薄明のカンテ - VS!三色ショッピング!/燐花
ススっと黒いスーツに身を包み、似合うかどうか鏡を確認。赤い縁の伊達眼鏡を掛けたらさあ、出番ですよ。
「ハイどうもー!!薄明カンテーズのティーちゃんです!今日の特別ルール三色ショッピングはこちら!マルフィ結社近くの百貨店!果たしてどんなコーデが飛び出すんでしょぉ〜!?ではでは張り切って〜、ニュー◯ークに行きたいかー!!?」
「待て待てどっからツッこみゃ良いんだよ!?突っ込みどころ満載過ぎて軽くパニックだ!」
「さてさて、早速突っ込まれたところで本日のゲストご紹介しまーす!」
そう、これは某番組某コーナーパロディなのです。
薄明カンテーズのティーちゃんことテディはスーツ姿に赤縁眼鏡と言う出で立ち。勿論意識するのは司会の彼である。ゲスト紹介と言われ並んだ三人は一応姿勢を正した。
「大都会の砂漠頭、テオフィルス・メドラーさん!!」
「何だその紹介!?髪色の事しか言ってねぇし砂漠頭なんて嫌な想像するだろ!」
「いつだって黒い七三、ロード・マーシュさん!!」
「うふふ…推しが勢揃いですねぇ…」
「色彩がまるでオセロ、ユウヤミ・リーシェルさん!!」
「んー…つまらなかったら帰りたいなぁ…」
「皆さんやる気に満ち満ちてますね〜!」
テオフィルスは他メンバーのただならぬ雰囲気に落ち着かないようだし、ロードは目移りするかの様にキョロキョロしては頬を赤らめ息を荒げる。ユウヤミは懐から犯罪心理学の本を取り出して読み始めた。皆やる気どころか真逆の方向に思考が向いているのだが。
「さて、本日の三色ショッピングのテーマはこちら!じゃんっ!ヴォイドに着て欲しいデート服〜!普段下着みたいな、って言うか下着なヴォイドも外出する事あるでしょ?その時に着れるのがスクラブだけじゃ勿体ないもんね!」
テーマを聞いた三人が、一瞬だけ明後日の方向から帰るのをテディは見た。
「今から三色をくじで引くんでその三色をメインに使ってコーディネートしてもらいます!差し色は自由にオーケー!審査員はシリル!高評価だったコーデは実際にヴォイドに着てもらえ、更にデートに行けちゃいます!」
完全に三人は明後日からこちらに帰還した。お帰り。
「ヴォ、ヴォイドに着せたい服か…いや待てよ、最近の女の服分かんねぇな…」
「うふふふふ…!デートってどこまで可なんですかねぇ?行き先はホテルでも大丈夫です?」
「審査員付き?ホロウ君に着せたい服か…せっかく過去に資格も取ったしシリル君が審査員なら腕が鈍っていないかも見てもらおうかな?」
「ふふ、隊長だからって贔屓しないわよ?」
良い感じにやる気が出たところで、テディはボックスに手を突っ込んでカラーボールを取り出す。
色はベージュ、白、茶色の三色だった。
テディが取材に行く順番を決めるだけのあみだくじの場所も選んでもらい、テディの掛け声で三色ショッピングがスタートした。
各々の意気込みはと言うと。
「とは言っても…服なんて分かんねぇよ…元々あいつあの格好だしなー…。あんまり服着るところが想像出来ないって言うか…いや、変な意味でなく!!」
と、言いながらテオフィルスが向かった先は女性らしいフリルの多い可愛らしい服のゾーンだった。フリルの多さが少々過剰で普通の服に付いてるワンポイントの量ではないところに彼のこだわりが見えるのだろうか。
次にロードに注目した。
「デート…お食事をしたり夜景を見たりは…ありきたりですかね。買い物デートなんかも良いかもしれませんが、一体何を欲しがるやら…。ずっと岸壁街にいたあの子が誰かと楽しく出掛けられる様になったんですね…。女性は…ヴォイドは何なら喜んでくれるんでしょう?」
相手を思う気持ちは立派だが何故行く先が下着売り場なのかそれを知りたい。
大本命はユウヤミだ。
「ホロウ君の体型をよく活かせる服を考えるが一番だねぇ。彼女の場合、少しバランスを悪くさせてしまうと本来の体型以上にふっくらして見えてしまうから」
そう言いながらユウヤミが向かったのはシンプルなトップスの置かれた棚だった。
「つまんなーい」
残されてすぐテディは呟いた。
まあ、役割が司会なので臆面なく回して欲しいところ。つまんないと大っぴらに言える大胆不敵さは適任とも言える。
「あらテディ、カメラ回ってるところでマイナスな事言ってちゃダメよ」
それでもシリルさんの仰る通りで。
「しかし、隊長の選ぶ服も気になるけど後の二人が全然想像つかないわ…。テオは…彼の感じからしてスポーティーでアクティブなものだったりするかしら?ロードは私服を見た事ないし、普段のイメージからお堅い感じを選ぶのかも分からないけど」
「…何かどうでもよくなってきたぁ〜」
「テディ、貴方司会なんだから急速に飽きないで」
「だってぇ〜…ボクも服見るの好きなのに挑戦者じゃなくて司会なんだも〜ん…審査員ですらないんだも〜ん…」
「あら、何で挑戦者側に回らなかったの?そうしたら四人だから本家ルールで三色ショッピング出来たのに」
「尺とるでしょ〜?」
「あら、メタ発言ね」
そうです、本家ルールにしたら何回勝負すると思うのか。
そうこうしている内にタイマーが鳴る。そろそろ取材に行く時間だ。
「もう適当に順番で良いよね?」
あみだくじを用意した意味とは。
「シリルあみだくじで遊んでて良いよー。じゃあボク、テオのとこから行ってくるねー」
テディはマイクを持ってとことことテオフィルスのいる方へ向かった。その背中を見てシリルは思った。
「…情緒もへったくれもないわね」
無法地帯と化したこのカオス空間は何なのだろう、と。
「と言うわけで貴方が選んだのは何色の何!」
「一息に言うなよ!もっとこう、どんなの選んだかとかどう言うところ行きたいかとかトークに花咲かせるもんだろ!?」
「どんなの選んだのどう言うところ行きたいの!」
「だから一息に言うなって!」
文句を言いながらも相手をしてくれるテオフィルスはその手にワンピースを持っていた。
「あ!テオもしかしてワンピースにしたの?」
「ああ、ワンピースをメインに小物とかで色合わせようかと思ってさ。足があるからあまり広く動けなくて同じブランドのものばっかだけどな」
「へぇー!考えて選んでんだね!で?どんなのどんなの?何色の何?」
「えっと、茶色のワンピースに、ベージュ基調のコート、それから白い靴下と靴」
スカートにフリルのあしらわれたミリタリーデザインの可愛らしいワンピース、コートも靴下もそれに準じたデザインになっておりとても可愛らしい。ミア辺りが似合うのではないかと思いつつテディは思った事を口にした。
「…何かオタクっぽーい」
「オタクっぽいってどう言う意味だ!?」
「え?これ…コスプレとかじゃなくてー?」
「コスプレじゃねぇだろ!?普通に可愛くねぇか…?駄目なのか…?」
「何をイメージして選んだの?」
「海上の青い星のセーラちゃんだけど?」
「うわ」
「今「うわ」っつった?」
「一応可愛いしバランス良いからショッピング成功〜!次行こ、ヴォイド着てくれると良いね〜」
「…お前急に司会が雑になったな…」
テオフィルスの意外な趣味ににやにやしつつ次はロードの元へ向かう。
「ロードはどんなの選んだのー?」
先程テオフィルスに言われた事を考えて少しだけ雑談を挟む。ロードはテディが寄ってくると嬉しそうに微笑んだ。
「こんにちはテディさん。いつもシキと仲良くしてくれてありがとうございます」
「うん、まあボクがお世話してあげてない事もない。あ、ロードこの間またシキに黙って冷蔵庫におかず足したでしょー?」
「ええ、シキは放っておいたらお菓子しか食べませんから」
「シキ美味しかったって。皆に自慢して歩いてたよー」
「それは良かった」
テディは、ここの時点で会話を止めておけば良かったと後に思った。
「で?貴方が選んだのは何色の何?随分かごスカスカだけど」
「はい、私が選んだのはベージュの総レースランジェリーに白のガーターストッキング、それから茶色のシースルーナイトガウンです」
「……はぁ?」
テディにしてはドスの効いた低い声が出たのだが、それで止まるなら彼はロードではない。
「それから差し色で赤い蓋のローション、黒いパッケージのゴム、ピンクのバイブ、それから…」
「はいはいここからはワタシがテディに代わるわ」
差し色で、くらいで間一髪、後ろからシリルがテディの耳と目を塞いだ。
「差し色とか言いながら何を明らかに私用の余計な物買ってるのかしら?趣旨分かってる?そしてこの子未成年よ。分かってる!?」
「おやおや、十五歳くらいと言えば(ピーー!)くらい(ピーー!)ではなく(ピーー!)も駆使してシてるかと思ったんですけどねぇ」
「そんなに過激ではないけど、色々アウトだからパリピな規制音入れるわ」
「うふふ…手厳しいですねぇ」
「それより、デートって言ったでしょ?何を聞いてたの?聞いてなくてもこのチョイスは何なの?」
「え?デート…色々考えましたが、やはり私と言ったらとりあえずホテルかな?と…」
「(つくづく思ってたけどやっぱりサイテーだわこの男)」
「ボク、もうユウヤミのところ行く…」
テディはとにかく早く記憶を塗り替えたかった。
「アナタノ、選ンダノハ、何色ノ何?」
「どうしたんだい?結婚式の神父のやり過ぎな訛りみたいな声出して」
「だって、だってロードがぁぁぁあ!!」
「彼がどうしたんだい?」
「下着選んでた」
「彼は何しに来たんだい?」
「もう思い出すの嫌だから聞くね、ユウヤミはヴォイドにどんな服着て欲しいの?」
テディが聞くと、ユウヤミは顎に手を当て「それが今まさにカゴの中にあるのだけどね?」と言った。それもそうだ。
「じゃあ、どんなデートしたい?」
「そうだねぇ…彼女が最大限満喫出来る様なところ…かな?私はそれを見ているだけで良いよ」
テディは少しだけよく分からなくなった。
「それ、ユウヤミは楽しいの…?」
「楽しいよ。見ていられたら、それで」
「ヴォイドの事好きじゃないの?ヴォイドと一緒に何かしたくならないの?」
デートなのに。二人で楽しむと言うよりか、楽しんでいる相手を見る、と言うユウヤミの主張がテディには分からなかった。それはまるで、相手が楽しんでくれたら一緒にいるのは自分でなくても良い。そんな切ない事に発展してもおかしくない気がして、何だかテディは悲しくなったのだ。
ユウヤミはそんなテディの顔を見て少し微笑み、彼の頭を宥めるように優しく撫でた。
「少なくとも今は厄介な難事件を抱えてると思っている。それに私はどこにいても彼女を見付けるつもりだからね。とりあえず、今は深い事は言わずにホロウ君に着て欲しい…いや、似合いそうな服をね、私なりに見繕ったよ」
「うん、何色の何?」
「ベージュ…と言うよりクリーム色かな?まあ、ベージュ系統のトップス、茶色のパンツ、白のベルト。それから差し色に、イエローのパンプス」
「ここに来てやっと三色ショッピングみたくなった…!」
「泣く程かい…?」
浅いVネックのトップスはゆったりしてそれでいてハリ感のあるもの。バストが強調されにくい質感に首回りはスッキリ見せる視覚効果を狙っている。パンツはスラッとしていて縦に長く見えるもの。ベルトで締める事でバランスよく見せる事もできる。
「ホロウ君のボディラインを下品に見えない様に、大人っぽく綺麗に見せようと思ったらとりあえず基本はこんなところかなぁ?他にもコートやストールもあるけどね」
「へぇ〜…そっかぁ、胸が強調されて良くない場合もあるんだね」
「良くないと言うか、バランスが崩れると何でも違和感を覚えてしまうよ。体を覆うのは服だから、その服によってバランスの悪さが誇張されてしまう事もある。それはどんな体型の人でも同じだねぇ。逆を言えばどんな体型の人でも身に纏うものを駆使する事で綺麗にラインを見せる事も出来るよ」
「ボク、可愛い服着たいからって体重とか凄い気にしてたなぁ…」
「どんな体型の人でもあらゆる服を着てお洒落になる権利があるよ。女性は皆美しいんだから、どんな人でも自分が一番美しく見えるものを着れば最大限美しくなると私は思うけどねぇ」
後から合流したシリルから「文句なしに隊長の優勝」が上がり、当たり前の様にユウヤミが優勝した。食い倒れに誘われた時、この服をプレゼントしたのはここでのやり取りがあったとかなかったとか。
「もしもしポリスメン?」
密かに着いて来ていたエドゥアルトはロードを見ていの一番に、ミリロリから童貞を殺すセーター系統の服にシフト仕掛けたテオフィルスに、それぞれそんな圧力を掛けたそうな。
隣にいたガートは恥ずかしさで死にそうになっているテオフィルスの手にある童貞を殺すセーターを見て一言。
「えげつない性癖しとんなワレェ」
悪気は無い。思った事を言っただけだ。
何気ないワレェが、テオフィルスの心を傷付けた。