推しが繋ぐ縁／べにざくろ
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g_a3b2c3o12 2020年11月07日(土) 21:11:05履歴
元ネタは涼風慈雨さんのいい推しの日イラストから！
―――対象のお菓子2個購入でA4クリアファイルのプレゼントキャンペーンが決定! クリアファイルは各店先着33枚。お店へ急げ!
仕事中、BGM代わりにBluetoothイヤホンから流していたラジオのCMの声にテオフィルスはキーボードを叩く手を止めた。おもむろに携帯型端末を取り出して、先程聞いた内容を政府の作った大して使い心地の良くない電子世界で検索。
（ ピアルルと黒天か…… ）
2つともギロクのテロによって撮影が中止されているが現行で最新の特撮番組だ。メンバーの人数はピアルルが6人、黒天が5人。クリアファイルは33枚というから、各店舗3枚づつの計算だ。
（ 激戦だろうなぁ、ご苦労なことで ）
こういったキャンペーンが行える程、平和が戻ってきているということなのか。2つともチェックはしていたもののグッズ収集に走る程の熱意はないテオフィルスは、仕事に戻ろうとする。しかし、とある情報に目が吸い寄せられた。
（ なっ……いやいや、待て待て!! ）
『 咲きほこれ！ピアルルSix 』と『 黒天の騎士 』のクリアファイルキャンペーンの情報の下に、別のコンビニでも同じようなクリアファイルキャンペーンがあるとの記事を見つけたテオフィルスは動揺を隠せなかった。
（『 懐かしのアニメ大集合! A4クリアファイルプレゼントキャンペーン 』だと……? ）
そこには最推しアニメ『 海上の青い星 』の主人公・セーラちゃんがテオフィルスに向かって微笑んでいたのだ。（ 尚、テオフィルスに向かってというのは痛いオタクの妄想である ）
心を落ち着かせるためにリキッド式電子タバコを取り出して肺に蒸気を入れる。その途端に、同室にいたミサキの絶対零度の視線が突き刺さってきた。ノンニコチン、ノンタールなんだから許して欲しいところだが、可愛いお姫様にテオフィルスは逆らう訳にはいかない。
「 ごめんな 」
電源を切って謝ると、ミサキは無言で目線を外した。睨んでこないのだから取り敢えずは許されただろうと判断して、もう一度画面のセーラを見つめる。
（ 絶対に手に入れてやるからな、セーラちゃん ）
午前７時１分。機械人形の恐怖にも負けず、テオフィルスはとあるコンビニエンスストアにいた。手にしたカゴには対象のお菓子と『 海上の青い星 』のクリアファイル、更にカモフラージュ用のお菓子が多数。
テオフィルスの狙ったコンビニには数人の同志がいたが、無事に各々が推しのクリアファイルを手に入れられたために平和な空気が店内には流れていた。目線だけでお互いの検討を称え合い、電子マネーで会計をすると帰路を急ぐ。
（ そういや、特撮のファイルもスタート同じ時間だったな。あっちの方が戦場だっただろう…… ）
放映が休止していたとはいえ、現行の特撮番組のグッズともなれば激戦に違いない。そんなことを思いながら大量の菓子を詰めたコンビニの袋を下げて歩いていると、その特撮番組のクリアファイルキャンペーンをやっているコンビニの袋を下げたフワッとした茶髪の男性がテオフィルスの前を同じ方向へ向かって歩いていることに気付く。
（ あれは……保育部の…… ）
一度、義足のことで世話になっているロザリーの息子を見てみたくて保育部を覗いて不審者扱いされたことのあるテオフィルスとしては、あまり関わりたくない人間だ。しかし、彼について聞いたことがあった。
『 保育部のワシレフスキーさんって爽やか系でかっこいいよね! 』
『 わかる! 子供好きとかポイント高すぎ! 』
『 え……あの人、顔は良いけどトクサツ? とかいうやつのオタクだから 』
『 マジか。無いわー 』
『 萎える 』
食堂でたまたま近くに座っていて聞こえた女子達の会話。オタクとバレるとモテないということを理解させられた会話だったので、テオフィルスは良く覚えていた。彼が特撮オタクで、こんな時間にあのコンビニの袋を下げているということはキャンペーンに参加した可能性が高い。
話しかけてみたい。しかし、もし違ったら?
あれこれと考えを巡らせながら保育部の男性の後ろを歩いていると、更に後ろから聞き覚えのある明るい声が聞こえてきたので思わず立ち止まって振り返る。
「 あ、おはよーございます! 」
「 おはようございます! 」
近付いてきて、朝から元気な声を響かせて挨拶してきたのは2体の機械人形だった。フィンイヤーが特徴的なオルカと、数字関係が得意な機械人形のミーナだ。オルカとは機械班の部屋で、ミーナには数学について熱く語ってもらう関係で面識があった。その後ろを若干テンション低めに歩いていた象牙色の長い髪をした子とは初見だ。
「 ボク達だけじゃ買い物行けないから、テディにも付いてきてもらったの 」
「 ベネットさんに買い物頼まれたの! 」
マルフィ結社の機械人形は安全とはいえ機械人形だけで歩いていたら一般の人々が怯えてしまう。そのため機械人形が外出する時は人間が付くのが常識となっていて、それで“ テディ ”という子が付き添いに巻き込まれたのだろう。そういう関係なら2体と同じ調達班の子に違いない。
（ 男、だよなぁ…… ）
わいわいと自分達の買い物戦歴を語る2体と会話をしながら、テオフィルスはさり気なくテディを上から下までチェックする。流行りに乗った可愛らしい女の子の格好だが、身体のパーツを見ると男の子で間違いないとは思う。思うのだが。
（ 男でも十分かわいいな、この子 ）
きっと男の姿をしても中性的なイケメンに違いない。羨ましい限りである。
「 無事に買えたみたいだね 」
立ち止まっている所に、テオフィルスが話しかけたくてもタイミングを逃していた保育部の男が戻ってきて、調達班3人組に声をかけた。口振りからして知り合いで、先程まで一緒の店にいたようだ。
「 ギルバートが好きなのってコレで良いんだよね? 」
テディがそう言って袋から取り出したのは『 黒天の騎士 』のシモーヌが描かれたクリアファイルで、それを見たテオフィルスは噴き出しそうになるのを寸での所でこらえる。
（ 誰だよ、ギルバート! 保育部のガキか? ）
ギルバート・ホレス・ベネット。
立派な22歳の男性の話であるが、残念ながらテオフィルスは知らない。
「 オルヴォさんはいっぱい買ったね 」
「 まぁ、『 紳士たる者、書籍は3部所持するものだ。1部を見て、1部を使い、1部は貸し出すのである。 』って言うからね。でも今回は買い占めになるから止めておいたよ 」
爽やかに言う保育部の男―――オルヴォに立派なオタクの心を感じて思わず憧憬の目を向けてしまう。この人、間違いなく立派なオタクだ。近付いてきてくれたことで気付いたが、コンビニ袋の中にピアルルのクリアファイルが見えている。この人の推しはそっちか。
「 テオさんは何を買ったの? 」
オルヴォをチラ見しているテオフィルスに無邪気に問い掛けてくるミーナに言葉に詰まる。ここはカモフラージュ用のお菓子というべきか、それとも堂々とクリアファイルを出すべきか。悩んだのは一瞬だった。
「 菓子。欲しいグッズが貰えるって聞いたからさ 」
袋を持ち上げて、チラリと可愛い可愛いセーラちゃんのクリアファイルを全員に見せる。テディの冷めた視線を感じたが、女の子じゃなければその視線も別に辛くない。
そして、テディからは冷めた視線が来たが、もう1人からは熱い視線を感じた。熱い視線の発信源・オルヴォにテオフィルスも熱く目で語り掛けた。
――同志ですか？
――はい、そうです。
脳内会話が成り立って、オルヴォとテオフィルス、2人はがっつりと握手を交わす。
良い歳をした男達が、マルフィ結社で同志に出会った感動の瞬間だった。
運命の同志、オルヴォ・ワシレフスキーとの出会いを終えたテオフィルスは自室に帰ると、早速手に入れたクリアファイルのセーラちゃんを棚上のグッズ置き場（通称・祭壇）に置く。
グッズを収集して自分の手元に置けるなんて幸せだ。岸壁街にいた時は想像もつかない幸せな光景に、テオフィルスの頬が緩んだ。
（ ナンネルがいたら『 バカなことしてんじゃないよ 』って怒りそうだけどな ）
部屋にはテオフィルス１人。
静かな部屋で喪った機械人形・ナンネルのことを考えると一緒に失った右脚が痛む。
「 ん? 」
幻肢痛で気付いた。今日は義足のメンテナンスで機械班へ行く日だ。機械人形大好きなロザリーに任せるのは気が引けていたが、義肢が扱えるのは彼女だけなのだから仕方ない。
折角なのでコンビニで買った菓子も持っていくことにした。ロザリー本人が食べなくても、息子にあげるとか機械班のメンバーにあげるとかして何とか処理してくれることだろう。
いつの間にかセーラちゃんを散々眺め倒しているうちに機械班の部屋に向かう時間になっていたので部屋を出る。
ビニール音をガサガサさせながら歩いていると前方を歩くテディを発見した。
「 ト……テディ! 」
うっかり苗字のトンプソンと呼ぼうとして直前で『 テディって呼んでね 』と言われたことを思い出す。ちゃんと声が聞こえたようで、長い髪をふわっと風に揺らしてテディが振り向いた。全くもって可愛らしい。
「 あれ、今日は休みだから部屋に居るって言ってなかったっけ? 」
「 ちょっと機械班に用事があってな 」
「 ふーん 」
「 テディはさっきの配達か? 」
「 そう。ギルバートにクリアファイルのお届けー 」
小悪魔めいた笑みを浮かべるテディは手にさっきのコンビニ袋を持っていた。中を見せてもらうとシモーヌのクリアファイルだけが入っている。
「 これを手に入れるのボクに知られたくなかったみたいだから届けるの楽しみだな 」
「 ギルバートってやつと仲良いんだな 」
「 ううん。ボク、ギルバートの事好きじゃない 」
「 お、おう…… 」
好きではない人間にわざわざ届けに行くなんて酔狂な。
そう思うが、口には出さないでおく。
「 あ、いた! ギルバート! 」
経理部の部屋から丁度出てきた人物を見た瞬間、テディが走った。
経理部、ギルバート。そういえば朝会ったオルカも「 ベネットさんに買い物頼まれたの! 」と言っていた。その三つの情報が1人の人物像と結び付く。会ったことはなかったが、テオフィルスは彼の存在を知っていた。
（ 馬の一族のギルバート! ）
大嫌いな貴族という存在の嫡男様だ。そのお貴族様が庶民の見る特撮番組のクリアファイルを欲しがるなんて、そんな馬鹿なことがあるだろうか。
「 はい、ミーナとオルカに頼んでたクリアファイル 」
「 何故、セオドアが…… 」
「 さあ、何故でしょう? 」
ギルバートはクリアファイルを受け取りながらも、テディが持ってきたことに心底驚いている様子だった。しかも通行人（ テオフィルスのことだ ）に特撮のキャラクターが印刷されたクリアファイルを受け取った様を見られるのは恥ずかしい様だ。
貴族が焦る様は大変に楽しいので、ゆっくりと通りがかりながらチラチラと様子を伺ってやる。
（ あの様子じゃ、本当に自分用みたいだな ）
まさか特撮番組好きの貴族がいるとは思わなかった。特撮を愛せるなら、貴族だけどそんなに悪い奴じゃないのかも知れない。後でこういう奴がいたとオルヴォにも言ってみよう。
そのオルヴォがギルバートに布教した結果だということを、テオフィルスはまだ知らない。
―――対象のお菓子2個購入でA4クリアファイルのプレゼントキャンペーンが決定! クリアファイルは各店先着33枚。お店へ急げ!
仕事中、BGM代わりにBluetoothイヤホンから流していたラジオのCMの声にテオフィルスはキーボードを叩く手を止めた。おもむろに携帯型端末を取り出して、先程聞いた内容を政府の作った大して使い心地の良くない電子世界で検索。
（ ピアルルと黒天か…… ）
2つともギロクのテロによって撮影が中止されているが現行で最新の特撮番組だ。メンバーの人数はピアルルが6人、黒天が5人。クリアファイルは33枚というから、各店舗3枚づつの計算だ。
（ 激戦だろうなぁ、ご苦労なことで ）
こういったキャンペーンが行える程、平和が戻ってきているということなのか。2つともチェックはしていたもののグッズ収集に走る程の熱意はないテオフィルスは、仕事に戻ろうとする。しかし、とある情報に目が吸い寄せられた。
（ なっ……いやいや、待て待て!! ）
『 咲きほこれ！ピアルルSix 』と『 黒天の騎士 』のクリアファイルキャンペーンの情報の下に、別のコンビニでも同じようなクリアファイルキャンペーンがあるとの記事を見つけたテオフィルスは動揺を隠せなかった。
（『 懐かしのアニメ大集合! A4クリアファイルプレゼントキャンペーン 』だと……? ）
そこには最推しアニメ『 海上の青い星 』の主人公・セーラちゃんがテオフィルスに向かって微笑んでいたのだ。（ 尚、テオフィルスに向かってというのは痛いオタクの妄想である ）
心を落ち着かせるためにリキッド式電子タバコを取り出して肺に蒸気を入れる。その途端に、同室にいたミサキの絶対零度の視線が突き刺さってきた。ノンニコチン、ノンタールなんだから許して欲しいところだが、可愛いお姫様にテオフィルスは逆らう訳にはいかない。
「 ごめんな 」
電源を切って謝ると、ミサキは無言で目線を外した。睨んでこないのだから取り敢えずは許されただろうと判断して、もう一度画面のセーラを見つめる。
（ 絶対に手に入れてやるからな、セーラちゃん ）
午前７時１分。機械人形の恐怖にも負けず、テオフィルスはとあるコンビニエンスストアにいた。手にしたカゴには対象のお菓子と『 海上の青い星 』のクリアファイル、更にカモフラージュ用のお菓子が多数。
テオフィルスの狙ったコンビニには数人の同志がいたが、無事に各々が推しのクリアファイルを手に入れられたために平和な空気が店内には流れていた。目線だけでお互いの検討を称え合い、電子マネーで会計をすると帰路を急ぐ。
（ そういや、特撮のファイルもスタート同じ時間だったな。あっちの方が戦場だっただろう…… ）
放映が休止していたとはいえ、現行の特撮番組のグッズともなれば激戦に違いない。そんなことを思いながら大量の菓子を詰めたコンビニの袋を下げて歩いていると、その特撮番組のクリアファイルキャンペーンをやっているコンビニの袋を下げたフワッとした茶髪の男性がテオフィルスの前を同じ方向へ向かって歩いていることに気付く。
（ あれは……保育部の…… ）
一度、義足のことで世話になっているロザリーの息子を見てみたくて保育部を覗いて不審者扱いされたことのあるテオフィルスとしては、あまり関わりたくない人間だ。しかし、彼について聞いたことがあった。
『 保育部のワシレフスキーさんって爽やか系でかっこいいよね! 』
『 わかる! 子供好きとかポイント高すぎ! 』
『 え……あの人、顔は良いけどトクサツ? とかいうやつのオタクだから 』
『 マジか。無いわー 』
『 萎える 』
食堂でたまたま近くに座っていて聞こえた女子達の会話。オタクとバレるとモテないということを理解させられた会話だったので、テオフィルスは良く覚えていた。彼が特撮オタクで、こんな時間にあのコンビニの袋を下げているということはキャンペーンに参加した可能性が高い。
話しかけてみたい。しかし、もし違ったら?
あれこれと考えを巡らせながら保育部の男性の後ろを歩いていると、更に後ろから聞き覚えのある明るい声が聞こえてきたので思わず立ち止まって振り返る。
「 あ、おはよーございます! 」
「 おはようございます! 」
近付いてきて、朝から元気な声を響かせて挨拶してきたのは2体の機械人形だった。フィンイヤーが特徴的なオルカと、数字関係が得意な機械人形のミーナだ。オルカとは機械班の部屋で、ミーナには数学について熱く語ってもらう関係で面識があった。その後ろを若干テンション低めに歩いていた象牙色の長い髪をした子とは初見だ。
「 ボク達だけじゃ買い物行けないから、テディにも付いてきてもらったの 」
「 ベネットさんに買い物頼まれたの! 」
マルフィ結社の機械人形は安全とはいえ機械人形だけで歩いていたら一般の人々が怯えてしまう。そのため機械人形が外出する時は人間が付くのが常識となっていて、それで“ テディ ”という子が付き添いに巻き込まれたのだろう。そういう関係なら2体と同じ調達班の子に違いない。
（ 男、だよなぁ…… ）
わいわいと自分達の買い物戦歴を語る2体と会話をしながら、テオフィルスはさり気なくテディを上から下までチェックする。流行りに乗った可愛らしい女の子の格好だが、身体のパーツを見ると男の子で間違いないとは思う。思うのだが。
（ 男でも十分かわいいな、この子 ）
きっと男の姿をしても中性的なイケメンに違いない。羨ましい限りである。
「 無事に買えたみたいだね 」
立ち止まっている所に、テオフィルスが話しかけたくてもタイミングを逃していた保育部の男が戻ってきて、調達班3人組に声をかけた。口振りからして知り合いで、先程まで一緒の店にいたようだ。
「 ギルバートが好きなのってコレで良いんだよね? 」
テディがそう言って袋から取り出したのは『 黒天の騎士 』のシモーヌが描かれたクリアファイルで、それを見たテオフィルスは噴き出しそうになるのを寸での所でこらえる。
（ 誰だよ、ギルバート! 保育部のガキか? ）
ギルバート・ホレス・ベネット。
立派な22歳の男性の話であるが、残念ながらテオフィルスは知らない。
「 オルヴォさんはいっぱい買ったね 」
「 まぁ、『 紳士たる者、書籍は3部所持するものだ。1部を見て、1部を使い、1部は貸し出すのである。 』って言うからね。でも今回は買い占めになるから止めておいたよ 」
爽やかに言う保育部の男―――オルヴォに立派なオタクの心を感じて思わず憧憬の目を向けてしまう。この人、間違いなく立派なオタクだ。近付いてきてくれたことで気付いたが、コンビニ袋の中にピアルルのクリアファイルが見えている。この人の推しはそっちか。
「 テオさんは何を買ったの? 」
オルヴォをチラ見しているテオフィルスに無邪気に問い掛けてくるミーナに言葉に詰まる。ここはカモフラージュ用のお菓子というべきか、それとも堂々とクリアファイルを出すべきか。悩んだのは一瞬だった。
「 菓子。欲しいグッズが貰えるって聞いたからさ 」
袋を持ち上げて、チラリと可愛い可愛いセーラちゃんのクリアファイルを全員に見せる。テディの冷めた視線を感じたが、女の子じゃなければその視線も別に辛くない。
そして、テディからは冷めた視線が来たが、もう1人からは熱い視線を感じた。熱い視線の発信源・オルヴォにテオフィルスも熱く目で語り掛けた。
――同志ですか？
――はい、そうです。
脳内会話が成り立って、オルヴォとテオフィルス、2人はがっつりと握手を交わす。
良い歳をした男達が、マルフィ結社で同志に出会った感動の瞬間だった。
運命の同志、オルヴォ・ワシレフスキーとの出会いを終えたテオフィルスは自室に帰ると、早速手に入れたクリアファイルのセーラちゃんを棚上のグッズ置き場（通称・祭壇）に置く。
グッズを収集して自分の手元に置けるなんて幸せだ。岸壁街にいた時は想像もつかない幸せな光景に、テオフィルスの頬が緩んだ。
（ ナンネルがいたら『 バカなことしてんじゃないよ 』って怒りそうだけどな ）
部屋にはテオフィルス１人。
静かな部屋で喪った機械人形・ナンネルのことを考えると一緒に失った右脚が痛む。
「 ん? 」
幻肢痛で気付いた。今日は義足のメンテナンスで機械班へ行く日だ。機械人形大好きなロザリーに任せるのは気が引けていたが、義肢が扱えるのは彼女だけなのだから仕方ない。
折角なのでコンビニで買った菓子も持っていくことにした。ロザリー本人が食べなくても、息子にあげるとか機械班のメンバーにあげるとかして何とか処理してくれることだろう。
いつの間にかセーラちゃんを散々眺め倒しているうちに機械班の部屋に向かう時間になっていたので部屋を出る。
ビニール音をガサガサさせながら歩いていると前方を歩くテディを発見した。
「 ト……テディ! 」
うっかり苗字のトンプソンと呼ぼうとして直前で『 テディって呼んでね 』と言われたことを思い出す。ちゃんと声が聞こえたようで、長い髪をふわっと風に揺らしてテディが振り向いた。全くもって可愛らしい。
「 あれ、今日は休みだから部屋に居るって言ってなかったっけ? 」
「 ちょっと機械班に用事があってな 」
「 ふーん 」
「 テディはさっきの配達か? 」
「 そう。ギルバートにクリアファイルのお届けー 」
小悪魔めいた笑みを浮かべるテディは手にさっきのコンビニ袋を持っていた。中を見せてもらうとシモーヌのクリアファイルだけが入っている。
「 これを手に入れるのボクに知られたくなかったみたいだから届けるの楽しみだな 」
「 ギルバートってやつと仲良いんだな 」
「 ううん。ボク、ギルバートの事好きじゃない 」
「 お、おう…… 」
好きではない人間にわざわざ届けに行くなんて酔狂な。
そう思うが、口には出さないでおく。
「 あ、いた! ギルバート! 」
経理部の部屋から丁度出てきた人物を見た瞬間、テディが走った。
経理部、ギルバート。そういえば朝会ったオルカも「 ベネットさんに買い物頼まれたの! 」と言っていた。その三つの情報が1人の人物像と結び付く。会ったことはなかったが、テオフィルスは彼の存在を知っていた。
（ 馬の一族のギルバート! ）
大嫌いな貴族という存在の嫡男様だ。そのお貴族様が庶民の見る特撮番組のクリアファイルを欲しがるなんて、そんな馬鹿なことがあるだろうか。
「 はい、ミーナとオルカに頼んでたクリアファイル 」
「 何故、セオドアが…… 」
「 さあ、何故でしょう? 」
ギルバートはクリアファイルを受け取りながらも、テディが持ってきたことに心底驚いている様子だった。しかも通行人（ テオフィルスのことだ ）に特撮のキャラクターが印刷されたクリアファイルを受け取った様を見られるのは恥ずかしい様だ。
貴族が焦る様は大変に楽しいので、ゆっくりと通りがかりながらチラチラと様子を伺ってやる。
（ あの様子じゃ、本当に自分用みたいだな ）
まさか特撮番組好きの貴族がいるとは思わなかった。特撮を愛せるなら、貴族だけどそんなに悪い奴じゃないのかも知れない。後でこういう奴がいたとオルヴォにも言ってみよう。
そのオルヴォがギルバートに布教した結果だということを、テオフィルスはまだ知らない。
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