Twitter創作企画「薄明のカンテ」のまとめ。世界観の説明に始まり、小説・イラスト・漫画・音楽その他、創作企画で生まれた作品を掲載する場所。

 テディの話術は頼りにしているが少しヒヤヒヤもする。それがユーシンの感想だった。テディは率先して明るく話してくれるからまあ、適任と言えば適任だが、彼は時々無茶な要求をする事もあるのだ。負けず嫌いなところもあり、相手も商売だと言うのを忘れグイグイ値下げ交渉を進める事も無くはないのでトラブルになったりしないかなぁとユーシンは思った。まあ、その大胆さも魅力と言えば魅力かもしれないが。
 しかしこの大胆さを危惧したのはサリアヌだった。テディの時折見せる無茶な交渉はせっかく得た協力者からの反感を買いやしないかと。己の力を過信するあまり協力者から反感を買ったら元も子もない。それを聞いたタイガはピンと来たのか「分かりやすい圧も加えれば良いんじゃない?」と、試験的に調達班の巨人ことシキを加えた。
 ユーシン、シュオニ、テディとその中に一際大きなシキを加えた四人。並ぶと他三人が小さく見える程、シキは異様に大きい。
「またずば抜けてデカイ…」
 もしかしたら結社で見た誰よりもデカイんじゃないかと言う体躯。テディはいつもの感じでもう慣れてしまい気付いたらおんぶされている。
 シキは大きな体をゆらりと動かすと(テディが乗っているから余計大きく感じる)ユーシンに近付き声を掛けた。
「ユーシン」
「え?」
「ユーシンはやらなくて良いの?おんぶ」
「い、いやぁ…荷物メインで持ってもらうのに今からこんな体使ったらシキ疲れるだろ?テディも、もう降りな?」
 少し保護者な目線で労いの言葉を掛けたユーシン。シキは大きな手を伸ばし彼の頭を撫でた。
「そう…ユーシン、優しいんだね」
「あ!シキもしかしてボクおんぶしてるの嫌なの?」
「そうじゃない。テディは可愛いよ。ユーシンは優しい、それだけ。おんぶは関係ない」
「本当?じゃあもうちょっと…」
「テディはそろそろ遠慮して降りな!?」
 ちぇーと口を尖らせたテディがシキから降りて来た。シキは顔色も変えぬまま少しだけ肩や首をボキボキ鳴らして動かすとまた歩き出す。彼に結構な大荷物を持ってもらう予定だが大丈夫なのだろうか。
「あ、ユーシン見て見てー。アレってさ、学校だよね」
 テディの指差す先にあったのは、倒壊した学校。テロの際に倒れたのか、吹き抜けになってしまった壁の壊れ具合と妙に真新しい廊下が昔の話ではなく今の問題として目の前に並んでいる。
 自分達も高校に上がる年齢だからか、高校に行ったらどんな風に過ごすかと言う話題に自然とシフトした。
「学校は…行った方が良い」
ふいにシキが口を開いた。
「ねえねえシキ〜。高校ってどんなとこ?どんなだった?」
「俺は高校に行ってない。在籍はしたけど、顔出さずに気付いたら終わってた。俺には高校の思い出はない。でも何となく分かる。多分テディは、人気出る。あと、ユーシンも」
「え?ぼくも?」
「二人揃ったら怖いものナシ」
 だから行った方が良い、きっと楽しい。そう言ってシキはテディとユーシンの頭を撫でた。
「ちょ、シキ!髪のセット崩れる!」
「せ、背が縮む…!」
 年も近いのでまるで放課後の学生の様な三人をシュオニはいつもの笑顔で見つめていた。

「こっちだってこんな被害に遭ってそれでも尚生きてく為に商いやってんだ!ンなワガママいつまでも通そうとするな!!」
 そう言われたのはほんの数時間前。テディの押しが完全に悪手になった瞬間だった。幼いテディの交渉はワガママに映り、とうとうトラブルに発展する。自分達だけじゃない、相手だって不安なのだ。もしかしたら、この機会に乗じて悪どい事をする者だっているかもしれない。それでも生きて行く為に相手を信じて商いをする。皆必死に藻搔いている中、テディの強気な交渉は余裕のある時ならば「面白い子」で済むかもしれないが、余裕のない今は煩わしいだけだった。
 こんな怒鳴られ方をし、少し冷静さを欠いたテディがそこに居たのをユーシンは見た。いつもの可憐な姿を捨て、我を通そうとしたテディ。それを制したのはシキだった。
「やめろ、テディ」
「シキ…」
「良いから、やめろ」
 大きい体に鋭い眼光。シキ自体は大人しいし何もしない。だが、そのひと睨みはその場にいた皆を冷静にするのに十分だった。どうしても感じてしまうのだ。あの大きな体から放たれる圧に、本能的な恐怖を。たとえ彼が優しくとも。結局シキが間を取り持った事でテディも相手も落ち着いてもう一度取引をし直した。なるほど、タイガの言う「分かりやすい圧」とはこう言う事かとユーシンは思った。ちなみに、直後不貞腐れたテディを慰めたのはユーシンとシュオニだ。

「本当なら、二人とも別に大人に混じって仕事する事も無かったし、普通に学校行ってた。多分テディは男女問わずキラーになってたし、ユーシンは年上の女子にモテてた」
「ええ!?」
「ユーシンうるさーい」
「でも、二人とも住んでたところ違うし、普通だったら出会えなかったかもしれなかった。出会ってもここまで仲良くなってなかったかも。まあ、「かも」だ。「かも」が付く」
 そう言われテディもユーシンも、二人して互いに顔を見合わせる。何だか気恥ずかしい様なこそばゆい様な。
「シキさんはここに来なければどうなっていたとシミュレートされますか?」
「そうだよー!ボクらだけじゃなくてシキはどうなの!?」
「うん、シキはどうなってたと思う?」
「俺?俺はー…プロのアルバイター。でも多分、普通にしてたらこんなに楽しくはやってなかったかな。ユーシンとテディとシュオニが居たから、今楽しい」
少し背を丸めふっと笑うシキ。それを見たテディは大袈裟にわっ!と手を上げるとシキの背中に張り付いた。
「ンだよイケメンかよぉぉぉお!!」
「え、何」
「だからイケメンかよぉぉぉお!!今日無茶な事してゴメェェエン!!ユーシンもシキもシュオニも心配かけてごめぇぇえん!!」
 耳まで真っ赤にしたテディはシキに張り付いたまま声を荒げた。なるほど、普通に謝ると暗くなりそうだし恥ずかしいし、勢いに任せて言いたかったのだろう。
「あー…うん、良い。でも相手も生きてく為だから、こっちが得になるギリギリを攻めような」
「え?テディのやり方で良いの?」
「荒いけど、悪くない。それに元々俺はテディの強さ嫌いじゃないし」
それを聞いてますますテディの目がキラキラした。
「嬉しい〜!ボク、シキにミルクプリン奢っちゃう!」
「え、本当に?」
 ミルクプリンの単語を聞いて今度はシキが目を煌めかせた。その意外な組み合わせに思わずユーシンは口元を緩める。
「へー…シキって甘いもの好きなんだ…」
「すごく。ユーシンは?」
「ぼくは…」
 好きだ。けど、思い出すものもある。
 ふっと頭を過るのはミーファ、フルーツタルト、そして父さん。甘いものと聞くと連想ゲームのようにあの時あの瞬間に一気に引き戻される事もあった。いや、美味しく食べれない事は無いけれど。
「じゃあとりあえず、今はユーシンも俺とミルクプリン食べよう。ついでにバナナシェイク飲もう」
 ぐんっと大きな手の平に頭を包まれる。はっとして前を見ればこちらを覗き込むシキと目が合った。
「だから…背ぇ縮む…」
「大丈夫、牛乳のスイーツは世界を救うから…」
 冗談なのか本気なのか分からないテンションのシキはそう言ってユーシンの持っていた荷物を肩に乗っけて歩き出した。
「あ、荷物…」
「何でもかんでも重い物は仲間と一緒に背負うと良い。磨り減るまで一人で引きずるのも良いけどさ」
 さあ行くよー、と締まりのない掛け声で荷物を背負ったシキはずんずん歩いていく。テディとユーシンはその後を追う様に歩いた。
「3Dボーリング学校でやるならさ、やっぱクラスメイト何人かと結託しないといけない気がするんだよねーボク。せっかくなら盛り上がった方が良いじゃん?」
「ん〜。でも問題はどんな子が参加してくれやすいか、だけど…」
「ユーシンさん、明るい社交的な子だったら一緒に盛り上がってくれる確率も上がるのでは無いでしょうか?」
「そうだね。明るく社交的、加えて盛り上げ役な子なら完璧だね」
「じゃあ、マルフィ結社調達班の名にかけて!学校でも人員調達しちゃうよー!」
「三人とも、3Dボーリングって…何…?」
 下校途中の様な四人の会話は尽きない。
 テディの奢りでミルクプリンの買い食いもし、楽しそうに笑いながら結社に戻る四人の姿を見た大人達もまた嬉しそうに頬を緩めた。
 後日シキから報告を受けたタイガも良い結果を聞いて嬉しそうに笑い、サリアヌもほっと表情を和らげる。
「子供の世話は子供に任せると早く解決するなんて事もあるんだねー」
「あら、あなたも年代的には同じなんですから分かるのではなくて?」
「シキは十九歳、オレは二十歳。誰がなんと言おうとその差は大きい」
「ふふっ、私からすればあなたも同じ様なものですわ」
 コーヒーに砂糖とミルクをそそくさと足して飲むタイガの横で優雅に時間を計って紅茶を蒸すサリアヌの姿が何とも大人に見えて、オレも紅茶に挑戦してみようかと人知れず目標を掲げたタイガだった。

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