薄明のカンテ - ランツの宝坊

宝坊ーーランツに伝わる童物語

本文

昔、民のことを考えない王様がいた。
怒った部下と民たちは王様を殺そうとした。
丸々と太っていた王様とその家族はすぐに捕まってしまったが、細かった1人の姫だけ逃げおおせた。姫は可哀想に思った民に匿われ、民のうちの男と恋仲になり1人の子を産んだ。
その子供は化け物のような姿で生まれた。村人は王家に掛けられた呪いを全てその身に受けたのだと考えたが、姫も夫になった男も気にせず育てた。その後数人子供が生まれたが、彼らには呪いはなかった。
ある時、遂に追っ手が姫の元にもやってきた。
その時、化け物の子が立ち上がり、自分が全員の身代わりになると言った。
姫も男も止めたが、「私はこのために生まれたのだ」と言って村人全員に演技をするよう指示して、「姫は死んだが、生きていた子はあの家で引き取った、呪われた子だから早くつまみ出してくれ」と言わせた。
追っ手はその演技を信じ、化け物の子だけを連れていき、斬首の上胴体はランツの海へ投げ捨てられた。翌日、ランツの海の浜辺に宝を積んだ船が流れ着いた。
村人は「あの子が宝をくれたのだ」と言って船に乗っていた人と宝を大切に扱った。

解説

この伝説に登場する「呪われた化け物の子」は鉛中毒による奇形だと推察される。
姫の白粉には鉛や水銀が含まれていた可能性が高く、最初の子には影響を与えてしまったのではないかとされている。最後の「宝を積んだ船」は渡来人の事と考えられるが、記録上は18世紀頃にやって来たので、後世の付け足しではないかと言われている。