薄明のカンテ - あっちむいてほいをしないと出られない部屋
あっちむいてほい
2人でじゃんけんを行う。その勝敗が決まった直後、「あっち向いてホイ!」の掛け声の後、負けた方は上下左右のいずれか一方へ顔を向け、勝った方は上下左右のいずれか一方を指差す。顔を向けた方向と指を差した方向が一致すると指を差した方の勝ちとなり、一致しなかった場合じゃんけんからやり直しとなる。(Wikipediaより)





はじまり

ある日、目を覚ますと不思議な部屋にいたあなた。
気付けば隣には別の人の姿も。
壁には怪しいスクリーン。
2人が目を覚ましたことを理解したのか、その画面に文字が映る。
「ここは、あっちむいてほいをしないと出られない部屋です」と―――。

【template】

⚫⚫vs⚫⚫の場合

本文(文章でもセリフだけでも)
―――WINNER 勝者の名前!!

ルール

  • 「あっちむいてほい」に勝敗がつかないと出られない。
  • 勝敗が何回で決まるかはまちまち。

勝負開始!!

ロナvsテオの場合

 その部屋では2人の男が対峙していた。
「 ……いや、何かおかしくね? 」
「 何もおかしいところはないが 」
「 ジャンケン10連勝とかおかしいだろうが!! 」
 ビシッと指さしてロナに文句を言う大人らしからぬ男、テオフィルス。
 しかし、テオフィルスが声を上げたくなるのも仕方ない。「 あっちむいてほい 」を言う言わないの問題以前に、ロナにじゃんけんに全く勝てないのだから。
「 59049分の1……次は177147分の1…… 」
 連勝する確率を呟きながら次に出す手を何にするか考える。前回はチョキ、次はパーか。はたまた裏をかいて連続でチョキか。
 真剣に考えるテオフィルスに、ロナは困ったような顔を見せた。
「 振り下ろす手を見ていれば良いだけじゃないのか? 」
「 は? 」
 唖然とするテオフィルスにロナは平然とした顔で、まるで当然のことのように語る。じゃんけんをする手は、振り下ろしている途中で既に出す手の形になっているのだから、それを見れば良いのだと。
( どうなってるんだよ…こいつの動体視力… )
 並の人間にそんな手の動きを見ることも、それから出す勝つための手を判断することも出来るわけがない。ロナの驚異的な動体視力にテオフィルスは戦慄した。
 だからだろうか。
 11戦目ではじゃんけんに敗け、さらにはあっさりと「あっちむいてほい」にも敗けた。
 そうしてテオフィルスに残ったのは、ロナの驚異的な動体視力への恐怖だけなのであった。

―――WINNER ロナ・サオトメ!!

タイガvsミアの場合

「 あっちむいてほいをしないと出られない部屋です…? 」
 部屋にあった画面に浮かぶ文字を、タイガとミアは狙ったわけでもないのに同時に声を揃えて読み上げていた。
「 怖いものじゃなくて良かったですね、タイガ君! 」
 既にやる気満々のミアはそう言って拳を構える。
「 そうだね 」
( これ、何回勝負なんだろ…? )
 そんな疑問を抱きつつも、特にやらない理由もないのでタイガもミアに合わせることにした。
「 じゃーんけん、ぽん! 」
 タイガがパー、ミアがグー。タイガの勝ちだ。
「 あっち向いて、ほい! 」
 タイガの指は右を指していた。ミアの顔も右を見ていた。
「 私、これ苦手なんです…つい指さされた方を見ちゃうんですよね 」
「 分かる分かる! オレもすぐ見ちゃう 」
 悲しいかな。素直すぎる性格の人間故に、2人はものすごーく「あっちむいてほい」が弱い人間だった。つまり、この部屋の中では最弱選手権が開催されていると言っても過言ではない。
「 じゃーんけん… 」
 二戦目。ジャンケンはミアが勝った。「 あっちむいてほい 」もミアの指す方をタイガが見たので、ミアの勝利。
 三戦目。ジャンケンの勝者はタイガ。その後も、タイガの勝利。
「 あっ 」
 2人の声が再び揃う。何もない壁かと思った場所が実は扉で、そこがおもむろに開いたのだ。
「 あーあ。タイガ君が2勝だから、負けちゃったなぁ…… 」
 不満そうな声を上げるミアに、タイガは笑って「 たまたまだよ 」と大人の余裕で返す。勝ったからこその大人の余裕だ。負けてたら間違いなくミアと同じ反応をする男、それがタイガ・ヴァテールという人間だ。
「 次は絶対勝ちますね! 」
「 うーん……次は無い方が良いかなぁ 」

―――WINNER タイガ・ヴァテール!!

ユロvsロナの場合

【前回までのあらすじ】
気がついたら入り口も出口もない真っ白い部屋にいたロナは久々に姉のユロと再会した途端斬りかかられたので全力の斬り合いになり、その果てに降参した。

「強くなったな、ロナ。アタシと互角なんてそうそういないぞ?さすが我が弟。」
ニカッと笑うユロの視界に死んだ魚の目になったロナは入っていない。
「ところで、ここってどこだ?」
ユロの質問に『あっちむいてほいしないと出られない部屋』と書かれた大型ディスプレーを指さすロナ。ツッコミを入れる元気は残っていない。
「ふーん。気ぃ抜けた。とりま仮眠取っていいよな。」
「姉貴、文字読めるよな……?」
「酸欠になる前に出ればいいんだろ?休める時に休まないとバックパッカーやってられないぞ。」
「斬り合いしなk」
言い終わる前にユロの蹴りが飛んでくるのを察知したロナが避け、ユロの舌打ちが部屋に響く。
「姉貴はいつ帰るのも自由かもしれないが、俺は遅くなると仕事に支障が出るんだ。」
ロナの睨む視線に特大の溜息を吐くユロ。
「相変わらず良い子ちゃんだよな。余裕がない奴は長生きできないんだぞ?」
「姉貴は余裕がありすぎなんだと思うんだが。」
知らんなぁと言って寝転がるユロ。
直後、ディスプレーに『制限時間 残り10:00』と表示が追加され、下2桁が1秒ごとにカウントダウンしていくのを見たロナの顔が青ざめた。
「姉貴……姉貴!」
「えー制限時間?超えるとどうなるんだよ?」
「どうって……」
ユロの疑問に言葉を詰まらせるロナ。様子を察したのかディスプレーに『制限時間を超えた場合、天井から養殖ゴ○ブリの大軍を送り込みます』と表示される。
「嘘だろ……?」
表情が固まるロナの横で寝転がったままユロが伸びをする。
「はいはい。じゃ、あっちむいてほいやるか。」
仕方ないなと起き上がるユロの目にはもう闘志が燃えていた。
「もちろんロナ相手に手加減なんてしないからな。さっさと片付けよう。」
「わかった。望むところだ。」
じゃんけんもあっちむいてほいも動体視力と反応速度が良ければ、次に出る手を察知して勝つ事ができる。幼い頃から姉に散々な目に遭わされてきたロナはその必勝法を身につけた……のだが。
チョキが出ると思ってグーを出したロナに対して、ユロの手はパー。フェイントをかけられたと一瞬考えたロナはユロの振った指にうっかりつられて動いてしまった。
「だから良い子ちゃんだって言ったんだ。」
ドヤ顔で言うユロ。しばらくユロとあっちむいてほいをしていなかった所為で勘が鈍っていたと反省したロナは太古の記憶を引っ張り出して応戦する事にした。
ジャンケンとあっちむいてほいのセットが息つく間もなく超高速で進む。フェイントをかけたりかけられたりしたどっちも一歩も譲らない激戦の中、ほんの一瞬だけ集中力が途切れて振った指につられてしまったのはロナだった。
ディスプレーのカウントダウンが『02:32』で止まり、ブザー音が部屋に響く。ハッと音のした方を見たユロとロナは壁の一部が扉のように開いていくのを見た。
「終わったのか……」
「もう終わったのか?まだ2回しか勝ってないぞ?延長戦を要求する!」
「姉貴、出られるうちに出よう。条件が無理難題に変わるかもしれないだろ?」
この程度じゃ面白くないとむくれるユロの背を押してロナは部屋を後にした。

ーーーWINNER ユロ・サオトメ!!

ヴォイドvsヒギリの場合

その日真っ白なその部屋にいたのは意外な二人。
黒く青いヴォイドと黒く赤いヒギリだ。じとっとした目で周りを見回すヴォイドに対しわたわたしながら出口を探すヒギリだが、やがて諦めたのか二人とも部屋の中央に集まった。
「あ、あの…」
「何…?」
「な、何でも、無い、のです…」
ヒギリは心の中で「この姉さん怖ぇぇぇぇえ!」と呟いた。食堂で仕事中よく見かける人なのは分かっている。エリックが彼女と鉢合わせた際一瞬びくりと肩を大きく震わせた事も(多分それは恐怖だった)、テオフィルスが彼女と鉢合わせた際一瞬目に光が灯ったのも(その後足の調子はどうか聞いていた)、彼女が医療班だから顔合わせが多いんだろうが、だが、しかし。
「(何かモヤモヤする〜…)」
そんな事をこっそり思っていた相手とまさかこんな出られない空間で二人きりになるとは。バツが悪いと言うか何と言うか。
「ねえ」
「うわぁ!うわ、はい!」
「そんなに驚く…?」
「いや、その…何でしょう?」
「あっち向いてホイしようか」
「えええ!?いきなり突然!?何でですかね!?そりゃあ、私も憧れてる男性とやたら親しかったりする方だから嫉妬とかしちゃったりもういっそ憧れたり色々あるけどでもとりあえず仲良くしたいな〜とか思ってて、どうしたら良いかわからなかったのに色々飛ばしてまさかのあっち向いてホイですか!?」
マラソンランナー応援用かと言う肺活量で一息にまくし立てたのだが、ヴォイドは不審なものを見る目をより強めてしまった。
「は…?」
「え?」
「この部屋、あっち向いてホイしないと出れないって書いてあるからやろうって言ったんだけど」
「えええ〜…」
落ち着いて壁を見れば確かにそんな事が書いてある。
「よ、よせやい…」
「(見てなかったのか)」
落ち着きを取り戻しあっち向いてホイをいざ始めるのだが。
「じゃんけんぽんっ!」
「いんじゃんぽいっ」
「ん?」
「え」
「初めて聞きました…」
「あ、そう」
掛け声の違い。戸惑いの間。
それでも何とかあっち向いてホイをクリアした二人の目の前で道は開けた。ヒギリは恐ろしく弱かった。
「や、やっと出られる…」
「時間はそんな経ってないけど」
「せ、精神的なもんです…」
「…あのさ」
「はい?」
「誰を気にしてるか知らないけど、多分ヒギリはもっと近い距離の人見た方が良いと思う。タ…いや、ヒギリってあの視線気にならないんだ?」
「え!?視線!?誰!?」
「気付いてないなら言わない」
「ええ〜!?待ってよ教えてよヴォイドさーん!」
この二人、何だかそれなりに仲良くはなったらしい。
「私彼氏欲しいのー!素敵な恋したいのー!」
「知らない」
「そう言わずにー!」
「じゃあ頑張れ」
「ヴォイドさーん!」
「うるさい単純の助」
稀に見る単純っぷりであっち向いてホイに負けたヒギリはこの日以来、ヴォイドにしつこくし過ぎると「単純の助」と呼ばれ諭される様になった。

ーーーWINNER ヴォイド・ホロウ!!

ユウヤミvsミサキの場合

【前回までのあらすじ】
唐突に「あっちむいてほいをしないと出られない部屋」に転移した2人だが、真っ白な塗壁の中でミサキに近くに来るなと絶対零度の視線で言われたユウヤミは両手を広げて変な気はない事をアピールしていた。

「通気口……」
(通気口があればそこから脱出できると思ったけどないのか)
「窒息が怖いねぇ」
(壁の隙間があるわけでもなさそうだし、窒息する前に出ないとだね)
「照明?」
(照明の配線が来てるなら材質によっては破壊して出られる)
「協力してくれるのかい?」
(仮に出来るとしても、天井の高さ的に私を踏み台にしないとできないよ?)
事もなげに言うユウヤミに、うっ……と顔を歪ませるミサキ。
「編み棒は?」
(いつも使ってる鉄製編み棒でどうにかできないの?)
「材質だねぇ」
(簡単に壊れるような材質でこの壁はできてないみたいだよ)
コンコン、とユウヤミが壁を叩くと音は響かずに消えていった。
声を上げても外には聞こえないと理解したミサキは溜息を吐いた。
「あっちむいてほい、するかい?」
(諦めついたかい、この手のネタは逃げられないようになってるんだよ?)
「条件が不明。」
(ただあっちむいてほいをするだけで外に出られるとは思えない)
「最初から全部わかるなんて面白くないよ?」
(やってみないとわからない事も割とあるものだよ、ケルンティア君もまだ若いね)
「……わかった。」
じゃんけんの為に片手を上げるミサキにユウヤミがストップをかける。
「こんなにソーシャルディスタンス取って見えるのかい、ケルンティア君?」
ユウヤミとミサキの間には4mほどの間隔が開いている。
「問題ない。」
「そうなのかい?私は構わないけどけどねぇ……それじゃ、」
「「じゃーんけーん」」
ぽいっと白手袋のユウヤミがグーを出し、黒手袋のミサキがチョキを出す。続くあっちむいてほいもミサキはあっさりユウヤミの振った方向を向いた。
直後、大きなブザー音が鳴ってミサキの肩が跳ね上がった。
「あっちむいてほいをしないと出られない部屋」と書かれた大型ディスプレーに『八百長、共謀、やらせ、仕込みの類いはカウントしません』と文字が追加される。
「ケルンティア君、イカサマは良くないよ?」
(今のはワザと負けたのだろう?よっぽど焦ってるみたいだねぇ)
「貴方に言われたくない。」
(私が出しそうな手を予測して勝ったのは貴方でしょ)
ミサキの言葉に肩をすくめて見せるユウヤミ。
「本気じゃないと部屋から出してくれないみたいだねぇ」
ニヤリと微笑んで左手の関節を鳴らすユウヤミにミサキは強い視線を返した。
じゃんけんはランダムだと思われがちだが、実はそうでもない。それぞれの性格によって出す手には偏りが出、何回か見ていればおおよそのパターンが見えてくる。彼らの頭脳ならばデータの応用で勝つも負けるも自在と言う事だ。
あっちむいてほいにしても、それぞれに効き向きがある為指さす側は考慮した方向を指せば勝率が上がる。反対に指を振る向きにもそれぞれに癖があるので、指される側は予測して回避が可能なのだ。
そして時間は経過すること105戦。
「やっぱり、真っ白い部屋っていうのも味気ないし、落ち着かないねぇ」
のんきに呟くユウヤミに肩で息をするミサキが睨む。
「敢えて?」
「何がだい?」
ゆったり微笑むユウヤミの目には悪戯心とも呼べそうな危うい光が浮いていた。
「貴方の勝率が0なんて有り得ない。」
「素直じゃないねぇ、勝ってるのはケルンティア君なのだから喜べばいいのに。」
手をひらひら振るユウヤミの前で疲れが出たミサキが座り込む。
「辞めるのかい?でも今辞めたらこの部屋で私と心中だよ?」
ミサキの目線に合わせてしゃがんだユウヤミが微笑みを消して言う。疲れたミサキの目に生命の光が灯り、顔を上げてユウヤミの目を睨みつける。
「うん、そう来なくっちゃぁね?」
ミサキの反応に満足そうに微笑んだユウヤミが掛け声をかける。一瞬で2人の空気が変化し、精査するような鋭い気配を纏う。今得られる情報を全て一度の勝負につぎ込んだその結果はーー?
じゃんけんに勝ったユウヤミが一瞬フェイントをかけて指を振り、つられたミサキはこの部屋で初めて敗北した。それと同時にブザーが鳴り、壁の一部に見えていた扉が開いていく。
「良かったねぇ、これで心中は回避できたねぇ」
呆然と出口を見つめるミサキに軽く言うユウヤミ。
「謀った?」
(わざと負けて油断を誘い、何度も勝っているはずなのに扉が開かない事で焦りを誘う。八百長で負けた分はカウントされない設定を逆手に取った戦法だったの?)
「何の事かな?」
(ケルンティア君にわかる範囲の事じゃないだろう?)
訝しむミサキに怪しい微笑みだけ残したユウヤミが扉を通って消えていく。
「嫌い、だっ……!!」
その背に投げつけたミサキの言葉は壁に吸い込まれていった。


ーーーWINNER ユウヤミ・リーシェル!!


ウルリッカvsエドゥアルトの場合

 ウルリッカが気付くと小さな白い部屋にいた。そこには同班の仲間の姿があってウルリッカは彼の名を呼ぶ。
「 エドゥ? 」
 壁にあったスクリーンに目を向けていたエドゥアルトが振り向いてウルリッカを見ると、そのスクリーンを指さした。
「 『ここは、あっちむいてほいをしないと出られない部屋です』…? 」
「 …らしいです 」
 肩を竦めるエドゥアルトは丸腰だった。ウルリッカも部屋中を見回してみるが愛銃のエルドちゃんの姿はなく、残念ながら壁を破壊して部屋から脱出することは不可能のようだ。
「 とりあえず、やりますか 」
「 うん。ノスタパッカサノムスタライズアッカ 」
「 のす…? 」
「 お呪い 」
「 はぁ… 」
 いきなり訳分からないことを言い出したウルリッカに唖然としたエドゥアルトだったが、彼女が僻地育ちの人間であることを思い出してツッコミを入れることを止める。代わりに思いついたことを口に出した。
「 じゃんけんの掛け声、ボクの『 じゃんけんぽん 』でやりましょう 」
「 ……うん 」
 若干の間があってからウルリッカが頷く。エドゥアルトが言ったのはカンテ国内で一般的なじゃんけんの掛け声だが、ウルリッカには馴染みの少ないものだからだ。
 ウルリッカの戸惑いを見てエドゥアルトは自分の想像が間違ってなかったことを確信した。間違いない。彼女の地域はもっと変な掛け声だったに違いないと。
「 じゃあ、行きますよ。じゃーんけーん… 」


 勝負は白熱していた。しかし、ウルリッカもエドゥもそれなりに勝ち、また負けているというのに、未だに部屋から出られる気配がない。
「 いつ終わるんだ? 」
 ポツリとエドゥアルトが呟くと、ピコンッと軽快な電子音がスクリーンから聞こえたので2人は手を止めてスクリーンへと注目する。

スクリーンに並んだ文字は―――100勝で終わりです。―――だった。

「 オイィィィ!! どんだけやらせる気だよォォ!! 」
 思わずエドゥアルトがツッコミを入れるものの相手は機械。無反応だ。
「 いやいやいや100勝とか長すぎでしょ!? 100番勝負ならともかく100勝するまで何回やれば終わる訳!? 」
 ピコンッと再び音が鳴ってスクリーンの文字が変わる。

スクリーンに並んだ文字は―――300回くらい?―――だった。

「 何で機械のくせにハテナとか付けてんのォォ!? そこは機械らしくボク達の今までの勝率から導き出した数値とか出してくるもんでしょォォオ!!? 」
 思いのままに文句をぶつけてみるが、今度はスクリーンは沈黙したままだった。全くもって解せない。
「 エドゥ、続きやろ 」
 ウルリッカは100勝という言葉にも全く動じていないようだった。相変わらずの淡々とした調子でエドゥアルトに言う。
( 真面目に100勝なんて狙っていたら終わらない。どうすれば…… )
 このままこの変な部屋に拘束されていたら敬愛するユウヤミ先輩に会えないじゃないか。
( ユウヤミ先輩……そうだ! )
 悩みながらもやっていたじゃんけんはエドゥアルトの勝ち。エドゥアルトは指をウルリッカに向けて言う。
「 あっち向いて……ユウヤミ先輩!! 」
「 え!? 」
 こうかはばつぐんだ。
 エドゥアルトの指さす方向にウルリッカの顔が向いていた。やはりウルリッカも第6小隊小隊長、ユウヤミ・リーシェルの信奉者。その名前には逆らえないらしい。
「 エドゥ……ズルい 」
「 何とでも言ってください。ボクは勝つ為なら手段は選びません 」
 ウルリッカは何も言わなかった。ただ纏う空気が狩りの獲物を前にしたようなものに変わったのを、エドゥアルトは肌が粟立つ程に感じていた。
「 じゃんけんぽん! 」
 勝者はウルリッカ。彼女がエドゥに指を向ける。
「 あっち向いて……ユウヤミ隊長 」
 自分がこの策を使ったことでウルリッカが同じことをしてくるのは予想出来ていた。しかし、予想していても悲しいかな。エドゥアルトの顔はウルリッカの指さした先を見ていた。もはや本能か何かだ。抗えっこない。
「 ……やりますね 」
「 負けない 」
 睨み合うウルリッカとエドゥアルト。
 ここに第三者がいれば、2人の間に火花が散ったのが見えたかもしれない。
「 じゃんけん…… 」

「 ユウヤミ先輩!! 」
「 ユウヤミ隊長!! 」
「 先輩! 」
「 隊長! 」
「 先輩いぃ!! 」「 隊長!! 」
……不毛な戦いは唐突に終わった。扉が現れて、あっけなく開いだのだ。
「 あれ? 」
 2人は顔を見合わせる。夢中になりすぎて、どっちが勝って終わったのか分からない。
「 とりあえず、お疲れ様でした 」
「 おつかれさま 」
 大事なのは勝者ではない。部屋から出られることだ。
 そう悟った2人は妙に晴れ晴れとした顔で部屋を後にした。


―――WINNER ユウヤミ・リーシェル(!?)

ロードvsシキの場合

シキは気が付くと白い部屋にいた。手に持ったミルクプリンを見ながら目をぱちくりする。
はて、自分はさっきまでユーシン達とプリンを食べようとしていたのに。
「いやいや参りましたねぇ。まさかこんなところに飛ばされるとは」
その声にピクリと反応し、シキは目を輝かせた。
「兄貴っ…!」
「おや?お前もここに喚ばれたのですか?」
「兄貴、元気そうだ」
「元気ですよ。私が元気が無いわけないじゃないですか」
うふふ、と笑い辺りを見回すとロードは出口の無い部屋の全貌を見渡し、「まぁ、たまには良いでしょう」と呟いた。
「こんな時ですが久しぶりなのでゆっくり話すのも良いかもしれませんね。もう結社の仕事には慣れましたか?」
「うん、皆仲良くしてくれる。年下の子が多いけど、分け隔てない良い子達ばかりだよ」
「そうですか…お前は自分の疲れに気付かないことが多いですが、今はそんな事ありませんか?」
「うん、大丈夫」
「少しでも疲れたと思ったら無理せず周りに言うんですよ。お前は体が大きいから何かあった時運ぶのも大変です。それから、皆がお前を頼ってくれたからと言って全てやることは無いんです。もうそろそろ人を使う事も覚えてですね…」
「ふふ…兄貴、何だか本当の父さんみたいだ」
「お前のお父さんはミクリカにいるでしょう?最近はどうです?ちゃんと手紙書いてますか?」
「ううん、何も。めんどくさくて」
「いけませんよ、仲が悪いわけではないんですからたまには親御さんに便りを出しなさいといつも言っているでしょう?」
「でも俺、めんどくさいし…」
「毎日書けとは言いません。せめて月一くらいで書きなさい」
「…兄貴、父ちゃん通り越して母ちゃんみたいだ」
俺母ちゃん知らないけど、と頭の後ろで手を組みながらブラブラするシキ。ロードはやれやれと言った顔でシキを見る。シキは何だか嬉しそうに微笑んだ。
「結社入って会わなくなったけど、兄貴は兄貴だ」
「私はそう簡単に無駄な変化はしませんよ。どうやらお前は良い変化があったようですがね。学校にも行ってなかったし同年代の友達も居なかったので心配でしたが」
「うん、今が学校みたいだよ。周りの子達も、年上の人達も、皆ちゃんと対等に扱ってくれる」
「そうですか。それなら安心ですね」
「ところで兄貴は例の好きな人どうなったの?あの、もう十年くらい好きだって子。どんな人?美人?兄貴の事覚えてた?」
結社にいるんでしょ?と悪意無く聞くシキ。しかし当のロードの笑顔は一瞬にして固まった。
言えない。どちらかと言うと彼女とは因縁に近いだなんて、再会してすぐ物凄い憎悪で向かわれたなんて。自分はそれすらもその場で襲おうかと思ったくらい興奮したから良いのだが、その興奮をシキに伝えたところでいまいち分からないだろうし。
「(大体ミルクプリンしか興味無さそうな子供に分かりますかね?本人無自覚ながらわかる人には嗅ぎ分けられるダダ漏れの彼女の色気が。食べ物食べる時に少し控えめに髪かき上げたりそもそもテーブルと下乳の距離の絶妙な近さとか見たらもうえらい事です三日は妄想だけで色々いけます。先日考え事してたのか飲み物零しててわしわし乱暴に拭いてましたけどもうその拭く役目は私が担いたかったです雑巾の代わりに。何なら濡らす役目も私がやりたいと思いましたがそれはさておき濡らす役目って何か卑猥ですね考えたらムラムラしてきました)」
「あ、兄貴?黙ってどうしたの?」
急に黙ったロードにシキはおずおずと声を掛ける。ロードは急に目の色を変えると、号令の様にキビキビと声を上げた。
「シキ、じゃんけんぽんっ!」
「ん!?」
咄嗟の事でシキは思わずチョキを出す。勝ったロードは更に指を差した。シキはロードの勢いに飲まれて思わず同じ方向を向いてしまう。
「え?何?急にあっち向いてホイ…?」
「さっきそれやれば出れるって書いてありましたよ。よく周りを見なさい」
「ずるい…だったらちゃんと教えてよ…」
「急に振られると素直過ぎる読みやすい動きをするのはお前の癖ですね。まあ、結果として早く出られるんだから良いじゃないですか」
「悔しい…」
壁の一部が扉となり開き始める。ロードは真っ直ぐ出口を見ているがシキはじっとりした目でロードを見つめている。
「…何です?」
「兄貴、ここ出たら落ち着いた状態であっち向いてホイして」
「ええ〜…」
「狡いことしたから俺が実力で勝つまでやる」
「しょうがないですねぇ…」


―――WINNER ロード・マーシュ!!