自分でやっておいてなんだが、トラックに
機械人形を積み上げると死体の山のようで何だか気分が悪い。いつもならそんなことは思わないのに、ルーウィンは今日はそう思って渋面でそれを見ていた。
「どうされました?」
ルーウィンに問い掛けてきたのはマルガレーテ――通称、キッカだった。自分より30センチメートル以上小さな女性であるキッカを見下ろして、彼女の濃い金色の髪を視界に入れながらルーウィンは口を開く。
「何か今日は胸糞悪いなって思っただけっす」
ルーウィンの言葉にキッカは荷台に積み上がった機械人形達へ視線を向けた。
前線駆除班として幾度となく機械人形を倒している訳であるが、何故今日に限って彼は「胸糞悪い」と負の感情を抱くのか。興味深く考察しようとしたキッカだったが、直ぐに原因であろうことに思い当たる。
「子供型が多いからでは?」
「あっ、確かに……そーかもしれないっすね……」
今日の戦闘は子供の形をした機械人形が多かった。外傷がなく目を閉じた機械人形は人に有り得ない髪色をしていることを除けば人間と大差が無く、そうなれば人間の子供の死体と何ら変わりなく見える。それが自身の「胸糞悪い」に繋がっているのだろう。
子供のいないルーウィンですら訳もなく気分が悪くなるのだから、ノーマンという可愛がっている息子のいるキッカは尚更気分が良いものではないかもしれない。その事実に思い当たったルーウィンはキッカとトラックの間に立った。彼女にあまり見せると申し訳ないというルーウィンとしては気遣いのつもりだったのだが、露骨なルーウィンの行動の意図は直ぐにキッカに気付かれてしまいキッカから微笑ましいようなものを見るような目で見られてしまう。そうなると自分の行動が恥ずかしい。
「おー、終わったか」
「副長! サボってどこいってたんすか?」
良いタイミングでジョンが現れて、ルーウィンは彼が来たことで空気が変えられる事に安堵しつつも機械人形をトラックに運び上げる時にはしれっといなくなっていたジョンへと文句の声を上げる。
「童には分からねぇ仕事があんだよ。それにしても、よりによって今日に出動があるなんてなぁ」
ジョンの言葉にルーウィンは眉を顰めた。「よりによって今日」と言うジョンの言い方が気になったからだ。
今日は2月14日。ジョンの誕生日は先月で
缶コーヒーを奢ったのだから誕生日では無い。特に今日は祝日でもないし、誰かジョンの気になる人の誕生日だったりするのだろうか。
愛の日ということを
忘れていたルーウィンは怪訝な顔をしたままだが、まさか若い男子であるルーウィンがこんな面白おかしい青春味の溢れるイベントを忘れていると夢にも思わないジョンはニヤニヤと口元を緩ませる。
「安心しろ。少なくともキッカさんとセリカさんはくれるだろうよ……小隊長は怪しいけどなぁ」
ジョンの言葉に頭に「?」を浮かべるルーウィンは「何かをくれるだろう」キッカを見た。その困惑する表情と、ここまでの会話でルーウィンが今日が愛の日であることを忘れていると悟っているキッカだが、別にわざわざ指摘してやらなくても良いかと思いつつ口を開く。
「そうですね。昼食時にと思い、用意はあります」
一体、何があるんだ。
そう思っていたのに、昼食時に女性陣から菓子を貰っても「あざまーす」とイベントに気付かない鈍感なルーウィンがいたのであった。