Twitter創作企画「薄明のカンテ」のまとめ。世界観の説明に始まり、小説・イラスト・漫画・音楽その他、創作企画で生まれた作品を掲載する場所。

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警備の仕事

「──では、早速面接させていただきますね。お名前をお伺いしてよろしいですか?」
 にこにこと場を和ませようと微笑む面接官の男に対してはぁ…と溜息を一つ。くいっ、と眼鏡を上げる仕草を取る男性。
 彼の眼鏡は指紋で汚れている。爪も少し伸びていて、形も歪だ。どうやらあまりそう言った手入れや見た目を気にしないタチらしい。見事に接客及び飲食には向かなそうな人材が来たものだ、と名前を聞く前に男は思った。
「…クロードウィッグ・ケレンリー……」
 これは、本人の気持ちの中でははちゃめちゃに明るく極めて接客向きの笑顔で、更に言うならば初対面の人間からも不信感を抱かれない完璧な受け答えで名前を答えたと思っているところだ。
 しかし実際には仏頂面で極めて面倒臭そうな受け答えであった。
「なるほど、ケレンリーさん。職歴を見る限り警備員のお仕事は以前にもあった様ですね。そちらは日勤のみの様でしたが、警備のお仕事は慣れていらっしゃるのですか?」
「はぁ……慣れてる…と言うか、それしか出来なかったと言うか…」
「接客業は緊張しちゃう方ですかね?分かります。僕もあんまり得意じゃなくて…誰かと見回り業務している方が気が楽と言うか」
「はぁ……」
「なかなか難しいですよねー!要領良くお客様対応するって。あれ、出来る人本当凄いなーって!」
「はぁ……」
「あ、あははは……は……」
 会話が続かない。しかし最低限仕事の話は交わしたり質問をしたり、コミュニケーションは取れている。
 思うにこのクロードウィッグと言う男、他人のプライベートな話に死ぬ程興味が無いようだ。その代わり自分の趣味の話の時は水を得た魚の様に生き生きとよく喋る。つまりはコミュニケーション能力に難有り、と言うか苦手な類の人間の様だ。しかし仕事の話には人並みに応答する。つまりこの仕事をする上では一応支障は無い。
 斯くしてクロードウィッグは深夜の警備員と言う職を得たのだった。
「皆優しいからね!大丈夫ですよ!」
「はぁ……」
 面接官と言う立場の人間にそう言われたところで覇気のない返事しか無い。
 果たして仕事をしたくて彼は面接を受けに来たのか。受かったら受かったでこの有様なのだが。
 クロードウィッグの悪気の無い、テンションの低い応答に一抹の不安を覚えつつ面接官の男は初日の流れを説明する。以外にもクロードウィッグは真面目にすんなり業務を覚えた。
 彼の仕事は、夜から明け方に掛けてビルの警備を行う事。そして、何か問題が発生したら発生した時間と共に何が起きたか書き記す事。何も起きなければ、『異常無し』で締め括れば良い。
「………本当にただ一部が暗いだけでござるなー…」
 この日の教育担当が東側から見に行くと言ったので共に着いて警備する事になったクロードウィッグ。教育担当の男性もあまり多くを語らない方で、クロードウィッグの呟きはただの独り言として闇に溶け、ただただ静寂の中漣の様に脈打つ。
「ま、これで平均時給に上乗せした様な額貰えるなら儲けもんですわ。変な決まり事はあるけど、それさえ守ればですしおすし」
 クロードウィッグはペンを取り出すとさらさらと書き記す。

『3/2担当:ケレンリー
 異常無し』

特に何も無い

「──そのビルっていわゆる『曰く付き』って奴でね…!ちょいちょい変なことが起きてたんだって!!」
 興奮しているのか、話をするシーリアの手入れの行き届いた濃い茶髪が荒々しくもふわりと揺れる。赤スープを口に含みながら聞いていたエーデルとヴィーラは顔を見合わせて苦い顔をした。咄嗟に辺りを見渡すが、今この瞬間昼食時、食堂に怪談話が苦手そうな人間はいなさそうである。
「で、でもそこのビルって皆でよく遊びに出掛けるところじゃない…?」
「そうよそうよ!全然怖くなかったじゃない!変な事言わないでよシーリア!」
「だって昔から地元民の間ではよく噂されてたらしいし実際有名な心霊スポットみたいよ!?カルラティ・ビルって商業施設になる前は処刑場跡地だったって!!」
 力説するシーリアの噂の出所は、ユリアのいつもの自撮り投稿である。カルラティ・ビルの中に入っているお洒落なカフェでの自撮りにコメントした通りすがりの電脳世界民曰く、『カルラティ・ビルは地元でも有名なゴーストハウス』だと言うのだ。
 それを見たシーリアが何となく電子の海で調べると出るわ出るわ恐怖体験が。気の置けない友と出かけるレジャースポットが実は有名な心霊スポットと知りこれは共有せねばと明け方まで読んでしまった電脳世界の事典で得た知識を披露しているわけである。
 するとどこから話を聞いていたのか、ホットドッグを美味しそうに頬張りながらタイガが顔をひょこりと出した。
「でもさー、今特に何も無いんでしょ?」
「あら?タイガ、あんたこう言う話大丈夫なの?」
「うん。オレは・人並みにはね」
 自分『は』を強調した彼の脳裏にオレンジの髪の長身の友人がちらついたかは定かでは無いが、少なくともタイガは人並みには話せる方であった。
「それに、オレも聞いた事あるかも。学生時代何でもオカルトに結び付ける友達がいてさ、その子が言ってたから話半分に聞いてたんだけど噂は本当だったんだねー」
「……ん?ところでタイガ、随分美味しそうなホットドッグね。そんなのメニューにあったかしら…?」
 そう言うエーデルの肩を小突くのはヴィーラだ。ヴィーラは酷く面倒臭そうな顔をしていた。
「あ、これ?これね…賄いメニューを考えてたモナちゃんがお裾分けしてくれたんだよね…ふふ」
 エーデルもシーリアも面倒臭そうな顔になる。可愛い弟分とは思っている、とは言えよく分からん惚気話にその都度付き合う義理はない。
「そ、そう言えばタイガはそう言うの視えたりするの?」
「視えないよ?視えないから今の今までその話過去に聞いた事あったって忘れてたんだよ」
 あ、でも。
 そう言ってキョロキョロするタイガはある一点を指差す。エーデル、ヴィーラ、シーリアの三人は彼の指した人物を見てギョッとした。
「そう言えばケレンリーさん、カルラティ・ビルで働いてたって」
「え!?」
「何ですって!?」
「あんなおしゃれなビルに!?」
 三人の脳裏にちぐはぐなクロードウィッグの像が浮かんでは消えていく。お洒落なお店ひしめく建物の中で、彼は一体どのショップの店員をしていたと言うのか。
「うん、夜間の警備員やってたって」
「あ、何だぁ…」
「警備員かぁ…」
 妙に服だけお洒落なクロードウィッグ像が完全に消えてくれたところで、彼の発言次第ではカルラティ・ビルへの疑惑が確信に変わる事に気付いてしまった三人。客の居ない夜間の見回りなど尚更変なモノを見たりするのでは無いだろうか。下手に疑惑が確信に変わる様な話を聞いてしまったらせっかくのお洒落なお出かけスポットに今後行けなくなるのでは無いか。
 三人が光速で思案していたらあろう事かタイガがクロードウィッグに声を掛けたらしく、相変わらずつまらなそうな表情を携えて彼はこちらへやって来た。こう言う時にタイガの高いコミュニケーション能力は恨めしいばかりである。
 クロードウィッグの低いテンションは苦手と言えば苦手だが、せっかく来てくれたのだからと三人は襟を正し向き直った。
「…いや?そんなん経験した事無いですしおすし……」
 しかし、クロードウィッグの一言でこの話題は儚くも一瞬で終了したのだった。
「……え?深夜の勤務なのに…?」
「何も見ないっすわ」
「無人の暗いビルなのに…?」
「警備員の安全考えて最低限電気点けるだろ常考。変な決まり事はあるけどそれ以外はらくなもんすわムホホ」
「話題にも上がったのに…?」
「いやいや拙者フィクションと現実の区別くらいつきますし」
 ネージュたそすらまだ画面向こうの存在なのにホラーなんてフィクションの極み!!!
 そんなことを急にとんでもない声量で喚き始めるので驚きで心臓が止まるかと思いつつ周りを見回す。案の定声を荒げたクロードウィッグを異質な目で見るメンバーがちらほらいた為エーデルもヴィーラもシーリアも他人のフリがしたくなった。興奮した時の声量が壊れる彼の悪癖はどうにかならないものか。
「でも…経験者が何も視てないって言うなら本当に何も無いのかしらね……」
 シーリアはすっかり半信半疑から疑い七割に傾いたのか、先程の勢いが無くなり静かに紅茶を啜っていた。
「まぁ、良いじゃない何も無い方が!」
「そうよそうよ!あんなお洒落スポットにそんなおっかないモノがいてたまるもんですか!」
 エーデルとヴィーラの力説にシーリアもようやく現実に引き戻された様で、気付けば三人はいつもの様に映えるお店談義に花を咲かせている。クロードウィッグは「やれやれ」と言わんばかりに漫画を読み始めるし、一人ぽつんと取り残されたタイガはホットドッグを口に運んだ。
「……あれ?」
 そう言えばクロードウィッグは随分待遇の良い職場で働いているのだな、とタイガは思う。
 先程の彼の発言で引っ掛かった事があったのだ。そう言った夜間の警備の仕事って、『警備員の安全を考えて最低限電気を点ける』なんて事あるのだろうか。
 それに、彼の言う『変な決まり事』とは一体何の事だろうか。
「あの…ケレンリーさん……」
 タイガの不意の声掛けにケレンリーは答えない。何故なら彼の愛読書の一つである『コーヒー・カンタータ』を読むのに夢中になっているからだ。
 まぁ、無視された気持ちにはなってしまったがうるさくされるよりはマシか。そう思い、タイガはホットドッグの最後の一口を味わう様に口に放り込んだのだった。

カルラティ・ビル、三月の記録


『3/2担当:ケレンリー
 異常無し』
『3/3担当:ケレンリー
 異常無し』
『3/4担当:ケレンリー
 異常無し』

『3/5担当:カルティア
 23時56分発報。原因不明』
『3/6担当:エルネア
 24時頃発報。24時37分頃発報。25時53分頃発報。原因不明、故障?』

『3/7担当:ケレンリー
 異常なし』

『3/8担当:バーンズ
 24時48分、北棟女子トイレからノックの様な音。原因不明
 27時頃、発報。原因不明』

『3/9担当:ケレンリー
 異常なし』

『3/10担当:エルネア
 24時30分頃、北棟にて女が施設内を歩き回る。警報装置反応なし。
 話を聞こうとするものの、一定の距離を空けて逃げられてしまう。
 不審者として軍警に連絡済み。』
『3/11担当:エルネア
 23時40分頃発報。原因不明。
 27時20分頃、急に電子機器の電源が入らなくなる。』
『3/12担当:バーンズ
 23時13分、北棟廊下にて破裂音。原因不明』

『3/13担当:ケレンリー
 異常なし』

『3/14担当:エルネア
 24時25分頃、北棟3階廊下にて人影。警報装置反応無し。
 28時頃、事務所にて背中を小突かれる。』
『3/15担当:カルティア
 23時47分、東棟男子トイレから男の呼び声、侵入者無し
 25時28分、北棟3階廊下が水浸しになっている。原因不明
 朝6時、引き継ぎに見知らぬ男。数秒目を話すと消えていた。怖い』

『3/16担当:ケレンリー
 異常なし』
『3/17担当:ケレンリー
 異常無し』
『3/18担当:ケレンリー
 異常無し』

『3/19担当:エルネア
 23時35分頃、北棟3階にて女の死体を発見。軍警に連絡しようとするが、事務所の電話が繋がらない。
 24時15分頃、死体が二つに増える。携帯端末が繋がらない。
 24時20分頃、死体が消える。その後軍警には連絡済み。』
『3/20担当:カルティア
 22時43分、発報
 22時52分、発報
 23時9分、発報
 23時20分、発報
 全て原因不明。
 23時47分、東棟男子トイレ見回り中扉が開かなくなる。外に置いてあったものが倒れたのか?閉じ込められた様に開かない。
 24時5分、依然として扉は開かない。個室も見回るが、誰かの居る気配はなし。
 24時15分、依然として扉は開かない。トイレのドアの磨りガラスの向こうに男。こちらの様子を見る様に動かす目。
 25時20分、依然として扉は開かない。男もそのままだが、覗き見る人影に女の様な影も加わった。
 26時5分、目が』
『3/21担当:バーンズ
 22時35分、北棟廊下にて破裂音。原因不明
 23時10分、事務所の時計が止まっていた
 23時11分、時計が動かない
 23時12分、携帯端末も通じない。時計が動かないし時間が進んでいる感覚がない
 23時13分、携帯端末の時計も止まっていた。電波障害?
 23時14分、おかしい。もう一時間はこうしているはずだ。時計は動かない。原因不明
 23時15分、事務所に訪問者有り。男、女一名ずつ。東棟に目を置いて来たと意味不明な供述。時間が進まない。耐え難い
 朝5時、』
『3/22担当:エルネア
 23時頃、北棟3階にて女を発見、警報装置反応なし。軍警に連絡するものの、繋がらない。
 24時頃、北棟にて再度女を発見する。目がない。
 25時30分頃、事務所にて目の無い自分が椅子に座って居た。もうここで仕事は出来ない。』

『3/23担当:ケレンリー
 異常なし』
『3/24担当:ケレンリー
 異常なし』
『3/25担当:ケレンリー
 異常なし』

『3/26担当:マーティン
 北棟3階に目の無い女。警備員の服を着た目の無い男。
 東棟男子トイレにも警備員の服を着た不審者。
 水浸しの廊下、進まない時計。
 どうなっているんだ』

『3/27担当:ケレンリー
 異常なし』
『3/28担当:ケレンリー
 異常なし』
『3/29担当:ケレンリー
 異常なし』
『3/30担当:ケレンリー
 異常なし。人増やしてくれ。連日は辛い』

 以上が警備員の三月中の記録のである。
 尚、この警備の仕事をするにあたり職員は次の規約を遵守する事。

『自分が書き込むページ以外、前日までの記録は一切見ない事』

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