Twitter創作企画「薄明のカンテ」のまとめ。世界観の説明に始まり、小説・イラスト・漫画・音楽その他、創作企画で生まれた作品を掲載する場所。

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#カンテ30題のまとめ��



Day.21 みつあみ

古今東西、男女問わず結われてきたスタンダードなヘアアレンジ。
可愛さか、懐かしさか。

三つ編みーー作・燐花

「むむむ……なかなか難しいのぅ……」
 鏡の中の己と見つめ合い、格闘する事三十分。
 斜めに曲がったりぐちゃぐちゃになったりと目も当てられない自分を見てエンマは溜息を吐いた。
 なりたい自分の理想図があるのに、そうあれないのが歯痒くて歯痒くて少しいつもの元気がなくなる。何をやっても中途半端に見える自分が嫌になった。
「あらぁ?エンマちゃん…?」
 その時、エンマにとって憧れの女性の声が耳を突く。勢いよく振り返ると、そこにはセリカ・ミカナギが居た。
「セ…セリカさん!!」
「今日和ぁ。エンマちゃん、どうなさったんですかぁ?」
「あ、あの…!!わら…わ、私…!!」
「あらぁ?今日のお髪は三つ編みですかぁ?」
「分かるのですか!?」
「ええ、勿論」
 格闘していたもの。納得の行かない自分の姿。それは、大好きなユーシンとお揃いにしたいと思って頑張ったけれど上手く結わえない三つ編みだった。
「でも…私、不器用で…」
「宜しければ、セリカが結って差し上げましょうかぁ?」
「よ、良いのですか!?」
「ええ、勿論ですぅ」
 透き通る様なセリカの白い指が色素の薄いエンマの髪に触れる。エンマはドキドキしながら鏡の中の自分を見つめた。
 大和撫子には足りない自分。まだ和装や言葉の雰囲気を好んでいるだけで、セリカの様に着物を着こなし上品に動ける訳では無い。でもいつか、いつか彼女の様に着物の着付けも容易く出来る様になって誰もが認める大和撫子になるのだ。
「はい、出来ましたよぅ」
 いつの間にか鏡の中にはユーシンの様にきっちりと三つ編みを垂らした自分が居た。エンマは目を輝かせてセリカにお礼を言う。
「あ、ありがとうございます!とっても綺麗です!」
「ふふふ、ただ三つ編みしただけなんですけどねぇ」
「いいえ!ただの三つ編みじゃないです!『セリカさんの三つ編み』はとっても綺麗な三つ編みなんです!!」
「本当ですかぁ?嬉しいですぅ」
 自分の結った三つ編みを嬉しそうに眺め、瞳をキラキラと輝かせるエンマにセリカはにこりと微笑む。こんなにも「嬉しい」と言う感情を心のままにあらわせられたら、きっとそれは素敵な事だなとセリカは羨む様に笑った。
「セリカさん!ありがとうございました!」
 笑って彼女に礼を言うと、浴衣の裾を少し持ち上げ小走りに駆け出す。調達班の待機場に行くと矢張り真面目な『彼』はもうそこで待っていた。
「ユ、ユーシン!!」
「ん?どうしたの?」
「あ、あの…!あの…妾…」
 一言、「三つ編み似合うでしょ?」と言えたらきっと良いのに。しかし、いつも彼の姿を見ると騒いでしまうのにこう言う時に限って言葉が出て来ない。
 嗚呼、憧れのセリカさんの様に大和撫子な言葉遣いが似合う女で在りたい。
「わ、妾その…ユーシンと…その、揃えた髪でその…!!」
 私今日の髪型、ユーシンとお揃いにしたくて三つ編みにしたの。
 きっと普通に言えばするりと出てくる言葉達。でも恥ずかしくて言えないから東國被りたい言葉達。結局東國被れになってもやっぱり恥ずかしい言葉達。
 そんなエンマの気持ちを知ってから知らずか、ユーシンは「あ!」と声を上げるとにっこり笑った。
「エンマちゃん、ぼくとお揃いだ」
「…そ、そうじゃな!」
「上手だねー!自分でやったの!?」
「あ、あ…いや、これは…」
「良いねー!今度ぼくの髪もやってね!!」
「も、勿論じゃ!!」
 きっとユーシンは社交辞令で「今度自分も」と言っただけ。分かってはいる。分かってはいるが、エンマは拳を握るとぐっと覚悟を決めた様に突き上げた。
「……れ、練習じゃ…!!三つ編みの…!!」
 いつか来るユーシンの髪結いに備え、憧れのセリカに頭を下げに行き三つ編みのやり方を教えて貰おうと思ったら「自分の髪では三つ編みするには長さが足りないから」と断られ結局その場に居たテディの髪を結う羽目になったエンマだった。
「……不服じゃ」
「ボクもセリカの頼みだからやってあげてるだけですぅー」
「……不服じゃ」
「痛タタタタ!!ちょっと!!ボクの綺麗な髪引っ張らないでくんない!?」
(Twitter)

Day.22 壁ドン

乙女の憧れ(イケメン限定)か、脅しの恐怖か。

あなたと壁ドンーー作・燐花

「えっと…こっちが医療班の診察室です!休憩室がこっちで──!!」
 ミアは気合が入っていた。今彼女が結社内を案内しているネビロス・ファウストは先日入社したばかりの男性だった。ケンズの悲劇の生き残りであるとか、一ヶ月まともに体を動かせていなかったとか、家族を亡くして居るだとか、あらゆる悲劇を背負っているかの様な彼なのでそんな彼の地雷を踏まないかと戦々恐々しているメンバーも居る中、ミアは別の理由で緊張し、故に気合が入っていた。
(ど、ど、どうしよう…!?変な子だって思われてないかな…!?)
 ミアはネビロスを一目見た瞬間、恋に落ちた音を聞いた。ミアも家族を喪った身、共通するところで惹かれたのかもしれないが、それ以上に彼の見目がミアの好みにピッタリとハマってしまったのだった。
 しかし、それ故に彼が慣れるまでの補助を任せられても緊張して打ち解けずにいた。そしてネビロスはネビロスで、まるで生きる気力の無い男だった。ミアはそんなところも「クールで格好良い!」と思っているかもしれないが、実際ネビロスの応対の覇気の無さは少し問題だった。
「あ、あの!ファウストさん!何かご不明な点はありますでしょうか!?」
 緊張の余り、変に大人ぶろうとして敬語が不慣れな感じになってしまう。
「…いいえ、大丈夫です」
 そしてネビロスは相変わらずだった。
 ミアは「またやってしまった!」と密かに内なる己にパンチを食らわせる。一日も早く彼が結社に慣れてくれたらと思うのに、本来名前で呼ぶ方が性に合ってるミアがまだ彼を名字でしか呼べていない。自分から壁を作る様ではどうするの!?と己に喝を入れながら階段を昇る間、何のきっかけで彼を名前で呼ぼうかと思案していた。
 そして昇り切って前に進もうとした時、足を縺れさせバランスを崩したミアの目の前に踊り場の壁が迫る。
「あっ!!」
 私、石頭だった様な。でも壁に正面からぶつかったら流石に痛いだろうなぁ。
 そんな事を呑気に考えつつも受け身が取れるわけもないミアは痛みを覚悟して目を瞑る。しかしいつまで経っても衝撃が来ず、目を開けた瞬間目の前がネビロスの顔でいっぱいだった。
「ネビロスさん!?」
「…フローレスさん、大丈夫ですか?」
 背後に壁、背中に回されたのは抱く様な彼の片手、目の前には彼の顔、そして彼のもう片方の手は距離を空ける様に壁を突く。
 これは俗に言う、『壁ドン』──…!?
「す、す、すみませんネビロスさん!」
「いいえ。怪我が無くて何よりです」
 自分を助ける時の彼は、今までの何より生き生きとした顔をしていた。目の前の人を助けなければと言う使命感に駆られていた気がする。もしかすると何かきっかけがあれば彼は元気を取り戻してくれるのかもしれない。
「あぁっ!!す、すみません!勝手に名前を…!」
「ああ…フローレスさん、実はファーストネームで呼ぶタイプでしたか?」
「はい…子供っぽいかな?って思って、苗字で呼ぶ様に頑張って居たんですが…!」
 そう言うとネビロスは結社に来て初めて笑みを見せた。ミアは、雷を一撃どころか二撃喰らう心地でそれを眺めていた。
「良いじゃないですか。無理に大人になる必要はありませんし」
「そ、そうですか?」
「ええ。貴女がそのままでいた方が自然でいれられるなら、その方が。実は私もファーストネームで呼ぶ派なんです。『ミア』と呼ばせていただいても?」
「……勿論です!!」
 この日からミアは、嬉しそうにネビロスの名前を呼ぶ様になった。そして壁ドンの事を思い出すのか、にやぁ…と顔を綻ばせる回数も増えた。
「…え?何だフローレス…そんなだらしない顔して…お前今過去一やばい顔してるぞ?」
「ルー君酷い!!」
(Twitter)

もう一つの壁ドンーー作・燐花

 ロード・マーシュの部屋は男子寮の喫煙所に程近い、人気の少ない奥まったところにある。今でこそそこは彼が居るくらいだが、少し前に彼の隣に住んでいた人間がいた。

 * * *

「ふふふふ…よし、完璧だ」
 綺麗に磨き上げた腕時計をウォールシェルフに並べ、にやりと笑みを浮かべるのは前線駆除班のゼン・ファルクマン。彼は大の時計好きでかつてはその蒐集範囲が目覚まし時計や壁掛け時計、置き時計にまで及んでいたが、結社の単身寮に移った今愛は腕時計に傾いている。過去にも壁が薄い以前の家で時計に関しては騒音トラブルになったりした苦い記憶があったのだ。若い頃から時計が趣味で集めた結果トラブルが続出。今の腕時計好きに収まってやっと喧嘩のない趣味となった。
「全く…しかし惜しい話だったな。あの置き時計の音色の良さも分からん貧民共め…」
 しかし本人は殆ど反省していない。未だにトラブルになった住人を貧民呼ばわりするくらいには時計への愛が盲目である。
 しかし、彼が愛しているのは勿論時計だけでは無い。
 時計を並べ終えるだけでほぼ一日の時間を費やしたゼンはテレビを点けると傍に置いてあったディスクを取り出す。パッケージには艶っぽい衣服に身を包んだ『いかにも』な女性の姿。所謂アダルトビデオである。
「……やっと、やっと解禁だ…物流の滞りの所為とは言え一週間も待たされるとはな」
 ゼンの顔は真剣そのもので、色々と準備をするとテレビ前にスタンバイした。
 兼ねてよりファンだった女優の新作とあらば発売日には手元に欲しい。しかし今はテロ後の混乱期。特に機械人形に比率が傾いていたこの国では物流が大ダメージを食らっているのはよく分かった。今のカンテ国の現状を考えるとどうしても気が滅入ってしまう。
 だからこそ、自分にやれる事をやらなければ。しかし何かを始めるにはそれ相応の栄養が必要であり、彼にとって一週間の激務の果てのご褒美とも言えるのがこのAVだった。
「矢張り『エロは世界を救う』だな」
 無言のままじっと見つめるゼンの目の前、テレビの中では女性が声を上げ続けている。
 と、ここでゼンは異変に気付いた。女性の声が二重に聞こえるのだ。
「ん…?」
 おかしいな、この作品複数プレイじゃなかったんだが。しかしその後も声は止まず、ゼンはとうとう自分の耳を疑った。渇望のし過ぎで幻聴でも聞こえる様になったかと一度テレビを消してみると、やはり聞こえて来る女性の声。これはこの部屋ではなく、隣だろうか。
「隣って言やぁ…人事のスーツか?」
 あの嫌に爽やかぶってるあの男か、とゼンは舌打ちを一つ。落ちぶれて以降彼は順調に行ってるイケメンが嫌いだ。しかし、その順調そうなイケメンでもAVなんぞ観るのか。しかもこんな音量で。
 何だか妙な仲間意識と微笑ましい気持ちが芽生えたところでゼンは注意すべく彼の部屋に向かった。女性の声が一度落ち着いた頃、つまり観終わったであろう頃を見計らって行った。
 ただ音量を少し控えめにお願いしに行くだけなのに、一回はそのまま邪魔せず気持ち良く観終えた頃に行ってやるなんて俺って優しい。
 そう思いながら出てくるのを待っていると、想像以上に髪を乱し、火照った顔のロードが現れた。
「おや、ファルクマンさん…?」
「夜分遅くにすまないねぇ。苦情って訳じゃないんだが、ちょっとボリュームを下げて欲しいと思ってな」
「え?ボリュームですか?何の…?」
「いやいやいや、隠さなくて良いよ。俺も男だし気持ちは分かるからね」
 あくまで俺は赦す側。そう思うと受け止めなければと言う気持ちも芽生えて来てゼンは些か寛容だ。しかし、その余裕も長くは続かなかった。
「ねぇロードくーん。タオルまだー?」
 甘ったるい女のタオルを求める声。シャワーを止めた音。ゼンは全てを理解した瞬間あっと言う間に仲間意識が殺意に変わる。
「ん?ボリューム…あぁ、すみません。彼女の声、聞こえてましたか」
 合間に笑うこの男の「うふふ」すら憎たらしい。こちとら一人画面内の女優を一週間の楽しみにしていたと言うのにこいつはあろう事か、あろう事か生身──!!
「生……!?」
「いえいえ流石にナマじゃしませんけど。声はわざとじゃないんでご勘弁ください。控えはしますんで」
 世の中には敢えて隣人に聞かせてやろうとする男は存在する。聞かせる事で燃える男も存在する。そうではないと言われたからと言ってこのやり場の無い怒りはどこにも消えてくれなかった。
 どころか、数時間後には声を抑えようとしているのかくぐもった声が聞こえて来てゼンは更に怒り狂った。控えめにする、と言うのはつまり声を漏らさぬよう努めると言う事か。
「…人がエロビデオで我慢してる横で何ちゃっかり2ラウンド目突入してんだチクショウ!!」
 ゼンは思い切り壁に拳を打ち付ける。壁ドン?騒音トラブル?知った事か!
 そして翌日、彼は寮の部屋を変えて欲しいと社内人事課に願い出た。
 俺は別に悲しくは無い。悔しくは無い。負けてなどいない。ただ部屋を変えるだけだ。

 この日からロードの周りは空室になったし、ゼンはロードが嫌いになった。

Day.23 餅

もっちりのびる平和的な食べ物。
忍び寄る影のような緊張感は裏の姿であろうか。

Day.24 戦闘��

守る為、護る為。失くしたものは幾つある。
否、数えるな。進め、切り拓かねば未来は来ない。

鉄腕論争

 トゥルルルル…トゥルルルル…とひっきりなしに電話が鳴る。ギロク博士のテロ以降、機械人形に関する訴訟が爆発的に増えて行き、それはこのドラクロワ法律事務所も同じだ。
 金色のウェーブした髪を一つに纏め気合を入れ直したアリスは、電話を取ると相手の話に耳を傾ける。残念ながら本当に困った顧客である事もあれば悪戯もしばしばで、今回はそのパターンだった。
「申し訳ございませんが以降こう言った事なされますと此方としては軍警に介入していただかなければならなくなり──…あ、切れた」
 もー!とアリスも受話器を叩き付ける様に戻す。そんな電話だけでも腹が立つのにもっと腹が立つのは目の前で自分にマグカップを差し出したまま突っ立っている男、ゼン・ファルクマンだった。今日は前髪を真ん中でばっくりと分けた彼は相変わらず腕時計だけがずば抜けて一流品で何だか腹が立つ。
「もー!ファルクマン先生!コーヒーくらい自分で淹れてくださいよ!!」
「これは君の仕事だろ?それにアレだ。君の淹れるコーヒーは格別に美味くてね」
「え?それは淹れる私が美人だからとか言います…?」
「いや?君みたく特にスタイルも良くなければ顔も凡々な平民と言う、ハードル馬鹿下がりしてる状態の人間が淹れるから美味いと錯覚するんだ」
「馬鹿にしてる!!」
「平々凡々な君が人に求められるだけ良いじゃ無いか。早く淹れたまえ。時給七百イリの仕事には俺のコーヒーを淹れるのも含まれてるんだから」
 アリスも分かっている。これはゼンのタチの悪い冗談だと。
「含まれてませんよ!私の仕事は事務です!相手にするのはファルクマン先生じゃなくて書類とお客様です!」
 そう言いながらも「君の淹れるコーヒーは美味い」と言われれば悪い気はせず、アリスは文句を言いながらマグカップを受け取りコーヒーを淹れてやった。
「最近増えてますね、機械人形に関する訴訟」
「ふん…どこぞの馬鹿が馬鹿な真似してくれたおかげでな」
「うちはたまたま定期メンテナンス出してた時で無事に帰って来たから良かったですけど、おかげでお客様の前にお茶運びすら出来なくなりました。中には恐怖症みたくなってしまった方も居て」
「こう言う事が起こるとこう言う流れは往々にして起こるな。怒りの矛先を誰に向けるか、この悲しみを引き起こしたのは誰なのかって敵を見付けたがる。一番はギロク。だが、ギロクが見付からない今そのギロクよりも更に元の元を辿ろうとする。製造元って言う、な?」
「……そのギロク博士も、今電子世界でちょっと意見が分かれてます。彼を最悪のテロリスト扱いする人間が大半ですが…彼の恋人の事故では誰も彼女を救おうとしなかった、だから情状酌量の余地があると…」
 その瞬間、ゼンはぴくりと不愉快そうに眉を動かす。そして酷く馬鹿にする様に顔を歪め溜息を吐いた。
「……ふん、『情状酌量』なんて馬鹿のくせに覚えたての単語を使うなよって話だ。本当こう言う事件があるとそう言う『頭良い自分』を演出したがる馬鹿が湧いて困るなぁー」
「でも…彼の恋人の件は…」
「何だ?君も同情にかまける馬鹿の一味か?辞めて欲しいねー本当」
「だって、愛した人に誰か手を差し伸べてくれていたらって彼の気持ちは分かりますもん」
「だから?だからあんな事件起こしても仕方ないってか?それが馬鹿だと言うんだ。『私毒親育ちなんです』『私親の介護に疲れたんです』『私先生に酷い目に遭わされたんです』そいつらがその対象を攻撃する内輪での事件であり、尚且つ被害者もその内輪の人間、それで居てそうせねば状況打破出来なかったかもしれない心理状況、そんな時に限り情状酌量と言う可能性が出る『かも』と言う話だよ。ギロクのした事が『可哀想に』で致し方無しになったらその理屈だとテロの遺族がギロクの家族を襲撃して良い事になってしまう。ギロクの件は当事者間同士ですら無い、奴の盛大な八つ当たりに巻き込まれた。それをな、憎むこそすれ憐れんで減刑を望むのは馬鹿だ。どんなに奴のバックグラウンドが憐憫で溢れてようがその矛先を無関係な人間に向けた時点でそいつは『その程度』の奴になる。ギロクも何もしなければ恋人を亡くした哀れな男で終わったんだ。少なくとも俺が裁判官なら情状酌量のじの字も出てこないね」
 ゼンは一息にそう言うとズズズ…とコーヒーを啜った。アリスは難しそうに眉根を寄せた。
「また難しい話ですね」
「何がだ?簡単な話じゃあないか。誰々にこう言う事やられました、と思っていながら関係ない人間に当たり散らして後から『実はこんな背景が…』ってその当たった人間と関係ない背景語られて『そうか可哀想だね』なんて誰が納得すると思う?不利益被らせて来た相手だぞ?ギロクも同じだ。『病気の恋人を救ってくれなかった』が理由であのテロだとして、被害を鑑みるにあいつにやられた人間の中には『ギロクの恋人が倒れた時全然関係ない場所に居て助け様も無ければそれを知る事すら出来なかった』って人間も含まれているぞ?そいつらは?ギロクの然るべき怒りにたまたま居合わせたなら被害に遭うもやむなしだったのか?」
「ち、違いますよ!」
「当たり前だ。そこで迷うようなら大ボスに許可取らずとも俺がこの場から摘み出してたよ」
 コーヒーの腕は惜しいがな。そう言いながらずずず…とコーヒーを啜る。するとまた一件電話が入る。アリスはそれを取ると最初こそにこやかに話していたが、その内苦い顔になり電話を切った。
「どうした?」
「『どこで太鼓を叩けば良いのか?』ですって…」
「は?」
「いや…例の結社の事ですよ…何故か噂になってるんです。『ナウム通りで猫の鳴き真似をすれば案内人に会える』って。今じゃ噂が一人歩きして、各街にそう言う噂があると思われててスラナも例外で無く…」
「馬鹿だねぇ」
「ちなみにスラナ版は『スラナで太鼓を叩くと案内人が現れる』です」
「何度も言うが実に馬鹿だねぇ」
 それはアリスも少しだけ知っている、アイドル「ディーヴァ×クアエダム」のシングル「スラナ音頭どんどこどん!」に由来する噂である。
「しかし結社…結社ねぇ…」
「ファルクマン先生…?何考えてるんですか?」
「いや?ちょっとばかし俺の知力を貸してやっても良いかもしれないと思ってな。ここも閑古鳥だし」
 そんな話をしていた次の日、「結社に行く」とゼンは宣言して休職届を持って来た為アリスは度肝を抜かれた。
「う、嘘でしょ!?早過ぎません!?結社って機械人形と闘う集団でしょ!?先生口喧嘩以外何も勝てる要素ないのに…!」
「失礼しちゃうな君は。俺はこの経験と肩書きを結社に提供してやろうとアプローチしたのさ。先陣切って戦闘する者の中にも頭脳派って必要だからね。と言うわけでしばらくの間大ボスの世話を頼むぞ、えーっと…」
 全く、『コーヒーだけが取り柄の凡人』呼ばわりばかりしているから自分の名前を忘れたな?
 そう睨んだアリスはむぅ…と頬を膨らませて声を上げた。
「アリスです!アリス・アームストロング!」
「え?君そんな強そうな名前だったっけ?」

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Day.25 ケーキ

可愛いらしい姿に甘い香り。
誰の心も惹き込んで離さない小悪魔的な魅力がある。

ユーシンとシュオニの場合――作・涼風

Day.26 青

空の青、海の青、宵闇の青。
青ざめる顔、若さの象徴、叶わぬ希望の象徴。

あお――作・べに

 テオフィルスにとって「青」は大事な色だ。
 己の深い蒼の目は母親が気に入っていたもので、そんなテオフィルスを嬉しそうに見つめる母の目はマリンブルー。仕事を始めて元締めから与えられた機械人形のナンネルは髪も瞳もペールブルーであったし、初めて観たアニメーションであり推しアニメでもある『海上の青い星』の主人公セーラ・マリン・ポラリスも深い海色の目をしていた。
 それと、かつては己が恋心を抱いていると思わなかったヴォイド・ホロウも。緑の混じったような不思議な色だが、彼女の瞳も美しく青い。
 そんなヴォイドに誕生日プレゼントに貰ったブローチを休憩所の蛍光灯の光に透かしながら、テオフィルスはそんな事を考えていた。
――そんな姿を青と緑が混じった様な目が見つめていた。
 しかし、それはヴォイドではない。
「何やってるの、テオフィルスさん」
「シキか。休憩だよ、休憩」
「ふーん」
 一瞬、ブローチを隠そうかとも思ったテオフィルスだったが、ヴォイドにプレゼントとしてブローチを貰った場所にシキが居合わせていたことを思い出して隠すことはしなかった。
「青って良い色だよなーって思って見てただけだからな。他意はないからな?」
 別にヴォイドを想って見ていたなんて事はないと言外に匂わせつつシキに言うと、これまた「ふーん」と分かったのか分かってないのか判別のつかない言葉がシキから上がった。
 そんなシキを見てポケットに大事にブローチをしまったテオフィルスは、代わりに自分の携帯型端末を手に取ってベンチから立ち上がる。
「お前、何飲む? 今日の俺は機嫌良いから奢ってやるよ」
「やりぃ。俺、これがいい」
 自動販売機の前でシキは即答だった。
 彼が指さした商品を見て、テオフィルスは唖然とする。
「『振って飲むプリン』?」
 こんな飲む人を限定しそうな商品が、この自動販売機に並んでいただろうか。それとも甘いものを好まないテオフィルスの視界に入らなかっただけだろうか。
「これ、先週やっと自販に入れられたやつなんだよね」
 満足そうな顔でシキが自動販売機のボタンを押すので、驚きつつもテオフィルスは携帯型端末で電子決済をする。ガコンッという音と共に出てきた『振って飲むプリン』を早々に口にしたシキは満足そうだ。
「そんだけ嬉しそうに飲むんじゃプリンを飲まれて本望だろうな」
 ベンチに座って飲んでいるシキの頭を思わずそう言ってテオフィルスは撫でる。そろそろ自分の休憩時間が終わりそうなので、そうしてそのまま部屋を出た。
 休憩所に残されたシキは。
「テオフィルスさん……俺の事好きなのかもしれない……」
 ジュース奢ってくれたし。頭撫でてきたし。
 とんでもない勘違いを胸に抱いていた。

Day.27 花束

嬉しい時、悲しい時、元気を出して欲しい時。
思い出の端っこのどこかにいつもそれはいる。

Day.28 別れ

無くすことは拾うため。ならば別れるのは出会うため?
そう思えば前を向けるのだろうか。

初恋との別れーー作・燐花

「ギルバート…あなた良い加減機嫌を直したらどうです?」
「……だって…」
「全く、セオドア君が男の子だったからと言って何ですか。いつまでもいつまでも臍を曲げて!」
 母の言葉に幼いギルバートはムッと顰めた顔の皺を更に深めて、そして少し泣きそうになりながら下を向いた。
 一目見て『可愛い』と思った子だった。
 以前家族で観に行った演劇の主人公がヒロインに言った「命を賭して守りたい!」と言う台詞を幼いながら理解した。
 この子を守り生きて行く為ならば僕は何を賭けても構わない。そう思っていた。
『あら、この子男の子よ?』
 一世一代の命懸けの告白は大人の無慈悲な一言によって一瞬にして砕け散った。
 失意のどん底に居た彼に更に追い討ちを掛ける様に、大人達は十二歳のギルバートを嘲笑った。

 え?あの子ベネットさんとこの?
 そうよ、ベネットさんとこの坊ちゃん。
 十二歳の子が七つも年下のあんな小さい子に…例えセオドア君が女の子だったとしても何と言うか、ちょっとそれだけ歳の離れた子にって良い趣味してるわね。
 そうよね、相手はまだ五歳だものね。女の子であってもねぇ?

 ただでさえ失恋の痛手を負ったギルバートに大人達の嘲笑は堪えた。大勢の前で告白をした自分も自分かもしれないが、それをあんな笑い話のネタにされるなんて。両親も庇ってくれないし未だに顔を見てクスクス笑う人間はいるし、もう恋をするのがトラウマになりそうだ。
「おい!ベネットが来たぞ!」
「男好きのベネットだ!」
「男同士でチューするのか?してみろよーベネットー!」
 次の日、早速クラスメイトから嫌な洗礼を受ける。ギルバートは恥ずかしさと惨めさで泣きそうになりながら無視を決め込んだ。しかし彼等は揶揄いの手を緩める気は無いようで、ギルバートが無視を続けてもあまり効果が無かった。
「なぁベネット!お前男とチューするのか?」
「うわ!気持ち悪ぃー!」
「男のどこが好きなのか言ってみろよー!」
 あまりにエスカレートして行く揶揄いに次第に耐えられなくなる。ギルバートは我慢していた物がプツンと切れた音を聞くと、席をガタンと立ち上がり大声を上げた。
「…うるさいうるさいうるさい!!僕はセオドアの事なんて好きでも何でもない!!むしろ嫌いなんだ!!」
 その時、ドアが大きくガンと音を鳴らす。目線を向ければそこには幼稚舎の子か、セーラー服を着た可愛らしい子が泣きそうな顔でギルバートを見ていた。揶揄って居た男子達も詳細は知らない、ギルバートしか彼が当事者であると知らない──セオドア・トンプソンは真っ赤な目を涙で潤ませながら彼を睨むと、どさりと絵本をその場に落として去って行った。
「何だ?あの子」
「幼稚舎の制服着てたね」
「可愛い子だったけど」
 それを見たギルバートは事の重大さに気付いてしまった。自分の貸した絵本を返しに来た彼の事を恥ずかしさから「嫌い」と言ってしまい、剰えそれを聞かれていたのだと。
「あ……」
 恋愛がトラウマになるかもしれない。そう思っていた彼の中で恋愛がトラウマになる事が確定した瞬間だった。
 さようなら恋心、さようなら純粋な日々。
 その後、父の急病により異性とも縁無く恋愛とも疎遠になりながら過ごしていたギルバートはテロの惨劇を目の当たりにする。機械人形をハウスメイドとして置いていたものの長らく使っていたからか直前に壊れてしまい、かと言って買い替える余裕も無く居た結果辛くも被害を免れたベネット家。
 そんなギルバートが結社を訪れ、赤い髪を高い位置で二つに結う姿の似合う今までにないタイプの女性に惚れ込み、トラウマとなっていた恋心が再び動き出したのは夏の暑い日だった。
(Twitter)

Day.29 赤

夕焼け、燃え盛る炎、流れる血液、魅惑の唇。
命を象徴するその色は何を語るのか。

喪失する、赤。――作・べに

「傍観者でありたかった/べに」の続きです。

「ほら、こうやればお団子が作れるのよ!」
「おおー」
 シリルの差し出した鏡に映る自分を見たウルリッカは感嘆の声を上げた。
 ミクリカでの事件のせいで失ったウルリッカの髪は結局、整えたら肩につくくらいの長さにまで短くなってしまった。今まで通りのポニーテールも出来なくはないが短くて切れたしっぽのようで違和感がすごい。
 しょぼくれたウルリッカに、やる気を出したのはシリルだった。
 短くなったウルリッカの髪でも出来る髪型で、ウルリッカの希望(身長を大きく見せたい)が叶うものをデータから導き出したのだ。
 それが今のウルリッカの髪型、お団子ヘアーである。
 カッチリと固めたお団子ではなくフワフワしているおかげで、ポニーテールよりも背が大きく見えるような気がしてウルリッカの機嫌は少しだけ良くなってきていた。さすが、シリル。オシャレ番長の名は飾りじゃない。
「ありがと、シリル」
「気に入った髪型が出来て良かったケド……全く、アルはドコに行ったのかしら!」
 シリルが憤慨するのも仕方がなかった。
 ウルリッカが帰還して凹んでいるのを慰めた後に、フラリと何処かへ行ってしまったのである。アルヴィは、あまりにもウルリッカの様子が酷くて呆れて出て行ってしまったのだろうか。あの兄に限ってはそんなことは無いだろうけども。
「ただいま」
 そんなタイミングでアルヴィが帰ってきた。
 文句を言おうとしたシリルとウルリッカだったが、アルヴィの顔を見た瞬間に全ての言語を失った。
「ウルちゃん、その髪型もかわいいね」
 そんな空気を読むことなくアルヴィは呑気に笑う。
「お、お兄ちゃん……?」
「ん?」
「アナタ、髪の毛どこにやったのよー!!」
 シリルが走り寄ってアルヴィの肩をぐわしっと掴むとガクガクと揺さぶりながら叫んだ。
「シリル! お兄ちゃん、死んじゃう」
「だってウルちゃん! アルの髪が無いのよ!?」
 シリルの言い方は語弊があった。
 別にアルヴィの鮮烈な赤色の髪が無くなったわけではない。
 単に物凄く短く切られているというだけの話だ。野暮ったい程にモッサリとしていた髪が無いので妙にスッキリしては見えるが。
 ウルリッカが髪を切られてションボリしているからと、自分も頭を丸めてきたということなのだろう。こんなに短く切られた髪のアルヴィはウルリッカの人生で初めて見た。
 別にそんな事までしなくて良いのにやってしまうのが兄クオリティだ。
 その愛情が重いけれど、今のウルリッカの心を晴らすには丁度いい。
「……ありがと」
 ウルリッカはシリルに揺さぶられていて何も聞こえないだろうアルヴィへ小さく呟いた。
(Twitter)

Day.30 願い

願う、希う。まだ見ぬ明日へ来るかもわからぬ明日へ願いを託す。
願いは未来への祈りだが、時に呪いともなる。

ミア概念コーデ――作・べに

Quand on prie la bonne étoile
(シャイニングニキ)

何事もない日常――作・べに

「パパ、お仕事いってらっしゃい!」
「ああ、行ってくるよ。オルヴォ先生、娘を宜しく頼みます」
「お任せください」
 そうして今日も聞き分けの良いリリアナは「保育部に行きたくない」と愚図ることなく先生のオルヴォと楽しそうに園内へと消えていく。少し位、自分と離れたくないと騒いでくれても良いなと一抹の寂しさを抱きつつも、手のかからない娘に安心してリアムは職場へと向かった。
「おはようございますぅ、シュミットさん。コーヒー飲みます?」
 職場に着いたリアムを迎えたのはコーヒーポット片手に問い掛けるユリアだった。既にユリアにコーヒーを入れて貰ったであろう同僚陣は何やら素晴らしいものを貰った子供のように噛み締めるように飲んでいる。
「ああ、貰えるか?」
 一見すると男に媚びているとも思える彼女の行動だが、こういった事で職場のモチベーションが上がるものである。おそらくユリアはそれを計算して行動しているのだろう。彼女はそういう女だ。
 ユリアに淹れて貰ったコーヒーを飲みつつ総務の書類に目を通す。前職のプログラマーとは全く違う職種であるが状況を分析して最適解を導き出す点では同じともいえて、悪い仕事ではないと思う。
 それに前職と違い残業が殆ど無いのも子育てをする面で最高である。血の繋がらない娘であっても娘は娘。リリアナの幸せが自分の幸せだ。
「おはようございます」
 カフェオレとコーヒーのような目をしたフィオナがユリアに淹れてもらったであろうコーヒーの入ったマグカップ片手にデスクに着く。彼女は微糖派だ。
「おはようございます」
 若さ溢れるセーラー服でクロエが席に着く。彼女の手にはマグカップではなく牛乳の小瓶があった。彼女は純然たる牛乳派だ。
 総務部の部屋中に漂うコーヒーの香り。
 そんな平和なコーヒーの香りを満喫しながら、今日も平和な日が続く事をリアムは願わざるえなかった。

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