メーデー／べにざくろ
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g_a3b2c3o12 2022年05月05日(木) 08:05:07履歴
そういえば今日はメーデーか。
電車に揺られ小説『君は世界と空を壊す』を読んでいたヴィニーは、ふとそんな事を思い出していた。
メーデーといえば夏の訪れを祝う祭りが始まりだったのであるが、気付けば労働者の祭典の日へと変貌を遂げていた祝日である。例年、労働組合の人間達が集まりデモを行って権利を主張する日であるが、昨年のギロク博士による機械人形のテロもありデモも無く(それどころか機械人形の製造業に携わっていた為に仕事も無い人間が多いのであるが)、テレビで騒がれることもないのですっかり忘れていた。
本から顔を上げたついでに車窓へと目を走らせる。しかし、山間の僅かな平地を走るカンテ旅客鉄道の風景は広大な国土を持つアケリア出身のヴィニーにとっては狭苦しいもののように感じられて見ていられず、ヴィニーは再び本を開くと其方へと没頭することにした。架空のアケリアの大統領が核爆弾を発射してしまうまでの日々を描くというストーリーで、大統領の苦悩ぶりがなかなかに面白い。
「次は――」
うっかり乗り過ごすところであった。
聞こえていた車掌のアナウンスに降りるべき駅が近付いてきた事に気付き栞を挟むと、スーツケースに本を仕舞う。ヴィニーの今日の荷物はスーツケースが一つと、財布と携帯型端末等の入ったボディーバッグだ。
電車を降り、スーツケースを転がしながら駅の出口へと向かう。
出口に、これからの勤務先の人が待っていてくれる約束なのだ。以前、面接という事でヴィニーの住むミクリカまで来てくれた人間はスーツに赤いネクタイが嫌味なく似合うヴィニーよりは年下らしい男だったが、今日はその彼は都合が悪いらしく別の人間が迎えに来てくれているらしい。その人間は履歴書の顔でヴィニーを理解しているだろうから呼んでくれるだろうと楽観的な事を思いつつ、ヴィニーも礼儀として首を右から左へと向けて人を探す動作をしておく。
「あ、いたいた。おーい」
呑気そうな声に顔を向けると人当たりの良さそうな笑みを浮かべた男性が手を振ってヴィニーに視線を向けていた。その彼の触り心地の良さそうな魅惑のマシュマロボディに目を奪われながらも、ヴィニーはさりげなく周囲を窺ってマシュマロボディの彼が自分を見て呼んでいることを確認してから彼に笑みを浮かべて近寄っていく。自分を呼んでいると思って近付いたら別の人だったなんて展開だったら恥ずかしすぎるからだ。
「マルフィ結社の方で宜しいですか？」
ヴィニーは、第一印象が良くなるように優しく明るく丁寧に声を出す。
マルフィ結社。それがヴィニーの新しい勤務先だった。
テロ後もミクリカで働き続けていたヴィニーだったが、医師免許を持っているのであるし其方を生かした仕事をしようと思った為に、この度入社を決めたのだ。
「俺はベン・レッヒェルンです。貴方を面接したロード・マーシュの同僚で……彼の代わりに本日はお迎えに来ました」
「ありがとうございます。俺はヴィンセント・ラトウィッジ……カンテ国では通称のヴィニーを使ってますので、どうぞこちらで呼んで下さい」
そう言ってから「ああ、もうマーシュさんにはお伝えしてましたしご存知でしたね」と、あたかも自分のドジのように付け足して親密性を装うのは忘れない。少しだけ隙のある人間の方が相手の懐に入りやすい。
しかし、とヴィニーはベンと並んで歩きながら思考を巡らせる。
ヴィニーが働いていたミクリカまで面接に来てくれた男――ロード・マーシュはベンの先程の様子から察するに何かがあってヴィニーを迎えに来られなくなったようだった。しかも、ちょっとした体調不良とかそんな軽い理由でなく、もっと何か大事があったとばかりの表情をベンが一瞬浮かべていたのをヴィニーは見逃していない。
そこは踏み込んで聞いていいところなのか、否か。
ベンからマルフィ結社の事や周辺の店のオススメなんかを世間話として聞きながらも、ヴィニーは「ロード・マーシュが来られない理由」への好奇心が抑えられずにいた。絶対にこれは何かがある。
「ラトウィッジさん」
その時、何か決意をしたような真剣な顔をベンがヴィニーへと向ける。
「何でしょう？」
何も気付いていないかのような顔をして、しかしベンの表情から自分の疑問に思っていたことが解決するのだと確信めいたものを持ってヴィニーはベンの人の良さそうな顔を見つめた。
「実は――」
そう言ってベンが話し出した事は「結社の女性２人が誘拐された話」であった。幸いな事に事件は解決したらしいが、あまりにも驚くべき大事件でベンが話し終えてもヴィニーは暫く薄紫色の目を瞬くばかりで何の言葉も出てこない。
「結社中が知っている話ですし、医療班の女性が巻き込まれた事件なのでラトウィッジさんにもお伝えさせていただきました」
「……あ、ありがとうございます。情報をいただけて助かりました」
ようやく絞り出すように言葉を返す。
「大丈夫なのか、マルフィ結社」という思いが込み上げてくるが、ここまで来て「辞めます」というのも申し訳ないと思ってしまうし、それ程の危険があるなら余計に自分のような者が頑張らないといけないような気もしていた。
「今まではこんな事無かったんですけどね」
何度もあったらヤバいにも程がある所だろ。
苦笑めいた顔をしているベンに脳内だけでツッコミを入れておく。表向きのコメントは無難に「そうなんですね。大変ですね」だ。
何ともいえない微妙な空気がベンとヴィニーの間に流れる。
そんな状況を打破しようと考えていたのだろう。ベンは、気付いたら二人の少し前を歩いていた黒髪の男性を見つけると顔を輝かせた。
「あっ！ ケレンリーさん！」
ケレンリーという苗字はカンテ国では珍しくない苗字だ。
ベンに呼ばれた“ ケレンリーさん ”が振り向く。瓶底の様に分厚いレンズの眼鏡を掛けているが、その奥にある髪と同じ黒い目は「面倒臭い」だとか「見知らぬ人間に対する警戒心」といった負の感情の色を湛えていた。
呼ばれた事で振り返って止まっていた“ ケレンリーさん ”の元に辿り着くと、そんな“ ケレンリーさん ”の負の感情に気付いているのか、あえて気付いているのに見て見ぬふりをしているのか分からないがベンは変わらぬにこやかな顔でヴィニーに“ ケレンリーさん ”を紹介した。
「こちらクロードウィッグ・ケレンリーさん。俺と同じ人事部の人です」
クロードウィッグとはボーデンリヒトの言葉で「有名な戦士」という意味だったか。名は体を表すというはずだが、随分と名前とギャップの大きい人だ。
「ヴィニー・ラトウィッジです。今日から此方にお世話になりますので、宜しくお願い致します」
一見してクロードウィッグの方が歳下のようであったが初対面からタメ口を使ってしまうと、こういうタイプの人間は「距離近！陽キャ怖！」と逆に距離を置こうとしてしまうだろうと判断してヴィニーは丁寧に微笑む。
それは功を奏したらしくクロードウィッグの目から警戒する色が少しだけ薄まった。しかし、こういうタイプの人間が少し心を開いたからといってもコチラからぐいぐい行ってはいけない。警戒する野生動物を手懐けるが如くあちらから来るのを待つのだ。
「ところでラトウィッジ氏。セーラちゃんは知っておりますな!?」
誰だよ。
ヴィニーは引き攣った笑みを浮かべつつ、助けを求めるようにベンを見るがベンは笑顔を浮かべたままそっと目を逸らした。待て待て。クロードウィッグとヴィニーを引き合わせたのはマシュマロボディ だろ。後で揉みしだいてやるから覚悟しろ。
脳内で素の声を発しつつ、ベンの助けを期待できないと悟って仕方なく首を傾げる。
「えーっと……どなたでしょうか？」
「なっ……セーラちゃんを知らないですと!? 一世を風靡した七星ノ国の第一王女セーラ・マリン・ポラリス16歳を!?」
驚愕して大仰に震えるクロードウィッグを見ながら“ 七星ノ国 ”という単語を脳内の世界史の中から探す。しかし、該当は無い。となると創作の可能性が非常に高いが“ 一世を風靡した ”ということからするとテレビというメディアを介して人々の目に触れたものの可能性が高い。クロードウィッグの言い方からすると、かなりブームになった物のはずだ。
「ケレンリーさん。ラトウィッジさんはアケリアの方なので『海上の青い星』が流行した時にはカンテにはいなかったと思うよ」
さすがに見かねたのかベンが口を挟んできた。そのベンの言葉にクロードウィッグはこれまた大仰に驚いたような動作を見せる。
ベンの言葉でセーラ・マリン・ポラリスという女性が『海上の青い星』という作品のキャラクターであることを悟り、目の前のクロードウィッグ・ケレンリーが所謂オタクという生き物であることも悟った。おそらくはカンテ国内では、かなり流行したものなのだろう。
「俺に良ければそのセーラちゃんの事、教えて貰えませんか？」
ヴィニーとしては世間話の一環として言ったつもりであった。
しかし、この時彼はオタクという生物の習性を読み違えてしまっていたのだ。横でベンが「あちゃー」とばかりに天を仰いだのが見えたが、もう遅い。クロードウィッグの瓶底メガネの下の目が光る。
「拙者オタクでは無い故詳しい訳では無いのでありますが、まずセーラちゃんは――」
この後、ヴィニーはクロードウィッグに延々とセーラ・マリン・ポラリスとアニメの内容について語られた挙句に布教用のBlu-rayまで貸し出される約束を強制的にさせられる羽目になり、少しだけマルフィ結社への入社を後悔することになるのであった。
ようこそ、マルフィ結社へーー
電車に揺られ小説『君は世界と空を壊す』を読んでいたヴィニーは、ふとそんな事を思い出していた。
メーデーといえば夏の訪れを祝う祭りが始まりだったのであるが、気付けば労働者の祭典の日へと変貌を遂げていた祝日である。例年、労働組合の人間達が集まりデモを行って権利を主張する日であるが、昨年のギロク博士による機械人形のテロもありデモも無く(それどころか機械人形の製造業に携わっていた為に仕事も無い人間が多いのであるが)、テレビで騒がれることもないのですっかり忘れていた。
本から顔を上げたついでに車窓へと目を走らせる。しかし、山間の僅かな平地を走るカンテ旅客鉄道の風景は広大な国土を持つアケリア出身のヴィニーにとっては狭苦しいもののように感じられて見ていられず、ヴィニーは再び本を開くと其方へと没頭することにした。架空のアケリアの大統領が核爆弾を発射してしまうまでの日々を描くというストーリーで、大統領の苦悩ぶりがなかなかに面白い。
「次は――」
うっかり乗り過ごすところであった。
聞こえていた車掌のアナウンスに降りるべき駅が近付いてきた事に気付き栞を挟むと、スーツケースに本を仕舞う。ヴィニーの今日の荷物はスーツケースが一つと、財布と携帯型端末等の入ったボディーバッグだ。
電車を降り、スーツケースを転がしながら駅の出口へと向かう。
出口に、これからの勤務先の人が待っていてくれる約束なのだ。以前、面接という事でヴィニーの住むミクリカまで来てくれた人間はスーツに赤いネクタイが嫌味なく似合うヴィニーよりは年下らしい男だったが、今日はその彼は都合が悪いらしく別の人間が迎えに来てくれているらしい。その人間は履歴書の顔でヴィニーを理解しているだろうから呼んでくれるだろうと楽観的な事を思いつつ、ヴィニーも礼儀として首を右から左へと向けて人を探す動作をしておく。
「あ、いたいた。おーい」
呑気そうな声に顔を向けると人当たりの良さそうな笑みを浮かべた男性が手を振ってヴィニーに視線を向けていた。その彼の触り心地の良さそうな魅惑のマシュマロボディに目を奪われながらも、ヴィニーはさりげなく周囲を窺ってマシュマロボディの彼が自分を見て呼んでいることを確認してから彼に笑みを浮かべて近寄っていく。自分を呼んでいると思って近付いたら別の人だったなんて展開だったら恥ずかしすぎるからだ。
「マルフィ結社の方で宜しいですか？」
ヴィニーは、第一印象が良くなるように優しく明るく丁寧に声を出す。
マルフィ結社。それがヴィニーの新しい勤務先だった。
テロ後もミクリカで働き続けていたヴィニーだったが、医師免許を持っているのであるし其方を生かした仕事をしようと思った為に、この度入社を決めたのだ。
「俺はベン・レッヒェルンです。貴方を面接したロード・マーシュの同僚で……彼の代わりに本日はお迎えに来ました」
「ありがとうございます。俺はヴィンセント・ラトウィッジ……カンテ国では通称のヴィニーを使ってますので、どうぞこちらで呼んで下さい」
そう言ってから「ああ、もうマーシュさんにはお伝えしてましたしご存知でしたね」と、あたかも自分のドジのように付け足して親密性を装うのは忘れない。少しだけ隙のある人間の方が相手の懐に入りやすい。
しかし、とヴィニーはベンと並んで歩きながら思考を巡らせる。
ヴィニーが働いていたミクリカまで面接に来てくれた男――ロード・マーシュはベンの先程の様子から察するに何かがあってヴィニーを迎えに来られなくなったようだった。しかも、ちょっとした体調不良とかそんな軽い理由でなく、もっと何か大事があったとばかりの表情をベンが一瞬浮かべていたのをヴィニーは見逃していない。
そこは踏み込んで聞いていいところなのか、否か。
ベンからマルフィ結社の事や周辺の店のオススメなんかを世間話として聞きながらも、ヴィニーは「ロード・マーシュが来られない理由」への好奇心が抑えられずにいた。絶対にこれは何かがある。
「ラトウィッジさん」
その時、何か決意をしたような真剣な顔をベンがヴィニーへと向ける。
「何でしょう？」
何も気付いていないかのような顔をして、しかしベンの表情から自分の疑問に思っていたことが解決するのだと確信めいたものを持ってヴィニーはベンの人の良さそうな顔を見つめた。
「実は――」
そう言ってベンが話し出した事は「結社の女性２人が誘拐された話」であった。幸いな事に事件は解決したらしいが、あまりにも驚くべき大事件でベンが話し終えてもヴィニーは暫く薄紫色の目を瞬くばかりで何の言葉も出てこない。
「結社中が知っている話ですし、医療班の女性が巻き込まれた事件なのでラトウィッジさんにもお伝えさせていただきました」
「……あ、ありがとうございます。情報をいただけて助かりました」
ようやく絞り出すように言葉を返す。
「大丈夫なのか、マルフィ結社」という思いが込み上げてくるが、ここまで来て「辞めます」というのも申し訳ないと思ってしまうし、それ程の危険があるなら余計に自分のような者が頑張らないといけないような気もしていた。
「今まではこんな事無かったんですけどね」
何度もあったらヤバいにも程がある所だろ。
苦笑めいた顔をしているベンに脳内だけでツッコミを入れておく。表向きのコメントは無難に「そうなんですね。大変ですね」だ。
何ともいえない微妙な空気がベンとヴィニーの間に流れる。
そんな状況を打破しようと考えていたのだろう。ベンは、気付いたら二人の少し前を歩いていた黒髪の男性を見つけると顔を輝かせた。
「あっ！ ケレンリーさん！」
ケレンリーという苗字はカンテ国では珍しくない苗字だ。
ベンに呼ばれた“ ケレンリーさん ”が振り向く。瓶底の様に分厚いレンズの眼鏡を掛けているが、その奥にある髪と同じ黒い目は「面倒臭い」だとか「見知らぬ人間に対する警戒心」といった負の感情の色を湛えていた。
呼ばれた事で振り返って止まっていた“ ケレンリーさん ”の元に辿り着くと、そんな“ ケレンリーさん ”の負の感情に気付いているのか、あえて気付いているのに見て見ぬふりをしているのか分からないがベンは変わらぬにこやかな顔でヴィニーに“ ケレンリーさん ”を紹介した。
「こちらクロードウィッグ・ケレンリーさん。俺と同じ人事部の人です」
クロードウィッグとはボーデンリヒトの言葉で「有名な戦士」という意味だったか。名は体を表すというはずだが、随分と名前とギャップの大きい人だ。
「ヴィニー・ラトウィッジです。今日から此方にお世話になりますので、宜しくお願い致します」
一見してクロードウィッグの方が歳下のようであったが初対面からタメ口を使ってしまうと、こういうタイプの人間は「距離近！陽キャ怖！」と逆に距離を置こうとしてしまうだろうと判断してヴィニーは丁寧に微笑む。
それは功を奏したらしくクロードウィッグの目から警戒する色が少しだけ薄まった。しかし、こういうタイプの人間が少し心を開いたからといってもコチラからぐいぐい行ってはいけない。警戒する野生動物を手懐けるが如くあちらから来るのを待つのだ。
「ところでラトウィッジ氏。セーラちゃんは知っておりますな!?」
誰だよ。
ヴィニーは引き攣った笑みを浮かべつつ、助けを求めるようにベンを見るがベンは笑顔を浮かべたままそっと目を逸らした。待て待て。クロードウィッグとヴィニーを引き合わせたのは
脳内で素の声を発しつつ、ベンの助けを期待できないと悟って仕方なく首を傾げる。
「えーっと……どなたでしょうか？」
「なっ……セーラちゃんを知らないですと!? 一世を風靡した七星ノ国の第一王女セーラ・マリン・ポラリス16歳を!?」
驚愕して大仰に震えるクロードウィッグを見ながら“ 七星ノ国 ”という単語を脳内の世界史の中から探す。しかし、該当は無い。となると創作の可能性が非常に高いが“ 一世を風靡した ”ということからするとテレビというメディアを介して人々の目に触れたものの可能性が高い。クロードウィッグの言い方からすると、かなりブームになった物のはずだ。
「ケレンリーさん。ラトウィッジさんはアケリアの方なので『海上の青い星』が流行した時にはカンテにはいなかったと思うよ」
さすがに見かねたのかベンが口を挟んできた。そのベンの言葉にクロードウィッグはこれまた大仰に驚いたような動作を見せる。
ベンの言葉でセーラ・マリン・ポラリスという女性が『海上の青い星』という作品のキャラクターであることを悟り、目の前のクロードウィッグ・ケレンリーが所謂オタクという生き物であることも悟った。おそらくはカンテ国内では、かなり流行したものなのだろう。
「俺に良ければそのセーラちゃんの事、教えて貰えませんか？」
ヴィニーとしては世間話の一環として言ったつもりであった。
しかし、この時彼はオタクという生物の習性を読み違えてしまっていたのだ。横でベンが「あちゃー」とばかりに天を仰いだのが見えたが、もう遅い。クロードウィッグの瓶底メガネの下の目が光る。
「拙者オタクでは無い故詳しい訳では無いのでありますが、まずセーラちゃんは――」
この後、ヴィニーはクロードウィッグに延々とセーラ・マリン・ポラリスとアニメの内容について語られた挙句に布教用のBlu-rayまで貸し出される約束を強制的にさせられる羽目になり、少しだけマルフィ結社への入社を後悔することになるのであった。
ようこそ、マルフィ結社へーー
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