薄明のカンテ - ミサキとユウヤミのじゃれあい 補足ありver.
「これ、本人に伝えて。」
(貴方の小隊の人なんだからちゃんと管理してよね)

嫌とか言うなとミサキの冷たい瞳が光り、ユウヤミに書類が手渡される。
その視線を軽く受け流して微笑むユウヤミ。

「時にケルンティア君、この後空いてるかい?」
(お茶とか言って誘い出して情報抜こう、ついでにおちょくって遊びたいなぁ)

「忙しい。」
(貴方の魂胆は見え透いてるよ、忙しいって言って断ろう)

間髪入れず答えるミサキ。
揺らがぬミサキの強い視線とまとわりつくようなユウヤミの柔らかな視線が絡まる。

「本当につれないねぇ、ケルンティア君。」
(なーんだバレちゃってるのか、また今度にしようっと)

表情を変えないミサキに既に下がってる眉を更に下げて諦めるユウヤミ。

「いいよ、伝えておいてあげようじゃないか。ただし、このお代は高くつくよ?」
(どうやって遊ぼうかなぁ、さりげなくて自分は困らないような……どれにしようかな?)

クスリと笑うユウヤミを尻目にミサキがカバンからさりげなく数枚の写真を取り出す。

「これでいいでしょ。」
(貴方の弱み握ってるから余計な事しないでよね)

ミサキの手に握られているのはヴォイドの生写真。

「何をどう思ってるかに興味はない。噂からの推測。」
(同族のにおいが気になっているんだろうなとは推測できるけど)

握られている写真の中にヴォイドにユウヤミが壁ドンして逃げられているものが混じっているのを見つけ、ユウヤミの白い頬の色がサッと変わった。
必死に動揺を隠そうとしているのか微笑みを崩さないが、明らかに顔色が悪い。

「一体何処で撮ったのかな?こんなローアングル?」
(監視カメラの死角を選んだ。周囲に人間も機械人形もいないのは確認済み。山積みの機材がある場所でもなかった。何故だ?)

「ただの噂に実体を持たせる。」
(何処で壁ドンするか推理して先にカメラを隠した。ヴォイドとの関係はぼんやりした噂が流れてるけど、この写真をばら撒けば確定する。勝手に片想いしている人や貴方の信奉者がどんな反応するだろう)

「観葉植物?悪趣味だねぇ。」
(もしかして結構遠いところにあった観葉植物にカメラを隠していたのかい?全く盗撮なんて悪趣味だね。ホロウ君の事でそんな脅しが通用すると思っているのかい?)

「使える駒を使用不可にするならそれなりの措置を取る。」
(この写真を撒かれたくなかったら仕事はちゃんとやってよね。報酬が必要な範囲じゃないんだから。)

「物騒な事を言うねぇ、ケルンティア君。」
(流石にそれを撒かれるのは私でも怖いな……マシマ君がどんな事をするか予測するのも怖いんだけど)

「逆らう気?」
(ここまで言ってまだ大人しく私の言うことが聞けないの?)

「まさか。その程度かい?」
(逆らう気なんてないよ、遊びたいだけだから。というより君の捜査力は結社内のゴシップ情報くらいしか出せないんだね?ちょっと拍子抜けしちゃった)

「15年前の新聞も必要?」
(貴方が15年前起こした戦後最悪とも言われた少年事件の犯人で、長らく少年院にいた事は調査済みだけど。上層部も更生済みだから大丈夫だと判断して結社に入れた。)

「……!」
(そこもケルンティア君は知っているのか……敢えてカードを見せなかっただけで色々と調べが付いている可能性が高いな。結社から追い出されたら今度こそヨダカに殺されそうな予感がするし、下手に逆らうのはまずいなぁ)

「探偵屋も軍警の首輪。」
(建前は探偵屋で軍警のコンサルタントが主な仕事だった。ヨダカは軍警から付けられた首輪で、軍警に関わる仕事をさせる事で緩やかな首輪もつけられていたのでしょ?)

「素人が軍警組織に首を突っ込むのは感心しないねぇ。」
(これ以上深掘りされるのは危険だ、さっさと引き上げよう。それに、ケルンティア君を軍警のしがらみに巻き込むわけにいかない。せっかく玩具にできたのに軍警に取り上げられたくないからね)

「別に。使える間は使う。」
(使えなくなったら処分するだけ。わかったらさっさと仕事して)

「そうかい、今日はこのホロウ君の写真に免じて真面目に仕事するよ。」
(こう言えば油断して注意が散るはず、真面目に仕事なんて柄じゃないし)

さっとミサキの手の中から1枚だけ写真を抜き取って席を立つユウヤミ。

「証拠ができちゃったよ?ケルンティア君?」
(私がこの写真を受け取った事で、君が私を脅迫した事実の証拠が出来ちゃったねぇ。そういうの、君もバレると問題なんじゃないかい?)

写真をひらひら振って笑うユウヤミにジト目で返すミサキ。
だからこの人は嫌いなんだと口の中で呟く。

「今度の時は君の番だよ、私に付き合ってくれないかい?」
(今回は私の話で終わったけど、今度こそケルンティア君には上層部の情報を吐いてもらうからね、覚悟してよね?)

パチンと音のしそうなウインクを残して部屋を出て行くユウヤミ。
扉が閉まる音にミサキのため息が重なった。

その後、写真はあっけなくヨダカに見つかり没収された。
壁ドンを逃げられた写真はまだミサキの手の中にあるので、何か理由をつけて回収しようとユウヤミは考えたが、良いタイミングで第6小隊は支部勤務の割り振りが回ってきたので断念せざるを得なくなったのだった。


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