ロナの苦労／燐花
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rinka_creation 2020年09月23日(水) 18:42:11履歴
俺は夢でも見ているのか。あのミサキが、効率の良さが服を着て歩いている様なミサキが、目の下にクマを作り顔を歪めながら早歩きで俺の方に向かって来た。
「ミ、ミサキ女史、 どうした…?」
「どうしたもこうしたも」
慣れない早歩きをしたからか若干乱れた息を整えつつ、ミサキは座った目で俺を見た。
「あまり眠れてないのか？なら、 今ここで少しでも仮眠を――」
「大丈夫、眠れてる」
「その割には顔色が…」
「それは気疲れ。それよりロナ。確か人に何か教えるの得意だったよね」
「一応師範として道場開いてたからな」
それを聞いたミサキの目がカッと見開かれた瞬間、何故か背中を悪寒が走った気がした。
「よし、ここら一帯の汚染された機械人形の始末はついたな」
マルフィ結社に所属し、前線駆除班に就いた。 剣術を買われ、気付けば後輩を引き連れ率先して汚染された機械人形たちの無力化を行うまでになっていた。家族を、機械人形の暴走もそれを止めるのも、辛い事だと分かっているから。
だから俺は同じ想いをする人を一人でも減らしたくて、俺が代わりに切ろうと決意した。
――の、だが。
「ロナさん、お疲れですか?」
「ん…ああ。少しだけな…本当に、本当少しだけな…」
「だ、大丈夫ですか?」
見ての通り疲弊が凄いのは、最近になって別の部隊から「ヤツ」が異動してきたからだ。絶対にそうだ。発端はミサキの頼みからだった。
「ロナ、指導してほしい機械人形がいるの」
「指導?新人でも入ったのか?」
「別チームからの異動」
「な、何故また?」
「うん。会えば分かる」
やつれたミサキが連れて来た「ヤツ」は、 初対面では普通の機械人形の様に見えた。
「アサギ。こちらロナ・サオトメ。 貴方と同じで刀を使うし道場の師範もしてた。ロナ、後よろしく」
アサギ。そう呼ばれたのは長い髪を一纏めにし、女性の様に整った顔立ちをした機械人形だった。
異動するほどのトラブルを起こす様には見えないが、何かあったのだろうか。
「アサギ、だったか?ミサキ女史から話は聞いてる。異動なんて大変だったな。トラブルか?」
「ああ、俺以外軟弱過ぎたんだ、あのチーム」
「もしかして嫉妬されたとかか?安心してくれ。俺達の間ではそう言うトラブルは無いのが自慢なんだ。 だからそう言う事は起こさせない」
「いや、そうでなく」
この時アサギが放った言葉で俺はミサキの憔悴の理由を察した。
「俺以外軟弱過ぎて俺が闘うと巻き込まれたくないからって皆退がっちまうんだ。撤退命令の如く皆退がっちまうんだぜ?仮にも前線駆除班なのにな」
後々になってミサキから、「一度戦闘モードに入ると見境なく刀を振るうから加減の仕方と切って良いもの、 いけない物の区別を習わせて。 」と連絡を貰った。 その場で言って欲しかった。
「アサギ…いつになったら仲間と汚染された機械人形の区別がつく様になるんだ…?」
「さあな。主人が俺にそう言う識別能力を望まなかったからどうなんだか…あ、このミカン美味え。食う?」
「ん?ああ、ありがとう。 それから、いつになったら報・連・相を覚えてくれるんだ?」
「あ、このみかんジュースも美味え。飲む?」
「お、貰おう。いや、そうじゃなくて」
「このミカンアイスってヤツ美味いな。ロナ、やるよ」
「ああ、ありが…」
何故だろう。
買収されている気がするのは。 煙に巻かれてる気がするのは。
「おい、アサギ」
「あ?」
「モノで誤魔化そうとするな」
「チッ…」
今舌打ちしたよな?
どこで覚えたんだか知らないが、最近この手の話題になると 絶妙なタイミングで俺の好物を出してくる。そして俺は律儀 にも好意としてそれを受け取ってしまう。 仮にも師範をして いた頃の俺はもう少し威厳があった様な気がするのだが…。
「あのな、アサギ。真面目に考えてくれ。お前が暴れて機械 人形と仲間の区別も付かなくなるとみんな前にも後ろにも敵がい る様な気分になるんだ。 生きた心地がしない、分かるだろ?アサギには人間じゃ扱えないような温度と強度の刀に一刀両断出来る腕前もあるんだ。 それから俺の好物で話を遮ろうとするのやめろ」
そこまで言い切るとアサギは少し伏し目がちになった。
「…俺、ネットワーク繋いだことねえし、 正直機械人形なのにらしい機能一切使った事なくて、人間じゃないけど完全に機械人形とも自信持って言えなくて…だからそんな俺を受け入れてくれたロナには感謝してるんだよ。ミカンの物買ってくるのは何つ一か、 俺なりの感謝かな?仲良くなりたいって言うか…」
驚いた。わざわざ俺の好物まで調べていてくれたのか。ミサキ日くアサギはいわゆる「ワケあり」で、機械人形としてはぞんざいな扱いを受けていたので他の機械人形とも馴染みづらいとは聞いていたが。距離を縮める為に相手の好きな物を分け与えてみる。 それがアサギなりに考えたコミュニケーションなんだな。
「そうなのか…ありがとうな、アサギ」
「おう。じゃあ俺、ちょっと散歩」
そう言って去るアサギの背を見て俺は思った。
あれ?やはり何だか良い様に言いくるめられてないか?俺。
直後、前線駆除班のメンバーが青い顔をしてやって来た。
「大変ですロナさん!」
「どうした!?汚染された機械人形が現れたか!?」
「いえ、先程その無力化には成功したのですが、前線駆除班 のメンバーが怪我を負い、一般市民に怪我人はいませんでしたが建物が倒壊し騒ぎになっています!!」
「な!?そんなに激しい戦いだったのか…御苦労だったな」
「違うんです!」
「え?」
「今の報告ですが、またしてもアサギ殿の悪い癖が出てしまいまして…。倒壊した建物に暮らしていた住人から責任者を出せと怒りのお達しが…」
聞けば、確かに激しい戦いだったが、むしろアサギの激しい動きのせいで出た被害の方が甚大に思えるほど派手だった様だ。またやったな、アサギ。
というか、俺の好物をやたら持ってきたりしおらしくなったと思ったら急にどこかへふらっと逃げたのはその為か!俺は走り出すと眼前にアサギを捉えた。
「コラ待て!アサギ!!」
「ゲッ!もう見つかったのかよ!?」
「自覚があるなら話は早い!説教するからこっちへ来い!!」
「説教するって聞いて止まる馬鹿居ねえっての!!」
「ロナとアサギ。またやってる」
"やっぱりロナに預けて正解だった"、とミサキがほくそ笑んでいるなんて露知らず、俺は今日もアサギを追い回す。何処までも追い回す。もはや楽しいとすら思えてしまった。
髪を荒らす向かい風が妙に清々しく感じるのはミサキや皆と出会って少し心が癒えたからか。 しかし、それとこれとは話が別だ。
「待てアサギィィイ!!」
とにかく、アサギにはこれからも真正面から向かってやる。
「止まるかってんだよ! ミカンやったろ!?」
「そういう問題じゃない!!」
良いだろう。これからも師範が如く、根気強く指導してやるからな。全てにおいて俺は食い下がるから覚悟しておけよ。
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「ミ、ミサキ女史、 どうした…?」
「どうしたもこうしたも」
慣れない早歩きをしたからか若干乱れた息を整えつつ、ミサキは座った目で俺を見た。
「あまり眠れてないのか？なら、 今ここで少しでも仮眠を――」
「大丈夫、眠れてる」
「その割には顔色が…」
「それは気疲れ。それよりロナ。確か人に何か教えるの得意だったよね」
「一応師範として道場開いてたからな」
それを聞いたミサキの目がカッと見開かれた瞬間、何故か背中を悪寒が走った気がした。
「よし、ここら一帯の汚染された機械人形の始末はついたな」
マルフィ結社に所属し、前線駆除班に就いた。 剣術を買われ、気付けば後輩を引き連れ率先して汚染された機械人形たちの無力化を行うまでになっていた。家族を、機械人形の暴走もそれを止めるのも、辛い事だと分かっているから。
だから俺は同じ想いをする人を一人でも減らしたくて、俺が代わりに切ろうと決意した。
――の、だが。
「ロナさん、お疲れですか?」
「ん…ああ。少しだけな…本当に、本当少しだけな…」
「だ、大丈夫ですか?」
見ての通り疲弊が凄いのは、最近になって別の部隊から「ヤツ」が異動してきたからだ。絶対にそうだ。発端はミサキの頼みからだった。
「ロナ、指導してほしい機械人形がいるの」
「指導?新人でも入ったのか?」
「別チームからの異動」
「な、何故また?」
「うん。会えば分かる」
やつれたミサキが連れて来た「ヤツ」は、 初対面では普通の機械人形の様に見えた。
「アサギ。こちらロナ・サオトメ。 貴方と同じで刀を使うし道場の師範もしてた。ロナ、後よろしく」
アサギ。そう呼ばれたのは長い髪を一纏めにし、女性の様に整った顔立ちをした機械人形だった。
異動するほどのトラブルを起こす様には見えないが、何かあったのだろうか。
「アサギ、だったか?ミサキ女史から話は聞いてる。異動なんて大変だったな。トラブルか?」
「ああ、俺以外軟弱過ぎたんだ、あのチーム」
「もしかして嫉妬されたとかか?安心してくれ。俺達の間ではそう言うトラブルは無いのが自慢なんだ。 だからそう言う事は起こさせない」
「いや、そうでなく」
この時アサギが放った言葉で俺はミサキの憔悴の理由を察した。
「俺以外軟弱過ぎて俺が闘うと巻き込まれたくないからって皆退がっちまうんだ。撤退命令の如く皆退がっちまうんだぜ?仮にも前線駆除班なのにな」
後々になってミサキから、「一度戦闘モードに入ると見境なく刀を振るうから加減の仕方と切って良いもの、 いけない物の区別を習わせて。 」と連絡を貰った。 その場で言って欲しかった。
「アサギ…いつになったら仲間と汚染された機械人形の区別がつく様になるんだ…?」
「さあな。主人が俺にそう言う識別能力を望まなかったからどうなんだか…あ、このミカン美味え。食う?」
「ん?ああ、ありがとう。 それから、いつになったら報・連・相を覚えてくれるんだ?」
「あ、このみかんジュースも美味え。飲む?」
「お、貰おう。いや、そうじゃなくて」
「このミカンアイスってヤツ美味いな。ロナ、やるよ」
「ああ、ありが…」
何故だろう。
買収されている気がするのは。 煙に巻かれてる気がするのは。
「おい、アサギ」
「あ?」
「モノで誤魔化そうとするな」
「チッ…」
今舌打ちしたよな?
どこで覚えたんだか知らないが、最近この手の話題になると 絶妙なタイミングで俺の好物を出してくる。そして俺は律儀 にも好意としてそれを受け取ってしまう。 仮にも師範をして いた頃の俺はもう少し威厳があった様な気がするのだが…。
「あのな、アサギ。真面目に考えてくれ。お前が暴れて機械 人形と仲間の区別も付かなくなるとみんな前にも後ろにも敵がい る様な気分になるんだ。 生きた心地がしない、分かるだろ?アサギには人間じゃ扱えないような温度と強度の刀に一刀両断出来る腕前もあるんだ。 それから俺の好物で話を遮ろうとするのやめろ」
そこまで言い切るとアサギは少し伏し目がちになった。
「…俺、ネットワーク繋いだことねえし、 正直機械人形なのにらしい機能一切使った事なくて、人間じゃないけど完全に機械人形とも自信持って言えなくて…だからそんな俺を受け入れてくれたロナには感謝してるんだよ。ミカンの物買ってくるのは何つ一か、 俺なりの感謝かな?仲良くなりたいって言うか…」
驚いた。わざわざ俺の好物まで調べていてくれたのか。ミサキ日くアサギはいわゆる「ワケあり」で、機械人形としてはぞんざいな扱いを受けていたので他の機械人形とも馴染みづらいとは聞いていたが。距離を縮める為に相手の好きな物を分け与えてみる。 それがアサギなりに考えたコミュニケーションなんだな。
「そうなのか…ありがとうな、アサギ」
「おう。じゃあ俺、ちょっと散歩」
そう言って去るアサギの背を見て俺は思った。
あれ?やはり何だか良い様に言いくるめられてないか?俺。
直後、前線駆除班のメンバーが青い顔をしてやって来た。
「大変ですロナさん!」
「どうした!?汚染された機械人形が現れたか!?」
「いえ、先程その無力化には成功したのですが、前線駆除班 のメンバーが怪我を負い、一般市民に怪我人はいませんでしたが建物が倒壊し騒ぎになっています!!」
「な!?そんなに激しい戦いだったのか…御苦労だったな」
「違うんです!」
「え?」
「今の報告ですが、またしてもアサギ殿の悪い癖が出てしまいまして…。倒壊した建物に暮らしていた住人から責任者を出せと怒りのお達しが…」
聞けば、確かに激しい戦いだったが、むしろアサギの激しい動きのせいで出た被害の方が甚大に思えるほど派手だった様だ。またやったな、アサギ。
というか、俺の好物をやたら持ってきたりしおらしくなったと思ったら急にどこかへふらっと逃げたのはその為か!俺は走り出すと眼前にアサギを捉えた。
「コラ待て!アサギ!!」
「ゲッ!もう見つかったのかよ!?」
「自覚があるなら話は早い!説教するからこっちへ来い!!」
「説教するって聞いて止まる馬鹿居ねえっての!!」
「ロナとアサギ。またやってる」
"やっぱりロナに預けて正解だった"、とミサキがほくそ笑んでいるなんて露知らず、俺は今日もアサギを追い回す。何処までも追い回す。もはや楽しいとすら思えてしまった。
髪を荒らす向かい風が妙に清々しく感じるのはミサキや皆と出会って少し心が癒えたからか。 しかし、それとこれとは話が別だ。
「待てアサギィィイ!!」
とにかく、アサギにはこれからも真正面から向かってやる。
「止まるかってんだよ! ミカンやったろ!?」
「そういう問題じゃない!!」
良いだろう。これからも師範が如く、根気強く指導してやるからな。全てにおいて俺は食い下がるから覚悟しておけよ。
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