に別れた2人目の彼氏も、全部全部きれいに忘れさせる程の力を持っていた。
（ ネビロス・ファウストさん…… ）
マルフィ結社に入って本当に良かった。新しく医療 班に入ってきた彼がアキヒロに色々と説明されているのを視界に入れながら、ミアは自分が出来る仕事―――医療器具の管理や在庫整理―――を行う。
ネビロスを見ているとドキドキして、何だか家族を喪ってミアの心の欠けたところに恋心がピッタリと嵌り込んだようだった。
灰色の日々が、灰色の人のおかげで色付いていく。まさに、そんな気分。
（ カッコいい……どうやったら話しかけられるかなぁ ）
相手が同年代くらいなら気軽に話しかけに行けるが、ネビロスは立派な大人。なかなか子供のミアから話しかけにいくのは難しい。物の場所をしっかり覚えておいて困ってそうな時に教えてあげようとか、結社内の施設の場所とか、どうにかして話し掛けられそうなネタを色々と思い巡らせていく。
「 心ここに有らず、といった感じですねぇ 」
「 ふぇ!? 」
急に肩にポンと手を置かれてビックリして手の主を見ると、それは悪戯っぽい笑みを浮かべた機械人形 のフユだった。
「 そ、そんなことないよ! ほら、数えた在庫もちゃんと合ってるし! 」
思いきり顔に「 そんなことあります 」と書いてあるような表情でミアは言うが、人に寄り添うことが得意な医療用機械人形にとって彼女の嘘を見破ることは容易いことだった。とはいえ、フユは揶揄うなんて野暮なことはせず「 そうですか 」と言うだけに留める。
「 フユちゃんは……ふぁ、ファウストさんの案内しなくていいの? 」
「 アキ先生にお任せしてますから 」
言っておいて何だが、そんなに広い訳でもない医療班の部屋を案内するのに2人も人員はいらないだろうとミアは思い直す。そんなことを思いながは改めてアキヒロとネビロスを見た。
男性の平均身長くらいのアキヒロと並んでいる姿を見ると、ネビロスは若干アキヒロより高めに見えるから身長は180cmくらいはあるかもしれない。それにアキヒロは金色の髪を綺麗に結っているけど、ネビロスは灰色の髪をそのまま下ろしているだけ。アキヒロみたいに結ったら綺麗な顔がもっと良く見えてカッコいいのだけど、縛らないのだろうか。いつか結わせて貰えないかな、なんてことを思う。
じっくりと眺めすぎた視線にアキヒロが気付いたのか、はたまたそのタイミングなだけだったのかアキヒロの青緑の目が、ミアの空色の目とバッチリ合った。そして、ネビロスに何事か言うように唇が動くけど何を言っているのかは分からない。
「 フユちゃん、2人がこっち来る! え、どうしようっ 」
「 普通にしていれば良いと思いますよー 」
パニックに陥るミア。冷静なフユ。
対称的な2人の前にアキヒロとネビロスがやって来た。近くで見ると、より一層ネビロスがカッコいい。何でこの人が芸能人とかモデルじゃないんだろう。世界はおかしい。いや、でも芸能人だったらこんな近くで会えなかっただろうから違って良かったのかも。世界じゃなくて、おかしいのはミアの頭だけど、それを本人が気付く術はない。哀れである。
「 この機械人形がさっき言ったフユ。医療用機械人形で看護師として活動して貰っているんだ。そして…… 」
「 ミア・フローレスです。よ、よろしくお願いします…… 」
アキヒロの視線に促されて名乗りながら頭を下げる。恥ずかしくて声も小さくなってしまったし、多分顔も真っ赤になっているだろうから上げることも出来ない。
（ 折角の挨拶なのにこれじゃ印象悪いよー!! ）
愛用雑誌『 ロリポップ 』の春先の特集『 今から学んどこっ☆好印象“ジコショ”の鉄則！ 』のNG例を連発してしまったことに気付いて余計に自己嫌悪に陥る。学校では毎年ジコショ（ 自己紹介 ）を完璧にこなせていたのに、まさかここで失敗するなんて。
「 フローレスさん、よろしくお願いします 」
最初に部屋に来た時に全体に向けた挨拶の声の時も思ったが、やはりネビロスは声も良い。
顔も良い、声も良い。ひょっとしたらネビロス・ファウストは人間じゃなくて機械人形なのかもしれない。ミアの男性の好みを熟知した会社の人が製造したんじゃないだろうか。それくらいネビロスの存在はミアに刺さった。
「 はい…… 」
折角ネビロスに名前（苗字だけど）を呼んで貰えたのに小さな声で返事をすることしかできない。おかしい。こんなの自分じゃない。
結局、アキヒロとネビロスの顔を間近で見ることなく2人はミアとフユの前から立ち去っていった。十分に距離が離れたのを確認してから更にゆっくり10を数えたミアは顔を上げる。
「 良かったんですか? 」
顔を上げたミアにフユが問い掛ける。そんなフユに気落ちした表情でミアは首を横に振る。
「 ……良くない。第一印象最悪だったもん……どうしよう、フユちゃん 」
逆に問いかけられて、己に蓄積されたデータから最適解を導き出したフユはミアを励ます言葉を思い付いた。
「 大丈夫です。初頭印象から挽回した第二印象の方が良い印象になりますから 」
「 本当に? 」
「 本当です 」
力強く頷くフユに、元気を貰った気がしてミアの顔が輝く。
「 そうだよね! 次は頑張るぞー!! 」
拳を振り上げて固く誓うミア。彼女は忘れていた。
「 あれは何でしょう……? 」
「 彼女は本当はああいう子なんです 」
大きな声で叫べばネビロスとアキヒロに聞こえてしまうということを。
その音は過去に恋した保育園の時の初恋の先生も、小学校のクラスの人気者の男子も、中学校の先輩で初彼氏だったけど別れた人も、高校で付き合って彼の卒業と同時に別れた2人目の彼氏も、全部全部きれいに忘れさせる程の力を持っていた。
（ ネビロス・ファウストさん…… ）
マルフィ結社に入って本当に良かった。新しく
ネビロスを見ているとドキドキして、何だか家族を喪ってミアの心の欠けたところに恋心がピッタリと嵌り込んだようだった。
灰色の日々が、灰色の人のおかげで色付いていく。まさに、そんな気分。
（ カッコいい……どうやったら話しかけられるかなぁ ）
相手が同年代くらいなら気軽に話しかけに行けるが、ネビロスは立派な大人。なかなか子供のミアから話しかけにいくのは難しい。物の場所をしっかり覚えておいて困ってそうな時に教えてあげようとか、結社内の施設の場所とか、どうにかして話し掛けられそうなネタを色々と思い巡らせていく。
「 心ここに有らず、といった感じですねぇ 」
「 ふぇ!? 」
急に肩にポンと手を置かれてビックリして手の主を見ると、それは悪戯っぽい笑みを浮かべた
「 そ、そんなことないよ! ほら、数えた在庫もちゃんと合ってるし! 」
思いきり顔に「 そんなことあります 」と書いてあるような表情でミアは言うが、人に寄り添うことが得意な医療用機械人形にとって彼女の嘘を見破ることは容易いことだった。とはいえ、フユは揶揄うなんて野暮なことはせず「 そうですか 」と言うだけに留める。
「 フユちゃんは……ふぁ、ファウストさんの案内しなくていいの? 」
「 アキ先生にお任せしてますから 」
言っておいて何だが、そんなに広い訳でもない医療班の部屋を案内するのに2人も人員はいらないだろうとミアは思い直す。そんなことを思いながは改めてアキヒロとネビロスを見た。
男性の平均身長くらいのアキヒロと並んでいる姿を見ると、ネビロスは若干アキヒロより高めに見えるから身長は180cmくらいはあるかもしれない。それにアキヒロは金色の髪を綺麗に結っているけど、ネビロスは灰色の髪をそのまま下ろしているだけ。アキヒロみたいに結ったら綺麗な顔がもっと良く見えてカッコいいのだけど、縛らないのだろうか。いつか結わせて貰えないかな、なんてことを思う。
じっくりと眺めすぎた視線にアキヒロが気付いたのか、はたまたそのタイミングなだけだったのかアキヒロの青緑の目が、ミアの空色の目とバッチリ合った。そして、ネビロスに何事か言うように唇が動くけど何を言っているのかは分からない。
「 フユちゃん、2人がこっち来る! え、どうしようっ 」
「 普通にしていれば良いと思いますよー 」
パニックに陥るミア。冷静なフユ。
対称的な2人の前にアキヒロとネビロスがやって来た。近くで見ると、より一層ネビロスがカッコいい。何でこの人が芸能人とかモデルじゃないんだろう。世界はおかしい。いや、でも芸能人だったらこんな近くで会えなかっただろうから違って良かったのかも。世界じゃなくて、おかしいのはミアの頭だけど、それを本人が気付く術はない。哀れである。
「 この機械人形がさっき言ったフユ。医療用機械人形で看護師として活動して貰っているんだ。そして…… 」
「 ミア・フローレスです。よ、よろしくお願いします…… 」
アキヒロの視線に促されて名乗りながら頭を下げる。恥ずかしくて声も小さくなってしまったし、多分顔も真っ赤になっているだろうから上げることも出来ない。
（ 折角の挨拶なのにこれじゃ印象悪いよー!! ）
愛用雑誌『 ロリポップ 』の春先の特集『 今から学んどこっ☆好印象“ジコショ”の鉄則！ 』のNG例を連発してしまったことに気付いて余計に自己嫌悪に陥る。学校では毎年ジコショ（ 自己紹介 ）を完璧にこなせていたのに、まさかここで失敗するなんて。
「 フローレスさん、よろしくお願いします 」
最初に部屋に来た時に全体に向けた挨拶の声の時も思ったが、やはりネビロスは声も良い。
顔も良い、声も良い。ひょっとしたらネビロス・ファウストは人間じゃなくて機械人形なのかもしれない。ミアの男性の好みを熟知した会社の人が製造したんじゃないだろうか。それくらいネビロスの存在はミアに刺さった。
「 はい…… 」
折角ネビロスに名前（苗字だけど）を呼んで貰えたのに小さな声で返事をすることしかできない。おかしい。こんなの自分じゃない。
結局、アキヒロとネビロスの顔を間近で見ることなく2人はミアとフユの前から立ち去っていった。十分に距離が離れたのを確認してから更にゆっくり10を数えたミアは顔を上げる。
「 良かったんですか? 」
顔を上げたミアにフユが問い掛ける。そんなフユに気落ちした表情でミアは首を横に振る。
「 ……良くない。第一印象最悪だったもん……どうしよう、フユちゃん 」
逆に問いかけられて、己に蓄積されたデータから最適解を導き出したフユはミアを励ます言葉を思い付いた。
「 大丈夫です。初頭印象から挽回した第二印象の方が良い印象になりますから 」
「 本当に? 」
「 本当です 」
力強く頷くフユに、元気を貰った気がしてミアの顔が輝く。
「 そうだよね! 次は頑張るぞー!! 」
拳を振り上げて固く誓うミア。彼女は忘れていた。
「 あれは何でしょう……? 」
「 彼女は本当はああいう子なんです 」
大きな声で叫べばネビロスとアキヒロに聞こえてしまうということを。
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