薄明のカンテ - あの日までのシリル/べにざくろ
 うちの奥さんは今日も可愛い。
「 ねえ。こっちとこっち、どっちが可愛い? 」
「リアはどっちも似合うよ」
「もうっ! バートはいつもそうなんだから! 」
 僕の言葉にぷいっと頬を膨らませて拗ねる奥さんも可愛い。今日は彼女の希望で洋服を買いに来たのだけど、僕にはどれを着たって奥さんが可愛いのは間違いないのだから聞いたって無駄なんだよな。あ、でも露出度が高い服は絶対禁止。まあ、リアがそんな服を選ぶ女性だとは思わないけど。
 それに僕に聞かなくても、僕たち夫婦には最強のコーディネーターが付いているじゃないか。
「 シリル、どっちが似合う? 」
 リアも結局、僕じゃなくて静かに控えている我が家の機械人形に問い掛けている。男性名で無性体だけど、見た目は女性に近い設定をしているシリルは微笑んでリアに答える。
「家にあるものと合わせるならコッチね」
 シリルにはうちのクローゼットの中身を覚えてもらっているだけあって意見に間違いはない。
「 こっちだとどう? 」
「 コレだと所持アイテムから推測すると3パターンしかコーディネート出来ないわ。コッチだと複数のパターンで着回しがきくわね 」
「 そっか…… 」
 話し合うリアとシリルが並んでいる様は姉妹にしか見えない。多分、シリルの髪が機械人形独特の薄紫色じゃなければそう勘違いする人もいるんじゃないだろうか。
 結局、リアはシリルに選んでもらった服を買うことに決めたらしい。レジへ持っていくリアを見送って、シリルと僕は一足先に店の外へ出る。ちなみに僕とシリルが並んでも僕の方が背が高い。負けると悔しいからシリルを買った時にギリギリでも勝てるように設定したからだ。
「 ふう…… 」
「 疲れた? 」
「 女性の買い物は大変だからね 」
 愛しいリアを可愛くするための買い物だとしても疲労感があるのは本当で僕はシリルに肩を竦めて見せる。そんな僕にシリルがいたずらっぽく笑ってみせた。
「 後はCherry xsherryのケーキを買って帰るのよ? 」
「 ……こないだリアが気にしていたというケーキだよね」
 そうだ。
 彼女がそのケーキを気にしていたことを 忘れていた。折角来たのだから買って帰らないと。
「 フルーツタルトが食べたいって騒いでたわ 」
 食べたいと言っていたケーキを食べたらリアはどんなに喜んでくれるだろうか。満面の笑みでケーキを頬張るリアを想像したら僕の類も思わず緩む。
「その顔は人前でするモノじゃないわよ」
 どうやら緩み過ぎていたらしくてシリルが注意してくるので、慌てて顔の筋肉を引き締めた。彼女のことを考えるとついつい地んじゃうんだよな。さすがにリアにこんな顔は見せられない。
「お待たせ」
 店から出てきたリアから洋服の袋を受け取って( シリルが持ってくれるというけど、此処はやっぱり僕の仕事だ)、僕達は中央通りへ向かっていった。


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