ミアのお正月／べにざくろ
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g_a3b2c3o12 2020年09月17日(木) 23:26:51履歴
（2021年改稿）
シュルッと布と布が擦れる音がミアの耳に届く。“着物帯”とかいう使い慣れない物が擦れ合う音は、何だか聞き慣れない音で、こそばゆいようなくすぐったいような気分になってミアは思わず身動ぎした。
「 あら、動いちゃダメよ 」
その瞬間、ミアの帯を結んでいたシリルから注意が飛ぶ。ミアの後ろにいるため表情は読み取れないが、その声に笑いが含まれていることを聞き取ったミアは姿勢を正しつつも唇を尖らせた。
「 だって、変な音がするんだもん 」
「 変な音ねぇ……ロナが聞いたら怒りそうなコト言うのね 」
「 言わないでね? 」
「 言わないわよ。はい、できた 」
シリルに言われて、ミアは浮き立つ心半分、緊張半分を持って全身が映る大きな鏡の前に立つ。
そこには梅柄の小紋を着たミアが立っていた。見慣れない服装を纏う自分は何だか別人のようだ。
ミアが着物を着たのは、結社内でのとある企画のおかげだった。
お正月くらいテロなんて忘れて着物でも着て別の自分になってみたい。そういう人々の声が集まって（ シレッとシリルが誘導していることを一部の人間は気付いている ）着物を着られる今回の企画が生まれた。ちなみに着物を集めたのは調達班たちで、大抵はメンバーの着物を借りているが、中にはちゃっかり購入したものもあったので経理部が頭を抱えたことは言うまでもない。
鏡の自分を見つめながら、1人ファッションショーのようにくるくると回って自分の姿を確かめたミアは、やっぱり不安でシリルに問う。
「 ……変じゃない? 」
「 ワタシが着付けて可愛くないワケないでしょ。十分、カワイイわよ 」
可愛い。
その単語を聞いたら、 思わずミアの脳内に“あの人”に言われている想像が浮かんだ。鏡の前で頬を着物と同じピンク色に染めて立ち尽くしたミアの表情を鏡越しに読み取ったシリルの唇がニンマリと弧を描く。
「 なーに考えてるのかしら、 ミア? 」
「 べ、別に何にも考えてない! 」
「 ふーん。ま、ワタシにはお見通しだから誤魔化したってムダだけどね 」
「 だったら聞かないでよー! 」
ミアは恥ずかしさを誤魔化す為にシリルへ不満の声を上げるが、シリルは 「ゴメンなさいね」と全然心にもない謝罪を述べつつ相変わらず笑っていた。とはいえ、その笑みに何の嫌味も無いことはミアにも分かっているので、しつこく文句を言うなんてつまらないことはしない。どうせ、このお節介焼きの機械人形のシリルには全部お見通しなのだから。
「 かわいいって言って貰えるかな? 」
ポツリと咳くように問い掛ける。 主語のない質問だが「 誰に? 」なんて野暮なこと、 シリルが聞くはずなんてなかった。
ミアの両肩を抱きながら、シリルは鏡の中の彼女としっかりと目を合わせる。そして、ミアが言って欲しいであろう言葉を言う。
「 モチロンよ 」
シリルの答えにミアの顔にパッと花が咲いた。そして、さあ行こうかと思って動き出そうとした瞬間、肩をガッチリと掴まれる。
「 ミア、どこに行くのかなー? 」
「 え、だから挨拶に…… 」
ミアの肩を掴んで笑っているのは、いつの間にか部屋に入ってきていたテディだった。その目が座っていてちょっと怖い。
「 はい、座って座って!! 」
「 え? え? 」
強制的に椅子に着席させられ困惑するミアを他所に、鼻歌なんぞを歌いながらテディは大荷物から鏡を取り出してテーブルに置いた。更に鞄から女子のミアもビックリするくらいの量のメイク道具を取り出す。どうやら着付けだけに終わらず、更にメイクまでしてくれるらしい。
「 いいわねー。ワタシ、メイクは出来ないから助かるわー 」
助けを求めようとして見たシリルはニコニコと笑っていてテディを止める気はなさそうだ。
「 じゃあ、お願いします……? 」
テディなら酷いことはしないだろう。
そう判断したミアは、ぺこりと頭を下げた。
「凄く可愛いよ、ミア。ん〜…可愛すぎてボク以外の人に見せるの何だか勿体無くなってきちゃった」
メイクが終わって、テディからすごく胸が高鳴るコメントを貰ったミアは心臓がドキドキとしていた。いつも女の子の格好をしていてファッションやメイクの話で盛り上がれるから忘れがちだが、テディだって立派な男の子なんだと思い知らされる。
（ 男の子って感じの格好したら、どんな感じなんだろう。格好良いんだろうなぁ…… ）
以前、ミアの家の花屋に男の子らしい格好でテディが客として来ていたことなど知る由もないミアは脳内でテディの男装（ ? ）姿を妄想する。
（ うん、普通にカッコいい ）
学校にいたらすごく人気が出そうだ。
そんなことを思っていたらシリルに軽く背中を叩かれる。
「 ほら、早く医療班の皆様に新年の挨拶に行ってきなさい 」
「 うん! 」
そうだ。今は決戦の時だ。
気合いを入れたミアは力強く頷く。
「 ……シリル、付いてきてはくれないよね? 」
頷いたものの、ちょっとだけ弱気になってシリルを上目遣いで見上げてお願いしてみる。それをシリルは軽く鼻で笑った。
「 嫌よー。ワタシだって自分の隊のヒトに挨拶したり用事があるもの。勇気出して行ってきなさい 」
「 う、うん 」
「 後でゆっくりお話聞かせてちょうだいね? 」
「 うん! 絶対に聞いてね! 」
やっぱり、勇気を出して行くしかない。
ミアは慣れない着物に若干の歩きにくさを感じながらも、医療班の面々が、強いて言うなら1番見てもらいたい灰色の髪の“あの人”がいるであろう場所に浮かれた気持ちで向かっていった。
―――そして医療班の部屋に行ってみたら、着物姿のネビロスがそこにいて喜びの悲鳴を上げることになるのはすぐ後のことなのであった。
「 ネビロスさん、写真撮っていいですか!? 」
「 折角なので2人で撮りませんか? 」
「 ええっ!? と、撮ります撮ります!! 」
初出Twitter
シュルッと布と布が擦れる音がミアの耳に届く。“着物帯”とかいう使い慣れない物が擦れ合う音は、何だか聞き慣れない音で、こそばゆいようなくすぐったいような気分になってミアは思わず身動ぎした。
「 あら、動いちゃダメよ 」
その瞬間、ミアの帯を結んでいたシリルから注意が飛ぶ。ミアの後ろにいるため表情は読み取れないが、その声に笑いが含まれていることを聞き取ったミアは姿勢を正しつつも唇を尖らせた。
「 だって、変な音がするんだもん 」
「 変な音ねぇ……ロナが聞いたら怒りそうなコト言うのね 」
「 言わないでね? 」
「 言わないわよ。はい、できた 」
シリルに言われて、ミアは浮き立つ心半分、緊張半分を持って全身が映る大きな鏡の前に立つ。
そこには梅柄の小紋を着たミアが立っていた。見慣れない服装を纏う自分は何だか別人のようだ。
ミアが着物を着たのは、結社内でのとある企画のおかげだった。
お正月くらいテロなんて忘れて着物でも着て別の自分になってみたい。そういう人々の声が集まって（ シレッとシリルが誘導していることを一部の人間は気付いている ）着物を着られる今回の企画が生まれた。ちなみに着物を集めたのは調達班たちで、大抵はメンバーの着物を借りているが、中にはちゃっかり購入したものもあったので経理部が頭を抱えたことは言うまでもない。
鏡の自分を見つめながら、1人ファッションショーのようにくるくると回って自分の姿を確かめたミアは、やっぱり不安でシリルに問う。
「 ……変じゃない? 」
「 ワタシが着付けて可愛くないワケないでしょ。十分、カワイイわよ 」
可愛い。
その単語を聞いたら、 思わずミアの脳内に“あの人”に言われている想像が浮かんだ。鏡の前で頬を着物と同じピンク色に染めて立ち尽くしたミアの表情を鏡越しに読み取ったシリルの唇がニンマリと弧を描く。
「 なーに考えてるのかしら、 ミア? 」
「 べ、別に何にも考えてない! 」
「 ふーん。ま、ワタシにはお見通しだから誤魔化したってムダだけどね 」
「 だったら聞かないでよー! 」
ミアは恥ずかしさを誤魔化す為にシリルへ不満の声を上げるが、シリルは 「ゴメンなさいね」と全然心にもない謝罪を述べつつ相変わらず笑っていた。とはいえ、その笑みに何の嫌味も無いことはミアにも分かっているので、しつこく文句を言うなんてつまらないことはしない。どうせ、このお節介焼きの機械人形のシリルには全部お見通しなのだから。
「 かわいいって言って貰えるかな? 」
ポツリと咳くように問い掛ける。 主語のない質問だが「 誰に? 」なんて野暮なこと、 シリルが聞くはずなんてなかった。
ミアの両肩を抱きながら、シリルは鏡の中の彼女としっかりと目を合わせる。そして、ミアが言って欲しいであろう言葉を言う。
「 モチロンよ 」
シリルの答えにミアの顔にパッと花が咲いた。そして、さあ行こうかと思って動き出そうとした瞬間、肩をガッチリと掴まれる。
「 ミア、どこに行くのかなー? 」
「 え、だから挨拶に…… 」
ミアの肩を掴んで笑っているのは、いつの間にか部屋に入ってきていたテディだった。その目が座っていてちょっと怖い。
「 はい、座って座って!! 」
「 え? え? 」
強制的に椅子に着席させられ困惑するミアを他所に、鼻歌なんぞを歌いながらテディは大荷物から鏡を取り出してテーブルに置いた。更に鞄から女子のミアもビックリするくらいの量のメイク道具を取り出す。どうやら着付けだけに終わらず、更にメイクまでしてくれるらしい。
「 いいわねー。ワタシ、メイクは出来ないから助かるわー 」
助けを求めようとして見たシリルはニコニコと笑っていてテディを止める気はなさそうだ。
「 じゃあ、お願いします……? 」
テディなら酷いことはしないだろう。
そう判断したミアは、ぺこりと頭を下げた。
「凄く可愛いよ、ミア。ん〜…可愛すぎてボク以外の人に見せるの何だか勿体無くなってきちゃった」
メイクが終わって、テディからすごく胸が高鳴るコメントを貰ったミアは心臓がドキドキとしていた。いつも女の子の格好をしていてファッションやメイクの話で盛り上がれるから忘れがちだが、テディだって立派な男の子なんだと思い知らされる。
（ 男の子って感じの格好したら、どんな感じなんだろう。格好良いんだろうなぁ…… ）
以前、ミアの家の花屋に男の子らしい格好でテディが客として来ていたことなど知る由もないミアは脳内でテディの男装（ ? ）姿を妄想する。
（ うん、普通にカッコいい ）
学校にいたらすごく人気が出そうだ。
そんなことを思っていたらシリルに軽く背中を叩かれる。
「 ほら、早く医療班の皆様に新年の挨拶に行ってきなさい 」
「 うん! 」
そうだ。今は決戦の時だ。
気合いを入れたミアは力強く頷く。
「 ……シリル、付いてきてはくれないよね? 」
頷いたものの、ちょっとだけ弱気になってシリルを上目遣いで見上げてお願いしてみる。それをシリルは軽く鼻で笑った。
「 嫌よー。ワタシだって自分の隊のヒトに挨拶したり用事があるもの。勇気出して行ってきなさい 」
「 う、うん 」
「 後でゆっくりお話聞かせてちょうだいね? 」
「 うん! 絶対に聞いてね! 」
やっぱり、勇気を出して行くしかない。
ミアは慣れない着物に若干の歩きにくさを感じながらも、医療班の面々が、強いて言うなら1番見てもらいたい灰色の髪の“あの人”がいるであろう場所に浮かれた気持ちで向かっていった。
―――そして医療班の部屋に行ってみたら、着物姿のネビロスがそこにいて喜びの悲鳴を上げることになるのはすぐ後のことなのであった。
「 ネビロスさん、写真撮っていいですか!? 」
「 折角なので2人で撮りませんか? 」
「 ええっ!? と、撮ります撮ります!! 」
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