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g_a3b2c3o12 2024年06月30日(日) 22:04:39履歴
カンテの夏は短い。
それでも、このラサム歴2173年の夏は誰にも忘れられない夏となったことだろう。7月17日の「ミクリカの惨劇」、翌18日の「ケンズの悲劇」を皮切りに始まった機械人形達の暴走は今も終息は見えず、言うなれば「大災害 の夏」になってしまった故に。
「お姉ちゃん……」
医療班の窓から見える空の色は自身の持つ目の色と同じで。
それはミア・フローレスにとっては、いなくなってしまった“ お姉ちゃん ”とお揃いの目の色でもあった。フローレス家で機械人形を買おうということになった時に「ミアのお姉ちゃんだから同じ目の色が良い!」と言い張って選んだミア拘りの目の色。
ミアのパパとママは汚染されて暴走した機械人形に襲われて死んでしまった。だからミアに残された家族は「いなくなってしまった機械人形の“ お姉ちゃん ”」だけだ。
必ず見つけるからね、お姉ちゃん。
ミアはその為にマルフィ結社に来たのだから、何としても家族を見つけるのだ。
空に向かって決意を新たにしたミアはやりかけていた仕事に戻る。
今の仕事は医療班のベッドメイキングだ。
結社結成の序盤も序盤の人が集まりきっていない時にマルフィ結社にやってきたから、ミアは医師免許もなければ医療の心得もないけれど医療班に在籍させてもらっていた。最近、少しづつ人が増えてきて色んな部署が発足したこともあって他の部署に移らないかと人事部には言われているけれど、断り続けて医療班に残っている。
大した仕事は出来ていないが、それでも雑用でも何でもミア程度にもやれることはまだあると考えているからだ。
使うことがないのが一番だが医療班のベッドを使うことがあった時、使った人が気持ち良くベッドを使えるように。頭側のシーツを三角折りにしてシーツをずれにくくするという技は先日、機械人形のフユに教わった技術だ。機械人形の正確さには当然かなわないけれども、それでも丁寧に素早く進めていく。
「ベッドメイキングで、まず配慮しなければならないのは“安全”、“安楽”、“自立”です。患者さんの為に手を抜いてはダメですよ」
「はい、フユ先生!」
ベッドメイキングをフユに教えてもらった時の事を脳内で反芻しながらミアは黙々と作業を続けていた。世の中には機械人形に教わることに嫌悪感を抱く人間も少なからずいるが、ミアが産まれた時には医療・介護用の機械人形は世の中に出回り始めていて機械人形がある生活が当たり前の世代であるため、ミアは何も気にせずフユを先生として師事していた。尤もこれはミアのお気楽な性格もあるのであるが。
いそいそとベッドメイキングの仕事に励んでいると医療班の診察をするエリアの方が何やら騒がしいことに気付く。医療班のメンバーは比較的物静かな人間が多い為、日常の会話が盛り上がって騒がしい事はない。それに、聞こえてくる声が和やかなものではなく切羽詰まったような強めのものであることに気付いてミアは眉を顰める。
誰か怪我をしたのかな。
今日、本部から出動した前線駆除班のメンバーは誰だったろうか。
ミアは朝のミーティングで聞いたメンバーを思い出して、やがて一人の人物に目星をつける。絶対に彼 だ。間違いない。
彼に対しては“ ミアにしか出来ない大事な仕事 ”が回ってくることをミアは理解していた。
それまでに今の仕事を終わらせておかないと。
雑にならないように気を遣いながらミアが最後のベッドメイキングを終えた頃、こちらへと近付いてくる規則的な足音を耳が拾う。くるりと振り向けば、そこにいたのは機械人形のフユだ。
「フユちゃん」
「お仕事ですよ」
フユの言葉にミアの頬が思わず緩んだ。
「仕事」と聞いて喜ぶ人間は居ない筈なのに彼女の反応は何なのか。
機械人形らしく人間の機微に疎いフユは小首を傾げて薄黄緑色の目をミアへと向ける。
「仕事は喜ぶことですか?」
「私にも出来ることがあるっていうのは嬉しいことだよ。フユちゃん、早く行こ!」
本当はそんな仕事があることは喜んではいけないことなのだけれども、それでも自分にも出来ることがあるというのは嬉しいことでミアは足取り軽く仕事現場――フユの主人であり、フユにミアを呼びに来させたであろうアキヒロ・ロッシの元へと向かう。
アキヒロの前にはミアの予想通りの赤毛の青年が座っていて、タイミング良く丁度処置が終わったところのようだった。アキヒロが手際良く処置に使っていた道具を片付けるのを目の端に捉えつつ、ミアは赤毛の青年へと声をかける。
「サオトメさん! こんにちは!」
ミアが声をかけたのはロナ・サオトメだった。
前線駆除班の小隊の一つを任されている青年は、今日も戦闘で何かしらの怪我をしてきたらしい。そんな彼の処置が終わっているとはいえ痛々しい姿を見たミアはぎゅっと眉根を寄せてロナを見つめる。
「また怪我したんですね。今日はどうしたんですか?」
ミアの問いかけにロナは曖昧に困った笑みを浮かべた。
代わりに口を開いたのはアキヒロだ。
「逃げ遅れた子供を庇って、だそうですよ。幸い深い傷はありませんでしたが」
「これが最善の方法だったんだ」
アキヒロの言葉に迷いなく言葉を付け足したロナに、ミアの眉間のシワは減るどころか増える。このロナ・サオトメというお兄さんはミアが知る限りいつもこうだ。誰かを守るためだから、誰かを救うためだからと誰かのために無茶をする。
「だからってサオトメさんが怪我をして良い訳はないんです! もっと自分を大事にしてください!」
それを諌める役がミアの仕事だった。
医療に従事する者ではない、かといって戦闘のエキスパートでもない単なる一般人の普通の女の子だからこそのストレートな言葉は、意外なことに真面目な性格のロナには効果があるらしい。
「サオトメさんに……サオトメさんに何かあったら、家族が悲しみますよ?」
ロナには両親はいないが姉と妹がいるとミアは日頃の会話から知っていた。そして、ロナも日頃の会話でミアに家族がいないことを知っていた。
「すまない」
だからロナは人を救ってきたにも関わらず謝罪の言葉を口にする。
「分かってくれればいいんです。サオトメさんに何かあったら結社の皆だって悲しみますから! 皆のために頑張ってくれているのは分かりますけど、それでも無茶はしないでください」
ミアの言葉にロナは再び「すまない」と口にした後、静かに頷く。
「僕達医療班は仕事が無いのが良いことですからねぇ。僕を早く本職だけの仕事にしていただきたいものです」
わざと傍観者に徹していたアキヒロがのほほんと笑った。
彼は運動器を専門に治療する整形外科医だ。しかしながら本人曰くケンズで町医者をしていた時には内科・小児科をメインとしていたようであるから、今言っている“本職”がどちらを指しているのかミアには皆目見当もつかないのである。尤も整形外科医であっても小児科医であっても、今アキヒロが行っているような治療とはかけ離れたものであるのであるが。
「早く……日常が戻れば良いな」
「そうですね! 私も早く戻ると良いなって思います!」
ロナの言葉に頷いてミアも彼の言葉に同調する。
そんなにこやかに笑い合うロナとミアは傍目に見れば、何やら“良い感じ”に見えなくもない。
「あれでオキシトシンもノルエピネフリンもアドレナリンもレベルの上昇が認められないのは不思議です」
恋愛において上昇するとされるホルモンを羅列するフユの言葉にアキヒロは頷く。
「彼女のフェニルエチルアミンは別の人に出てますからねぇ」
アキヒロの呟きと同時に医療班の出入口の扉が開いた。
扉の開いた音に反応した者達の視線を受けながらも、その視線に興味が無いのだろう扉を開けた灰色髪の男は表情を変えることも無く静かに部屋へと入ってくる。
その静かな男に対して反応が顕著だったのはミアだけだった。
「あ、ネビロスさん! おつかれさまです!」
頬を紅潮させて――アドレナリンの分泌の兆候だ――ミアはネビロスへと声をかけた。名前を呼ばれたことでネビロスは髪と同じような色彩 の何の感情も籠っていない目をミアへと向けるが他に何の行動を見せることなく、直ぐに視線を逸らすと倉庫の奥へと消えていく。
それはコミュニケーションというにはあまりにも短く冷たいもので、俗にいう塩対応というやつだ。ネビロスの対応に驚きを隠せないロナは、そんな対応をされた歳若いミアがどれ程ショックを受けているだろうと考え、彼女を気遣おうとミアの顔を見て、再び驚いた。
「ネビロスさんが……私を……見てくれた……」
ミアはショックを受けるどころか恍惚の表情を浮かべてネビロスの消えた先を見ていたのだった。驚くロナの表情には気付かず、ミアは弾んだ声を上げる。
「ねえ、フユちゃん! 見てた!?」
「先日よりも0.87秒視線を向けている時間が長かったですね」
人間においては誤差でしかない時間をフユがにこやかに答えるとミアは大変満足そうに蕩けそうな顔で笑った。両手で頬を抑えているが、その手がなければ頬が床に落ちそうな勢いで蕩けている。
「こんな世界になっても、人は何らかの幸福を見つけて楽しんで生きようと出来るんだって彼女を見ていると思いますよねぇ」
にこやかな笑みで、その瞳に僅かな羨望の光を湛えてアキヒロが呟く。
マルフィ結社には大切な人を亡くしたという者は多く、アキヒロもそうなのかもしれないとロナはその表情から読み取って同調するように頷いた。
ロナも大切なモノを失っており、その気持ちは分かる。
――ミオリ。
己の手で壊した彼女の最期を思い出すと、ロナの胸は痛む。
それでも心の痛みに蓋をしてロナは、誰かを喪う辛さをする人が減るように剣を振るい続けるだろう。
ただ、もう少し己の身体を気遣うようにしないとな。
医療班の仕事を減らすように、否、仲間達に心配をかけないように。
この後、我が身を一切顧みないロナの戦法は息を潜め、彼の怪我は少しだけ減ることになるのだがそれはまた後の話なのであった。
それでも、このラサム歴2173年の夏は誰にも忘れられない夏となったことだろう。7月17日の「ミクリカの惨劇」、翌18日の「ケンズの悲劇」を皮切りに始まった機械人形達の暴走は今も終息は見えず、言うなれば「
「お姉ちゃん……」
医療班の窓から見える空の色は自身の持つ目の色と同じで。
それはミア・フローレスにとっては、いなくなってしまった“ お姉ちゃん ”とお揃いの目の色でもあった。フローレス家で機械人形を買おうということになった時に「ミアのお姉ちゃんだから同じ目の色が良い!」と言い張って選んだミア拘りの目の色。
ミアのパパとママは汚染されて暴走した機械人形に襲われて死んでしまった。だからミアに残された家族は「いなくなってしまった機械人形の“ お姉ちゃん ”」だけだ。
必ず見つけるからね、お姉ちゃん。
ミアはその為にマルフィ結社に来たのだから、何としても家族を見つけるのだ。
空に向かって決意を新たにしたミアはやりかけていた仕事に戻る。
今の仕事は医療班のベッドメイキングだ。
結社結成の序盤も序盤の人が集まりきっていない時にマルフィ結社にやってきたから、ミアは医師免許もなければ医療の心得もないけれど医療班に在籍させてもらっていた。最近、少しづつ人が増えてきて色んな部署が発足したこともあって他の部署に移らないかと人事部には言われているけれど、断り続けて医療班に残っている。
大した仕事は出来ていないが、それでも雑用でも何でもミア程度にもやれることはまだあると考えているからだ。
使うことがないのが一番だが医療班のベッドを使うことがあった時、使った人が気持ち良くベッドを使えるように。頭側のシーツを三角折りにしてシーツをずれにくくするという技は先日、機械人形のフユに教わった技術だ。機械人形の正確さには当然かなわないけれども、それでも丁寧に素早く進めていく。
「ベッドメイキングで、まず配慮しなければならないのは“安全”、“安楽”、“自立”です。患者さんの為に手を抜いてはダメですよ」
「はい、フユ先生!」
ベッドメイキングをフユに教えてもらった時の事を脳内で反芻しながらミアは黙々と作業を続けていた。世の中には機械人形に教わることに嫌悪感を抱く人間も少なからずいるが、ミアが産まれた時には医療・介護用の機械人形は世の中に出回り始めていて機械人形がある生活が当たり前の世代であるため、ミアは何も気にせずフユを先生として師事していた。尤もこれはミアのお気楽な性格もあるのであるが。
いそいそとベッドメイキングの仕事に励んでいると医療班の診察をするエリアの方が何やら騒がしいことに気付く。医療班のメンバーは比較的物静かな人間が多い為、日常の会話が盛り上がって騒がしい事はない。それに、聞こえてくる声が和やかなものではなく切羽詰まったような強めのものであることに気付いてミアは眉を顰める。
誰か怪我をしたのかな。
今日、本部から出動した前線駆除班のメンバーは誰だったろうか。
ミアは朝のミーティングで聞いたメンバーを思い出して、やがて一人の人物に目星をつける。絶対に
彼に対しては“ ミアにしか出来ない大事な仕事 ”が回ってくることをミアは理解していた。
それまでに今の仕事を終わらせておかないと。
雑にならないように気を遣いながらミアが最後のベッドメイキングを終えた頃、こちらへと近付いてくる規則的な足音を耳が拾う。くるりと振り向けば、そこにいたのは機械人形のフユだ。
「フユちゃん」
「お仕事ですよ」
フユの言葉にミアの頬が思わず緩んだ。
「仕事」と聞いて喜ぶ人間は居ない筈なのに彼女の反応は何なのか。
機械人形らしく人間の機微に疎いフユは小首を傾げて薄黄緑色の目をミアへと向ける。
「仕事は喜ぶことですか?」
「私にも出来ることがあるっていうのは嬉しいことだよ。フユちゃん、早く行こ!」
本当はそんな仕事があることは喜んではいけないことなのだけれども、それでも自分にも出来ることがあるというのは嬉しいことでミアは足取り軽く仕事現場――フユの主人であり、フユにミアを呼びに来させたであろうアキヒロ・ロッシの元へと向かう。
アキヒロの前にはミアの予想通りの赤毛の青年が座っていて、タイミング良く丁度処置が終わったところのようだった。アキヒロが手際良く処置に使っていた道具を片付けるのを目の端に捉えつつ、ミアは赤毛の青年へと声をかける。
「サオトメさん! こんにちは!」
ミアが声をかけたのはロナ・サオトメだった。
前線駆除班の小隊の一つを任されている青年は、今日も戦闘で何かしらの怪我をしてきたらしい。そんな彼の処置が終わっているとはいえ痛々しい姿を見たミアはぎゅっと眉根を寄せてロナを見つめる。
「また怪我したんですね。今日はどうしたんですか?」
ミアの問いかけにロナは曖昧に困った笑みを浮かべた。
代わりに口を開いたのはアキヒロだ。
「逃げ遅れた子供を庇って、だそうですよ。幸い深い傷はありませんでしたが」
「これが最善の方法だったんだ」
アキヒロの言葉に迷いなく言葉を付け足したロナに、ミアの眉間のシワは減るどころか増える。このロナ・サオトメというお兄さんはミアが知る限りいつもこうだ。誰かを守るためだから、誰かを救うためだからと誰かのために無茶をする。
「だからってサオトメさんが怪我をして良い訳はないんです! もっと自分を大事にしてください!」
それを諌める役がミアの仕事だった。
医療に従事する者ではない、かといって戦闘のエキスパートでもない単なる一般人の普通の女の子だからこそのストレートな言葉は、意外なことに真面目な性格のロナには効果があるらしい。
「サオトメさんに……サオトメさんに何かあったら、家族が悲しみますよ?」
ロナには両親はいないが姉と妹がいるとミアは日頃の会話から知っていた。そして、ロナも日頃の会話でミアに家族がいないことを知っていた。
「すまない」
だからロナは人を救ってきたにも関わらず謝罪の言葉を口にする。
「分かってくれればいいんです。サオトメさんに何かあったら結社の皆だって悲しみますから! 皆のために頑張ってくれているのは分かりますけど、それでも無茶はしないでください」
ミアの言葉にロナは再び「すまない」と口にした後、静かに頷く。
「僕達医療班は仕事が無いのが良いことですからねぇ。僕を早く本職だけの仕事にしていただきたいものです」
わざと傍観者に徹していたアキヒロがのほほんと笑った。
彼は運動器を専門に治療する整形外科医だ。しかしながら本人曰くケンズで町医者をしていた時には内科・小児科をメインとしていたようであるから、今言っている“本職”がどちらを指しているのかミアには皆目見当もつかないのである。尤も整形外科医であっても小児科医であっても、今アキヒロが行っているような治療とはかけ離れたものであるのであるが。
「早く……日常が戻れば良いな」
「そうですね! 私も早く戻ると良いなって思います!」
ロナの言葉に頷いてミアも彼の言葉に同調する。
そんなにこやかに笑い合うロナとミアは傍目に見れば、何やら“良い感じ”に見えなくもない。
「あれでオキシトシンもノルエピネフリンもアドレナリンもレベルの上昇が認められないのは不思議です」
恋愛において上昇するとされるホルモンを羅列するフユの言葉にアキヒロは頷く。
「彼女のフェニルエチルアミンは別の人に出てますからねぇ」
アキヒロの呟きと同時に医療班の出入口の扉が開いた。
扉の開いた音に反応した者達の視線を受けながらも、その視線に興味が無いのだろう扉を開けた灰色髪の男は表情を変えることも無く静かに部屋へと入ってくる。
その静かな男に対して反応が顕著だったのはミアだけだった。
「あ、ネビロスさん! おつかれさまです!」
頬を紅潮させて――アドレナリンの分泌の兆候だ――ミアはネビロスへと声をかけた。名前を呼ばれたことでネビロスは髪と同じような
それはコミュニケーションというにはあまりにも短く冷たいもので、俗にいう塩対応というやつだ。ネビロスの対応に驚きを隠せないロナは、そんな対応をされた歳若いミアがどれ程ショックを受けているだろうと考え、彼女を気遣おうとミアの顔を見て、再び驚いた。
「ネビロスさんが……私を……見てくれた……」
ミアはショックを受けるどころか恍惚の表情を浮かべてネビロスの消えた先を見ていたのだった。驚くロナの表情には気付かず、ミアは弾んだ声を上げる。
「ねえ、フユちゃん! 見てた!?」
「先日よりも0.87秒視線を向けている時間が長かったですね」
人間においては誤差でしかない時間をフユがにこやかに答えるとミアは大変満足そうに蕩けそうな顔で笑った。両手で頬を抑えているが、その手がなければ頬が床に落ちそうな勢いで蕩けている。
「こんな世界になっても、人は何らかの幸福を見つけて楽しんで生きようと出来るんだって彼女を見ていると思いますよねぇ」
にこやかな笑みで、その瞳に僅かな羨望の光を湛えてアキヒロが呟く。
マルフィ結社には大切な人を亡くしたという者は多く、アキヒロもそうなのかもしれないとロナはその表情から読み取って同調するように頷いた。
ロナも大切なモノを失っており、その気持ちは分かる。
――ミオリ。
己の手で壊した彼女の最期を思い出すと、ロナの胸は痛む。
それでも心の痛みに蓋をしてロナは、誰かを喪う辛さをする人が減るように剣を振るい続けるだろう。
ただ、もう少し己の身体を気遣うようにしないとな。
医療班の仕事を減らすように、否、仲間達に心配をかけないように。
この後、我が身を一切顧みないロナの戦法は息を潜め、彼の怪我は少しだけ減ることになるのだがそれはまた後の話なのであった。
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