Twitter創作企画「薄明のカンテ」のまとめ。世界観の説明に始まり、小説・イラスト・漫画・音楽その他、創作企画で生まれた作品を掲載する場所。

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アキヒロとヴォイド

「あぁーーー!!そこ!そこよ!そこ気持ち良いわーー!!」
「ちょうど凝ってるところですねぇ。いつもお仕事お疲れ様です」
「こちらこそよ!先生が居ないと私まともに仕事出来ないもの!!」
 ぎゅっ、ぎゅっと親指で押し込むとさながら硬い鉄板が一枚埋め込まれて居そうな反発がある。アキヒロは指の感覚を頼りに集中的にそこを押すと頭の中にレントゲンの様な想像を巡らせた。
 ザラ・カルラティ。年齢的なものもあるのか腰や背骨に少々歪みが見える。それが筋肉を引っ張って更なる緊張を作っている。
 両膝も外側に湾曲しており大腿骨内果部が接しない状態、いわゆる内反膝を引き起こしておりそれによる足のむくみが目立つ。
 多少運動不足の気があるが概ね健康。将来的に腰や膝の為にも体重をもう少し落とした方が良さそうだが、当分はリハビリによる筋肉の柔軟さの回復で充分だ。
「あーー!気持ち良かったわ!!見て先生!腕がこんなに後ろまで動く!!」
 ガハハハと豪快に笑いぐるんぐるんと腕を回すザラにアキヒロはにっこり微笑む。ザラを見送っていると彼の背後にスッと現れたヴォイドがベッドの消毒作業をして居た。
 別に患者を病原菌扱いしているわけではないのだが、顔を突っ伏してうつ伏せに寝る体勢になってもらうので衛生面を考えて都度拭いている。有孔で使い捨てのカバーも掛けているとは言え、女性は化粧をしている事が多いので白粉が次の人に付かない様に、そして暑い日は汗をかく人も多いから次の人にその影響が行かないように。手間は掛かるが、都度簡単な拭き掃除をする作業を入れ込んだ方が良いのだ。
 消毒作業をするヴォイドをチラチラと見るアキヒロ。彼はヴォイドの身体に──正確には身体の中身に釘付けになった。
(やっぱり、綺麗な骨格をしているんですよねぇ)
 以前食堂の定食チケットと引き換えに撮らせて貰ったレントゲン写真を思い出し少しだけ頬を緩ませる。状況を把握したスレイマンに『職権濫用じゃないですか』と呆れにも似た引き方をされたが、好きなものは好きだから仕方がないのだ。
 全体的に整っていて骨密度も申し分ない。生活を営む上でどうしても利き腕の関係や姿勢の関係で歪みが生じる事が多いが、それもあまり目立たず少しの施術でバランスの整いそうな彼女の身体。極端な骨のすり減りも見られず、上腕骨内側上顆は好みのシルエットだ。骨盤は、こんな事を言うとセクハラだと糾弾されてしまいそうだが、下心は無いと明言した上で言わせてもらうといわゆる安産型の良い形をしている。大腿骨頭も綺麗な丸い形をしていて……と、この様にとにかくアキヒロのお気に召すポイントを挙げるとキリがないのがヴォイドの骨なのだ。
「……何…」
「いいえ、別に。あ、でもジロジロ見てしまって失礼しました」
「良いけど……」
 そう言いながら自らもアキヒロをじっと見つめるヴォイド。彼もその視線に気付きにこりと微笑み返すと、フッと微笑んだヴォイドからの予想外の言葉にアキヒロは思わず噴いてしまった。
「…もう一枚撮っても良いけど……次も食券束で手を打つよ」
「ぷふっ……!」
 まさかヴォイドの口からレントゲンの再撮影の許可が降りるとは。とは言え、骨はそんなに頻繁に変わる様な組織で出来ていないし、先の事件でもヴォイドは衰弱こそしていたが骨に異常は無く骨折等見られなかった。
 つまりアキヒロからしたら今は別に食券を使ってまで彼女に撮らせて貰う理由は無かった。無かったのだが、何だか別の理由でヴォイドに食事を奢りたくなった。
「……何だ。残念…また食券貰えると思ったのに」
「ふふふ…いえいえ、そう言う貸し借り無しに何だかヴォイドさんにご馳走したくなりましたよぉ」
「え?何で?」
「何だか珍しいものを見せて貰えた気がして、と言うのが理由ですかねぇ」
 ヴォイドは掴みどころの無い女性だと思っていた。プライベートで交流は殆ど無いし、アキヒロの見ている限り彼女を取り巻く面々もなかなかに個性的過ぎたから接点があまりにも無かった。人事部のロード、汚染駆除班のテオフィルス、前線駆除班のユウヤミ、事件以降汚染駆除班のミサキや総務部のフィオナともそれなりに話す様だし、給食部のヒギリも彼女と親しい。
 彼女を介し情熱の強い人間と接するのが怖いと思ったところも正直ある。大きな感情を思いのまま相手に向けられる真っ直ぐな人を見るとカレンを思い出して泣きたくなるからだ。今やどんなに願っても二度と会う事の叶わない彼女に重なってしまって。
 けれど、愛の日に『悲しみを否定しない』と言うカレンの言葉を思い出して少し考えが変わったのか以前よりも心に余裕の持てたアキヒロはいつもより丁寧にヴォイドを見てみた。
 岸壁街出身だからと言う理由で多少敬遠していた部分もある。だが、彼女もここに来てそろそろ一年。地上の生活に馴染んで一年。自分達『地上の人間』が求める当たり前のモラルや価値観にきっと彼女は頑張って近付こうとしてくれた。だから最近は咄嗟の時に彼女の腕を信頼している事にも気付いていた。
 もしかしたら、せっかく縁あって出会えた彼女ともう少しだけ距離を縮められるかもしれない。
 余裕を持って見てみれば、彼女の仕草や言葉には妙な魅力がある事に気付く。それは不思議な波長を持った魅力と言うのか、合う人にはとことん合うと評するのが正しいのか。
 何にせよ今日一つ収穫があったとすれば、『ロードやユウヤミやテオフィルスが何故彼女を好意的に見ているのか何となく理解した』と言うところだろうか。
「何だか……僕もヴォイドさんともっと仲良くなりたいと思いました」
「へ?」
「僕も、もっと貴女を知りたいと思いました」
 カレンの事も吹っ切れたわけでは無いしまだ彼女を忘れられる事は無い。故に下心は毛頭無い。だからどちらかと言うと純然たる好奇心。
 ヴォイド・ホロウと言う人は一体どんな人間なのか。自分がこの一年、見ようとしてこなかった部分を好奇心から見てみたいと思った。それだけだ。
「……珍しいね。アキヒロがそんな事言うの」
「うーん…流石に一年同じ職場に一緒に居ますからねぇ。いつもと同じメンツでと言うのも良いですけど、今までちょっと踏み込んだ話をして来なかった方ともう少し距離を縮めても良いんじゃ無いかな?って思っただけですよぉ。やっぱり、同じ職場で共に戦う仲間ですから」
「ふーん……」
「あ、下心は無いので安心してください」
「…え?そう?私の骨、気になってるんじゃ無いの?」
「……確かに…それはありますねぇ…」
「……それってなんだか、下心?」
 そう言われたアキヒロの頭にいつぞやのレントゲン写真が蘇る。もしもカレンが生きていたら、あんなにも熱心に見ていたら浮気を疑われるのでは無いかと思う程に見入ってしまった写真。その骨の持ち主に図らずも妖艶な誘惑をされている様な気分になり、『あぁ、多分そう言うところなんだよなぁ』と改めてヴォイドの妙な魅力に納得した。
 彼女は思わせぶりと言うか、そんな風に言葉を選んでいる気がする。計算でやっているでも無く、おそらくは無意識のうちに。だからこそ、計算で無いからこそ余計に多くの男性が彼女に惹かれるのだろうなと、結社が発足して割とすぐに彼女の周りでそう言ったトラブルが多かった事の辻褄がようやく合った気がしたのだった。給食部の女性が『岸壁街出の医者の女に男を取られた』と文句を言っていたところを見た事があったが、あれはおそらくヴォイドだったのだろう。
 段々と彼女の本質が理解されそのトラブルも形を潜めたが、それでも未だに彼女に羨望の眼差しを向ける人間も嫉妬の眼差しを向ける人間も大勢居る。
「ははは、確かに骨に対しては下心あるかもですねぇ。でも僕は骨に対してしか興味ありませんので」
「正直。アキヒロの骨愛、凄いよね」
「え?そうですかぁ?」
「うん、かなり熱狂的な骨マニア。機械人形の事話してるフィーみたい」
 客観視出来ずにいたのだが、他人からすれば自分もそこそこ熱心な部類の人間らしい。
 まだカレンの事は吹っ切れてはいない。忘れられもしない。だけど今まで敬遠していた『何か好きなものに熱をあげているタイプの人』と、もしかしたら話して分かり合える部分が自分にもあるのかもとそう思った。
「一年経って少しだけ余裕が出来て、もしかしたらこの歳になってもっと友達が増えるかもしれませんねぇ」
「良いことなんじゃない?」
「ですねぇ。僕はカヤの保護者ですし、あの子の手本でいる為にも友達作りは大事かもしれません」
 あの子の為にも、狭い世界で留まらず広い目線を持たねば。
 前向きに考えるアキヒロの傍らでヴォイドは取らぬ狸の皮算用と言うのか、次に束で食券を貰った時に何を食べるかで頭がいっぱいだった。

ルーウィンとギャリー

「……あぁ」
「どうもっす」
 その日経理部に現れたのは、着物を着た大和撫子ではなく夕陽色の髪をした背の高い青年だった為、ギャリーは自分より目線一つ上の彼をあからさまに恨めしそうに見つめていた。
「いつもセリカさんが書類提出してんすけど、何か最近『ルー君もそろそろ書類に触れておきませんとねぇ』って、めちゃくちゃ言ってくるんすよ。そう言うわけで俺、右も左もわかんねーんで優しく教えてくださいっす」
 何故か『横柄な低姿勢』と言う言葉がしっくり来る彼に気持ちを切り替えにこりと笑う。よくよく考えれば、今までずっとセリカが来てくれていたので彼女とは随分親しくなったが他メンバーには今まであまり興味も持てず、同じ結社所属なのによく知らないのは少しやばいか?と危機感を覚えたが為である。
「あー……それじゃあ、まずはとりあえず向こうの席に移動してもらって……」
 どこか喋り方がぎこちなくなるのは、久しぶりに距離感を覚える相手と接するからだろうか。地元訛りの強いギャリーはそれを隠そうとする時、イントネーションに気を遣おうとして口数少なになる事を思い出した。セリカやバーティゴ等、最近は慣れ親しんで会話の出来る人としか言葉を交わしていなかったんだなと、彼女達と親しくなれた事に有り難みを感じつつ、そんな彼女達が親しくしている彼とも少し距離を縮められたら良いなと薄ぼんやり思う。
 一方夕陽色の髪をした青年ことルーウィンは、直前まで聞いていたギャリーの印象と今目の前に居る彼の感じとが一致せず人知れず困っていた。セリカに聞いた話では気さくで明るくて優しいお兄さんと言う感じだったのに、どちらかと言うと何かに怯える様な、警戒している様な雰囲気だ。
 そう。気さくで明るく優しく、そして誰彼構わず包子パオズをくれるお兄さんだと聞いていたのに。
『んー……いつも通りセリカがやっても良いんですがぁ……たまにはルー君、セリカの代わりに書類提出やってみませんかぁ?』
 今日も当たり前の様にセリカが経理部に行ってくれるものだと思っていたルーウィンは、そんな言葉で経理部行きが決まった。最初は何とかセリカに行ってもらおうと思ったのだが、今までどんなに疲れていたって当たり前の様に行ってくれていたセリカの事を考えると断れないし、そもそも第三小隊でそう言った雑務を卒なくこなせるのがセリカしか居ないと言うのもまた情けない話だと思ったので経理部行きを了承した。ゼンも居るには居るのだが、彼はあまりにも経理部に文句を言い過ぎてギルバートから大々的に出禁を食らったと言う事だ。
『えぇ……俺そう言う細い作業苦手……!』
『あらぁ?ルー君、これも経験ですよぅ?』
『経験……』
『社会勉強ですよぅ、社会勉強』
 将来何になるのかなんて考えては居ないが、何をやるにしても経験は多いに越したことはない。そう押し切られたルーウィンだが、セリカからギャリーの話はよく聞いていたのでこの際彼がどんな人間かついでに見に行くのも有りかと思った。
 果たしてしっかりと顔を合わせたギャリーはセリカの話してくれた人間とは違った。
 何かを考えているのか小難しそうな表情に、聞いていたお喋りさと違い言葉を選んだ様に一言二言喋る。
「──それで、ここまで記入したら一旦こっちに提出してもらって…そしたら一緒に確認を…ん?何?」
 ギャリーに見入っていたからか、話を聞いていなさそうなルーウィン。そんな彼を、見られていた本人であるギャリーは怪訝そうな顔で見つめた。
「何でもねーっす」
「いや、めっちゃ見つめてたじゃん。ちゃんと聞いてた?」
「聞いてました」
「そう?じゃあ今言った流れでやってみようか」
「すんません、やっぱ何も聞いてなかったっす」
「だろうぜ。そんな気がしたもん」
 けけけ、と言う感じに悪戯っぽく笑うギャリーにセリカの言う『気さくさ』が見えたところでルーウィンはふと思う。
 そう、『セリカさんはどうしてこんなにもこの人を好意的に見ているのか』と。
 それは勿論、憎からず思っているからに他ならないのだが色恋に疎いルーウィンは今ひとつそこまで察する事が出来ず、しかし彼の人柄を知ろうと考えた結果二つの仮説に行き着いた。
 それは、『実はセリカも始めは全く事務作業が分からず、その時にギャリーに懇切丁寧に教えてもらったので兄貴の様に慕っている』と言うものと、『やたらと美味い包子をくれるからその味に惚れている』と言う二つの仮説だ。
 当たっている様な、若干惜しい様な、でも矢張り遠い様なそんな仮説だった。
 勿論、どちらも惜しいところを掠めてはいる。結社に来るまで家で主婦をやっていたセリカは仕事に関する経験が浅く、バーティゴに頼まれて初めて経理部に来た際はギャリーに懇切丁寧に教えてもらったのだ。結社で二人が初めて距離を縮めたのはその時だった。
 初めてセリカが経理部に現れた時、女好きで且つ過去の諸々から黒髪好きのギャリーは我先にと彼女のもとに駆け付け見事『共同作業』にもつれ込んだのである。その後もセリカが部屋に来る度にギルバートでもアルヴィでもなくギャリーが応対していたのは言うまでもなく、セリカがギャリーに対して人一倍砕けた態度を取っていたのは他のメンバーの誰よりも彼の人となりに触れる機会が多かったからであった。彼の存外誠実な内面にも人の感情の機微に聡いセリカが気付くのは時間の問題で、そしてそんな彼に惹かれて行くのも同様であったのだが。
「どっちだ…?兄貴らしさを感じたのか…その美味ぇ肉饅か……?」
 しかし、矢張りルーウィンは先程の二択でファイナルアンサーを迷っていた。そしてまた考え込み過ぎてしまい、ギャリーの話を聞いていなかった。
「──で、ここにハンコする前に一回俺と一緒に確認するから。説明良い?」
「すんません、聞いてませんっした」
「またかよ」
 先程よりほんの少し眉間に深く皺を寄せたギャリーはうっかりなのか、ぽろりと「まぁず、話くらいちゃんと聞きましょ」とこぼす。聞いた事のない訛り方にルーウィンは目を見開いた。
「お?お前へぇやっと俺の方向いたかい」
「え?え?えっと……ファンさん?随分面白ぇ訛りっすね!!」
「はぁ……田舎モンっぽくて嫌だであんま使わねぇがな」
「え!?何でっすか!?田舎バンザイでしょ!?格好良いじゃないっすか!?」
 自らもイコナの農村出身のルーウィンはギャリーの訛りに急にシンパシーを感じ興奮した様にマシンガントークを繰り出す。思いの外『格好良い』を熱弁されたギャリーも悪い気はしないのか、緊張から解き放たれた様にフッと笑うとルーウィンにくるりと背中を向けゴソゴソと冷蔵庫を漁った。そしてそれ・・を取り出すと、少し水を入れた容器に入れて電子レンジに投入した。
「ほれ、あっためてやるでこれ食ったらちゃんとやりましょ」
「あ!!それ包子ってやつっすね!」
「何だよ知ってんのか?俺も有名になったもんだな」
「そりゃー聞きますよ!!セリカさんがよく話してくれるんすもん!!何なら俺、今日その包子ちょっと貰えたら良いなーなんて期待しながら来たんすよ!」
 ギャリーは一瞬ぴたりと止まり、そして一呼吸の間を置いて再び表情を緩めた。そして愛おしそうに「セリカちゃんがか…」と口にするとルーウィンに向き直った。
「セリカちゃんが?俺の事話してたの?」
「はい!そーっすよ!セリカさん、俺に行かせる時も『ファンさんならきっと優しく教えてくれるので心配しなくて大丈夫ですぅ』って言ってたんでよっぽどファンさんって優しくて美味しい包子くれる人だって思って今日来たんすもん」
「ンだよ、包子に釣られて来たのかよー」
 そう言いつつもギャリーは嬉しそうにはにかんだ表情を見せた。
 今日の日付は七月十日。後一週間もすれば追悼式典。そしてセリカと過ごす為のホテルを予約した日だ。
 ただ自分の気持ちを改めて伝えるだけの日ではきっと無くて、彼女のこれまでの人生も愛した人も含めて全部受け入れたいとそこまで口にしたくなっていた。
 その予定を目前に感じて緊張と同時に高揚感に包まれていると、ルーウィンの期待の眼差しがこちらを向いている事に気付く。
 ルーウィンは今か今かと包子の温まりを待っていた。
 チン!と小気味の良いベルの音が鳴り響いたので電子レンジを開くと、中の包子はほかほかと美味しそうに湯気を上げていた。
「わぁー…美味そー……」
「俺の故郷の名物の入った包子だでね」
「名物?何が有名なんすか?」
「野沢菜って葉野菜だよ。漬物にして食べんだけど包子の中に入ってるとこれがまた美味ぇんだ。包子の生地も素朴な味でさ」
「お!俺野菜食えるっすよ!」
「え?イメージと違うな。てっきり『俺は肉一択っすね!』とか言うかと思ったぜ」
「あはは。そりゃ肉の方が好きっす。ウチでも牛育ててるから美味しく食ってやりてーって思うんすよ。でも近所で農家さんも居て色々野菜お裾分けしてもらったし、『この野菜はじいちゃん達が一所懸命育てたんだ』と思えば野菜に対する愛着も感謝も違うっつーか」
「ほぉ……若ぇのに良いセンスだ」
「ファンさんだって若いじゃないっすか!」
 妙なところでウマが合い、何だか仲良くやれそうな雰囲気を醸し出す二人。ギルバートもアルヴィも仕事をひと段落させてふと二人を見るとこれがあまりに楽しそうにしていた為少し首を傾げたが、ルーウィンがセリカと同じ第三小隊だと確認すると「あぁそうか」と妙に納得した。
 セリカとギャリーは少なくともギルバートやアルヴィが何かを勘付く・・・・・・空気を発している。そのセリカと同じ小隊で彼女と仲の良いルーウィンならば、それを分かっていてギャリーがどんな男なのか探ると言う意味で彼の事を知ろうと距離を縮めているのだと思うと、その打ち解けるスピード感にも納得が行った。
「ファンさんは良い人ですからね」
 何の気無しにポツリとアルヴィが呟く。ギルバートはふっと笑って頷くと、彼もまた同じ様に呟いた。
「まぁ、悪い男では無いな。ナンパな男ではあるが、社交辞令が過激なだけだ」
「最初は女性なら手当たり次第な方なのかと思ったんですけどね」
「いや、まぁ……実際最初はそうだったんだろ」
 最初こそ女性と見ると手当たり次第に声を掛けていたギャリー。きっと、『あわよくば』と言う気持ちありきでそうしていたに違いない。だがそんな彼は彼女──セリカと出会った。
 彼女に徐々に惹かれていったギャリーは、分かりやすく女性への声掛けが変化していった。
「歯の浮くセリフは相変わらずだがな」
「そうだね。でも、最初みたいな際どい事言わなくなった気がしますよね。何と言うか、女性に断られるのが前提と言うか」
「食事の誘いも二人ではなく大人数で行くものの話に切り替えたりとかな」
「良いなぁ……恋って人を変えるのかもしれません」
「…アレは変わったのか?」
「あ、いや…『元々満遍なく優しいファンさんがその優しさを全部ミカナギさんに向けようとした』が正しいですかね」
「アルヴィの説明は分かりやすいな。多分、それが正しいのだろう」
「あはは。『守るもののできた男は強い』ってやつかもしれませんね」
「まぁ、かく言う僕も誰か一人を想っているギャリーの方が好ましいな」
「ベネットさん、なかなか硬派だもんね」
「当たり前だ。手当たり次第なんて僕の柄じゃ無い」
 いつの間にか互いに互いを理解し合う様になっていた経理部男性陣。年齢も性格もバラバラな彼等は、この場が無ければ出会えなかった不思議な出会いをしみじみと振り返っていた。

 そして後日、セリカとギャリーの仲を聞いてルーウィンが声を上げる程酷く驚いている有様を見て、彼の鈍感度合いが予想を遥かに上回るものだった事をギルバートとアルヴィは悟る。
 まだまだ知らない事だらけ、まだまだ予想外の事だらけ。
「ルーウィン・ジャヴァリー……彼は見ていて気持ちが良いな」
「あはは。ベネットさん、意外と仲良くなれそうじゃない?年も近いし」
「……僕はあんなに猪突猛進か…?」
「疑わない素直さみたいな感じは負けてないですよ」
 マルフィ結社内での出会いに新たな可能性を見出した二人は今度はルーウィンも誘って拉麺ラーメン屋に行こうと画策するのだった。

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