薄明のカンテ - 親切な貴族

親切な貴族

本文

むかしむかし、むらで とっても わるい びょうき が りゅうこう しました。
やまがみさま に おいのりしても、なかなか びょうき は なおりません。
むらびと が こまっていると、そこへ うま に のった えらい きぞく の ひと が あらわれました。
「 なにやら こまっている ようですね 」
「 びょうき で みんな くるしんでいるんです 」
それを きいた きぞく の ひと は、
「 なんて たいへんだ 」
と たくさん の くすり を わけてくれました。
その くすり を のむ と、 びょうき は あっというまに なおりました。
よろこんだ むらびと は、 きぞく の ひと に なまえ を ききましたが、 そのひと は、なまえを いわず に いなくなりました。
「 なんて きぞく は すばらしい ひと なんだ !」
「 やまがみさま の つかい だったのだ 」
むらびと は なんねん たっても、 いのちのおんじん の きぞく への かんしゃ を わすれません。
わたしたち も きぞくのひと への かんしゃ を わすれないよう に しましょう。

解説

カヌル火山群内にある集落に伝わる昔話。物語発祥の年代は不明。
集落は長年、他族との交流を絶っていたために文化の発展が遅れていた。
その為、病気の流行に対しても祈祷・呪い(まじない)か山の薬草に頼ることしか出来ず、多数の死者を出していたと思われる。
本文中の貴族が現代に残る貴族を指すのかは分からないが、決して安価とはいえない薬を提供できたのだから、それなりの財力を持ち合わせていた人物なのだろう。